第68話 友里の気持ち

 嘘……でしょう。

 まさか涼がひなみを助けた英雄だったなんて、全く気が付かなかった!

 打ち上げに誘おうと後を付けていたら、まさかこんなことになるなんて。


 どうして古井っちが涼の正体を知っているのかは分からないけど、それでも二人は協力して草柳からひなみを守っていたんだ。

 涼がどうして最後のリレーをボロボロになりながら走ったのかも、理解ができた。

 ひなみを守るためだったんだ。


 こんなにも近くに英雄がいたなんて、驚きだよ。

 でも、どうしてひなみに名乗り出ないんだろう……。


 何か深いわけでもあるのかな。

 ああ、何かすごいことを聞いちゃったよ! どうすればいいの⁉


 多分盗み聞ぎしていたことはバレてないと思うから、知らんぷりな顔をして涼を誘えばいいのかな?

 でも逆に緊張しちゃうよ。本物の英雄を前に上手くポーカーフェイス出来るかな。

 はぁ~。どうすればいいんだろう。

 私は校舎裏からだいぶ離れことを確認すると、グランド内を歩き始める。


 周りを見てみると、体育祭マジックによりリア充になった人達で溢れ返っていた。

 うぅ……。羨ましいな……。私も早くリア充になりたい。

 そんな彼らを横目にため息交じりで歩いていると、後ろからこんな声が聞こえた。


「あ、あのひなみさん! もしよかったら俺達の打ち上げに来てください!」


「お、俺も! 九条さんと仲良くなりたい!」


「九条さん! 僕とぜひ!」


「み、皆さん! お、落ち着いて下さい!」


 多数の男子生徒と、彼らに言い寄られ苦笑いを浮かべるひなみがいた。

 ああ、大変そうだな。ひなみ。

 多分十人近くはいるよね。これだけの人に誘われるなんて、ちょっと羨ましいな。

 まあ、MVPに選ばれるほど注目されたいたわけだし、こうなるのも不自然ではないか。


 私も人のことを気にするより、自分のことを考えないと。

 私も勇気を振り絞って涼に連絡を……。

 スマホでメッセージを送ろうと思ったのだが、何故か手が動かなかった。


 どうしても、涼とひなみの関係が頭から離れなかった。


 涼はずっと正体を隠しながらひなみを影から守っていた。

 古井さん以外に正体を打ち上げず、一人で頑張ってひなみを守っていた。

 一方ひなみは、偽物に騙されたとはいえ、今も本物を探している。

 二人はこんなにも近くにいるのに、交わることはない。


 これで良いのかな……。


 だって、涼は今日一日頑張ってひなみを守った。守り抜いた。なのに誰からも称賛されずこのまま家に帰るなんて、いくらなんでも……。

 それにひなみも、恩人に会いたがっているはず。

 この二人の関係を知って、私だけ良い思いをして良いのかな? 

 そう考えていると、私は自然とスマホの画面を閉じていた。


 どうしても無視できない。

 私は涼のことが好きだ。大好きだ。

 でも、それでもさ。


 頑張ったんだから、ご褒美ぐらいあってもいいはずだよ。このまま私だけが良いところ取りしても、何も嬉しくない。


 あの二人の会話を聞いてしまった以上、私にだってやるべきことがある。

 このまま私だけ幸せになるのは間違いだ!

 スマホをズボンのポケットに入れると、私はひなみに群がっている男子学生達の中にズカズカと入っていく。

 そしてひなみの前にたどり着くと、私は彼女の手を握りしめる。


「えっ? 友里? どうしたの急に?」


 驚くひなみを無視しながら、私は群がっている男子学生達にこんな言葉をかける。


「いや~、皆さんすみません~。実はひなみを連れてくるように先生に言われていまして。だからちょっとお借りしますね!」


 勿論嘘だ。ひなみは先生に呼び出されていない。でもこの場を抜けるには持って来いの口実だと思ったから、つい口から出てしまった。


「それじゃひなみ! 行こうか!」


「え⁉ あ、ちょっと友里⁉」


 困惑するひなみだが、それでも私は強引に手を引っ張り、連れだした。


「あ、ひなみさん!」


「ちょっと!」


「そ、そんなー。今じゃなくてもいいじゃないか」


 こんな感じの声が後ろから聞こえたけど、私は全部無視して真っ直ぐ走り出す。

 ごめんね、ひなみ。ちょっと強引になっちゃって。でもこうでもしない限り、あの場からは抜け出せない気がするの。


 男子学生達からだいぶ離れた所まで走ると、私は足を止め握っている手を静かに離した。

 ここまで来れば、もう追ってこないだろうし、大丈夫でしょ。


「ごめんね、ひなみ~。無理やり連れだしちゃってさ」


 私は後頭部をかきながら、苦笑いを浮かべる。怒られるかなって思っていたけど、実際はそうでもなかった。


「ううん。大丈夫だよ。ちょっと私も困っていたから助かった。ありがとう。それで先生にどうして私が呼び出されたの?」


 純粋な目を向けるひなみに対し、私も正直に本音をぶつける。


「いや~、実は呼び出しは嘘なんだよね~。ひなみに頼みたいことがあってさ」


「頼みたいこと?」


「うん……。じ、実はさ。涼がもうそろそろしたら帰るみたいなんだ。もし良かったら……。ひなみ、涼をこの後の打ち上げに誘って欲しい」


「え? 私が?」


「うん。ひなみが涼を支えてあげて。あんなに頑張ったのに、あのまま帰らせちゃうのはダメだよ」


「で、でも友里は涼君のこと……」


「私のことはいいからさ。ひなみのことを影からサポートしてくれたのは涼だよ? 選抜リレーとか騎馬戦とか、凄いサポートしてくれてたじゃん。だからさ、ね?」


 今ここでひなみに正体を言っても良かったかもしれない。そうした方が、偽物が消えて、本物が現れる最高のシチュエーションになるだろうし。

 でも……。涼に何があったのかは分からないけど、あの会話を聞く限り、正体を隠し通したいらしい。


 だから私が涼の気持ちを尊重しないで全てを言うのはダメだよ。


 今の私にできることは、この二人をどうにかペアにさせること。

 涼は影から頑張っていたんだ。あのまま何もなく帰らせたくない。

 私の親友を守ってくれたんだから、せめてこれぐらいの恩返しはしたい。

 大人になって振り返った時に、『高一の体育祭は楽しかった』って言って欲しい。


 私の勝手な行動かもしれないけど、それでも涼には楽しんで欲しい。

 私はひなみを真っ直ぐに、真剣に見つめる。すると、私の想いが届いたのか、ひなみは口角を上げた。


「そっか……。うん! 分かった! 声をかけてみる!」


「さっすがひなみ! 涼は多分正門付近にいると思うから、早く行ってあげて!」


「ありがとう! じゃあ今すぐに行くね!」


「だね! 涼のことよろしく!」


 私がひなみに向けて親指を立てると、合図になったのか、ひなみは体の向きを変え正門に向かって走り出した。

 私は走っていくひなみの背中を後ろから見つめる。どんどん遠くなっていく。

 私ができることはここまでかな。今の私にできるのはこれぐらいだよ。


 涼はボロボロになりながらひなみを守っていた。頑張っていた。ここで私が涼を取ったら、なんだかフェアじゃないよね。

 だから今回はひなみに譲る。頑張って。

 けど、今後はもう譲らないよ。私だって頑張りたいもん!


――――

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