第72話 ストーカー出現!?
その日の夜。
夜ご飯を食べ終えた私は、自室で学校の宿題に取り掛かる。
数学の問題を解きながら、ふと蜜柑と一緒に帰っていた時のことを思い返した。
「あ、あれが……九条ひなみちゃん……」
あの声は、間違いなく男性だったと思う。声音はとても低くて、どこか怪しい感じだった。
蜜柑は聞こえなかったと言っていたけど、でもやっぱりどこかおかしい。声だけではなく、気配もしっかり感じた。
あの不気味な声の正体って一体……。
あー、ダメ。今は勉強に集中しないと! 余計なことは考えない!
私はシャーペンを強く握りながら、再度問題文を読みノートに計算式を書き始める。
一度計算式を思い浮かべて書き始めると、雑念が頭から消えて問題に没頭できた。
そして二十分ぐらいが経ち、宿題となっていた問題を全て解き終わることができた。
「ふぅー。終わったー!」
私は椅子に座りながら、グッと体を伸ばす。時計を見ると、まだ九時半だった。宿題も終えたし、可愛い柴犬の動画でも見て、疲れを癒そうかな。
私はベッドに置いておいたスマホを取り、パスワードを入力しようとした、その時だ。
ピロンッ!
通知音が突然なり出した。どこのアプリの通知なのかを確認すると、インスタからだった。しかも送り主は知り合いではなく、全くの無関係な人から。フォロワー以外からのDMだった。
「また変な勧誘とかのメッセージかな?」
地下鉄通り魔事件をきっかけに、私のフォロワーは凄まじい速さで増加してしまった。それに比例して、変な勧誘やアンチからの嫌がらせ行為が、時々DMに届く。
今日もきっとその類いだろうと思っていたのだけど。
メッセージ内容を確認した途端、スマホを持つ手が、いや、体全体が震えてしまい絶句した。
な、何この内容は……。一体どういうこと⁉
恐怖のあまり言葉が出ない。だって、突然送られてきたメッセージには、こう書かれていたから。
『ひなみちゃんへ
今日は話せなかったけど、また近いうちに会いに行くね。楽しみにしていてね。いつか遊ぼうね』
う、嘘でしょ……。なにこれ……。
このメッセージがどこに誰から送られてきたのかは分からない。アカウントプロフィールを見る限り、特に何も記載されていないから、連絡用に作られた捨てアカウントだと思う。
でも、この内容って……。
やっぱり私が聞いたあの声は、幻聴じゃなかった……!
ということは変な人に嗅ぎまわられているってこと⁉
で、でもどうして⁉ まさか……。まさかとは思うけど……。
これって、ストーカーってこと?
下校時間を狙って私の後を追い、そしてこのメッセージを送るなんて、ストーカー以外考えられない。
何の目的で私に近づいてきたのか分からないけど、ストーカーに違いない。
ど、どうしよう!
それに、『いつか遊ぼうね』ってことは……。
もしかして、私の家も特定されているの⁉
私は恐怖のあまり、スマホを床に落としてしまった。言葉が喉から出ない。怖くて鳥肌が止まらない。
ありえる。蜜柑と帰っていた時から尾行していたというなら、家を特定されていてもおかしくはない。
もしかしたら、このメッセージを送ってきたストーカーが、今家の外にいるかもしれない。
怖い。で、でも確認しないと!
私は震える体をどうにか動かし、カーテンをギュッと握る。
そしてカーテンを少しだけ開けて、窓の外そっと覗いて見る。すると、窓から見える数本の電通の影に。
男性らしき人物の影が、うっすらとだが確認することができた。
影が目に入った瞬間、私はカーテンをすぐに閉め、その場でかがみこんでしまった。
いた。いた! いた‼
街灯に照らされていたとはいえ、ここからだと少し距離があるからはっきりと見えなかったけど。
誰かが電柱の裏にいた。こちらをジッと覗いていた。
こ、怖い! どうしよう!
私がブルブルと震えていると、突然部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「おーい。ひなみ。そういえば食後にデザートあるのを忘れていたんだけど、食べるー? あ、それとも今勉強中か?」
お母さんはそう言いながら、ゆっくりと私の部屋のドアを開ける。そして窓の傍でうずくまっている私を見ると、すぐさま駆け寄ってきた。
「お、おい! ひなみどうした⁉ お腹でも痛いのか⁉ それとも気分でも悪いのか⁉」
お母さんの言葉に一安心したためか、私の目から涙が少しだけ流れ落ちる。
それを見たお母さんはますますパニックになっていった。
「本当にどうしたの⁉ 学校で何か嫌なことでもあったの⁉ お母さんに何でも話してごらん!」
私は震える唇で、お母さんに先ほどあった出来事を全て伝えた。
今日の夕方、蜜柑と帰っている時不審な声が聞こえたこと。
そしてインスタに変なDMが届くと共に、家のすぐ近くにある電柱に誰かがいたこと。
全てを伝えると、お母さんは顔色を変えて、目を鋭くした。
「よし、ひなみ。今お父さんいないけど、お母さんが外に行って、様子を見て来るよ」
「だ、ダメだよ、一人じゃ!」
「大丈夫。何かあったらすぐ戻って来るから!」
「で、でも……」
「もしものことがあったら、ひなみだけじゃなくて蜜柑も危ないでしょ? 今のうちに確認しておかないと。大丈夫だから、ね?」
「う、うん。分かった。お母さん……」
私が渋々承諾すると、お母さんは優しく頭を撫でてくれた。
私が外に出るのは危ないため、せめて玄関までお母さんを見送ることにした。それぐらいのことは、どうしてもしたかった。
玄関で靴を履き終えたお母さんは、静かに鍵を開ける。
「何かあったら、すぐに警察に電話すること。いいね?」
「う、うん……」
私が頷くと、お母さんはゆっくりとドアを開け、外に出て行ってしまった。
私はお母さんの無事を祈りながら、ずっと玄関の傍で待つこと五分。
ガチャリッ!
締めたドアの鍵が回る音が聞こえた。
そしてゆっくりとドアが開くと、目の前には怪しい男、ではなく私のお母さんが立っていた。
お母さんの顔を見た瞬間、ホッと一安心して深く息を吐き出した。
「お、お母さん、大丈夫だった……? 何もされてない?」
「大丈夫だよ、ひなみ。お母さん、周りを見て歩いたんだけど、怪しい人なんてどこにもいなかったよ?」
「ほ、本当⁉ 本当に何もなかったの?」
「うん。大丈夫だったよ」
「で、でも私、確かに見たの! 向かいの家に変な影が!」
私がつい大声を出すと、お母さんは何故かクスッと笑い出した。
「あー、あれね。確かに電柱の傍に人がいたけど、随分と若いお姉さんだったよ。多分ひなみと同い年じゃないかな? 向かいの家の彼女さんだと思うよ。電話をしていたから、親に迎えに来てもらう様に伝えていたんじゃないかな?」
「ほ、本当⁉ 男の人じゃなかったの⁉」
「うん。どこの高校かは分からないけど、制服を着ていたし、あの見た目だと、とても女装しているようには見えなかったよ」
「そっか……」
じゃあ、あれはただ単純に私の勘違いだったのかな?
変なDMが届いて、外を確認したら人影が。でもそれは、向かいに住む息子さんの彼女さんだった。
やっぱり、私が変に気にしすぎたかな……。
「ひなみ。さっきのDMや、今日の帰りのことで不安になる気持ちは分かるよ。でもうちには防犯カシステムがあるし、カメラも付いている。だから、怪しい人が深夜に入ってきてもすぐにバレる。心配ないよ」
「お母さん……」
「今日のことは散々だったけど、しばらく様子を見よう。今日みたいなことが立て続けに起きたら、警察に相談しなきゃだけど、まだ本当にストーカーがいると決まったわけじゃない」
「う、うん。分かった」
「家の周りに不審者はいなかったから、今日はもう寝なさい。何かあったら、すぐに助けを呼ぶんだよ?」
「分かった、お母さん。ありがとうね、わざわざ外にまで出てもらって」
私が下を向きながらそう言うと、お母さんはもう一度そっと頭を撫でてくれた。
「ひなみは私の娘なんだ。どんな時でも、お母さんは味方なんだから。だから大丈夫だよ。一応、今日のことはお父さんにも後で話しておくから」
「うん」
私は顔を上げてお母さんの優しい笑顔を見ると、少しだけ元気が出てきた。
お母さんの言う通り、本当にストーカーがいると決まったわけではない。もしかしたら、アンチの人がただ嫌がらせで行っているだけかもしれない。
今日はもう寝よう。宿題も終わったし。
私は最後にお母さんにギュッとハグをしてもらい、そのまま部屋に戻って、眠りについた。
◇◇◇◇
「それでね、古井ちゃん、昨日こういうことがあって……」
「なるほど。確かにそれは不安ね。話してくれてありがとう」
「ううん。むしろお礼を言うのは私の方だよ。こんな重い話を聞いてくれてありがとね」
次の日の昼食。
私は屋上に古井ちゃんを呼び、昨日の事件について相談をした。
蜜柑と帰っている時、怪しい声と人の気配を感じたこと。そして、意味深なDMについてなど。
本来なら担任の先生とか、大人に相談するべきかもしれないけど、古井ちゃんの方がよっぽど力になってくると思って、相談をした。
「ひなみ、一つ聞きたいのだけど、そういった嫌がらせ行為は前から受けていたの? それとも最近?」
「昨日からかな……。前々からアンチの人から酷いDMみたいなのはよく来ていたけど、こういうタイプは昨日が初めて」
「なるほど……。相手の目的はまだ分からないけど、ストーカーの可能性が個人的に高いわね」
「や、やっぱりそうだよね……」
古井ちゃんの口から『ストーカー』という言葉が出てきた時、私は改めて恐怖を感じた。
私を尾行して、突然声をかけて、DMをして……。
こういった行動をする人は、ストーカーである可能性が高い。
それぐらい私にだって分かっていたけど、それでも少しは違う可能性を信じていた。
きっとストーカーじゃない。アンチかもしれない。
そう思いたかった。信じたかったけど、やっぱりストーカーの方が辻褄が合うよね。
「ひなみ、心当たりがある人とかいる……?」
「ごめん。分からない。私、あんまり異性の知り合いがいないから……。あ、もしかして、草柳さんとか?」
「可能性はない、とは言い切れないけど、私は違うと思うわ。だって、あれだけ周囲から注目されておきながら、最後の最後に自分の本性がバレたのよ? もうこりごりしているだろうし、二度とひなみに近づかないと、約束もしたはず。彼は容疑者から外してもいいと思うわ」
「そっか。じゃあ本当に分からないよ。私、中学時代から周りに女の子しかいなかったし、今は男子もクラスにいるけど、涼君以外とあまり話したことがない。心当たりがないよ」
「となると、恐らくひなみに一方的な好意を抱いている第三者。つまり、一度も会ったことがない人の可能性が高いかもしれないわ」
「私をネットで知って、それでストーカーになったってこと?」
「かもしれないわ」
あの日——地下鉄通り魔に関する街頭インタビューを受け、私はネットを中心にバズってしまった。
良いこともあったけど、正直デメリットの方が大きかったかもしれない。
私がインタビューに応じている画像がネット上に流出。その結果、不特定多数の人の目に留まり、結果ストーカーにまで繋がってしまった。
これじゃあ、日本人全員、ううん。世界中の人が容疑者になる。誰が容疑者なのかも分からない。
「古井ちゃん、私どうしたらいいのかな? 警察に相談した方が?」
私がそう聞くと、古井ちゃんは首を横に振った。
「無理よ。被害が出ないと警察は動けないの。警察が動く時は、基本的に事件が起きてから。起きる前に動くことは稀なの。だからこの件を相談しても、夜道は一人で帰らないでね、ぐらいの注意で終わると思うわ」
「そ、そっか……。やっぱりそうだよね。何もまだ被害が出ていないから、警察も動けないよね」
実質的な被害、例えば暴力を振るわれたとか、ネット上に個人情報などを暴露された、などのことはされていない。
古井ちゃんの言う通り、相談しても聞き流されるだけかも。
私が暗い顔をして下を向いていると、古井ちゃんが優しい力で手を握ってくれた。
「大丈夫よ、ひなみ。私がいるもの。何があっても守るし、ひなみのことを信じている。今話してくれたことだって、嘘じゃないって分かるから。だから一人で悩まないで?」
「古井ちゃん……」
古井ちゃんは私の手を握りながら、優しく微笑んでくれた。まるで私を安心させる様に。
そうだ。私にだって古井ちゃんがいる。他の皆もいる。
一人じゃないんだ。
「夏休みに入るまでの残り一週間は、私達と登下校を共にしましょう。蜜柑ちゃんのお迎えの時とかも、誰かしらついていくようにするから。二人以上で行動を共にしていれば、相手もそう簡単には近づけないだろうし、もしかしたらそのうち、ストーカー行為を諦めるかもしれないから」
「そうだね。一人にならない様に意識するね」
「ええ。何かあったら、またすぐに相談してね、ひなみ」
「分かった。ありがとう、古井ちゃん」
「別にいいわよ。あと、この話はこれ以上誰にも言わないで」
「え? 誰にも?」
「そうよ。噂はすぐに出回る。ストーカーに狙われていることが周囲に知れ渡れば、余計な混乱やパニックを招くだけ。必要以上に周囲に言う必要はないわ」
「そうだよね。うん。分かった! ありがとう、古井ちゃん!」
「別にいいわよ。だってひなみは私の……友達だから」
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