第67話 草柳、散る
『九条の野郎は馬鹿だからな。俺みたいな奴にアタックされれば堕ちるのは時間の問題。この体育祭で距離を詰め、活躍しているところを見せた後……あいつの体で遊んでやろうと思ったが、まだ少し先になりそうだ。これも全部あいつのせいだ!』
『まあ、体育祭が終わったら、夏休みに入るんだ。誰にも邪魔されず計画を進められるはずだ』
『体育祭では逃したが、次はない。必ず九条を堕とし、そしてあいつの傍にいる女達も全員俺が喰う。逃がしはしねぇ。勿論、今後も俺に協力するよな?』
『あ、ああ。俺にも分けてくれるって話だよな。お前は堕とした女を俺達にいつも回してくれる。協力しないわけないだろ? 今回はダメだったが、次は必ずあの子達を堕として、楽しもう』
これが、ひなみが再生した草柳達の会話だ。
再生が終わる頃には、ざわついていた全校生徒は誰一人として喋らなかった。
特に女性陣サイドの反応は酷く、泣く者まで現れた。
草柳は校外で人気な男子生徒であり、容姿端麗で運動神経抜群。
好かれる要素しかなかったが、その裏側をたった今暴露されてしまった。
『これが、草柳さんの本性です。ずっと私のことを狙っていたんです。それも恋愛ではなく、性的な感情で。この会話を聞いた時、心の底から苦しかった。だから、私は……あなたのことが心の底から嫌いです』
強く言い切ると、ひなみはマイクを華先生に渡し、元の場所へと戻っていった。
それと共に、
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
草柳が崩れ落ちる音が俺の耳にハッキリと届いた。
◇◇◇◇
体育祭の結果発表が終わり、これからクラスで打ち上げが行われる。
参加する学生達が皆準備を進める中、俺と古井さんだけ、校舎裏でひっそりと密会していた。
打ち上げが始まるまでの間、今日あった出来事について話を進めている。
「まさか、ひなみが自発的に草柳の正体に気が付くとは。神様に助けられたわね」
「確かに。俺達よりも早く証拠を手に入れるとは驚いたよ」
俺達の作戦は、草柳とひなみが体育祭でくっ付くことを阻止すること。
その後のことについては、後々考えようとしていたが、状況が変わった。ひなみ本人が草柳の正体を見破り、そして全校生徒にクズ野郎だと告白した。
まさかこんなことになるとは本当考えてもいなかった。
ちなみに草柳はあの後、物凄い大バッシングを受けていた。
「よくも騙したな!」
「卑怯者!」
「最低なクズ男!」
と、四方八方から攻められ、いつもの爽やかな笑顔が、ぐちゃぐちゃになるほど泣きじゃくっていた。
ひなみを騙し、皆の心を利用した代償はデカい。信用と友達、仲間全てを失ったに等しい。
今は星林高校の校長室で、あの会話の内容について、尋問されている。
あれだけ騒がせたんだから、『すみません』の一言で終わるわけがない。
多分、停学か最悪の場合退学になるかもしれないな。
「古井さんがひなみに何か言ったのかと思っていたけど、実際は違うんだよね?」
「ええ。私は何もしていないわ」
古井さんはその後も続ける。
「ひなみと草柳がくっ付く心配はなくなったわ。これでひとまず安心できるけど、君……。足の方は平気なの? 最後のリレーの時は相当痛がっていたけど」
古井さんは俺の右足に目を向ける。
今も痛みがするけど、俺は心配かけないように、笑顔を見せた。
「平気だよ。ちょっと足を踏まれただけだから」
「ふぅーん。そう。この後の打ち上げは参加できそうなの?」
「参加はしないかな」
「……え? 参加しないの? どうして? 皆参加すると思うわよ」
「参加したいが、この足だからさ。ちょっときつい。それも疲れたよ。俺はもう帰るかな」
「でも一年に一度の体育祭よ。出た方が良いんじゃないかしら?」
「俺達の当初の目標は達成できたんだ。だからもういいかなって」
「……そう。まあ無理に参加しろとは言わないけど」
古井さんは納得しない顔を浮かべる。てっきり強引に参加させるのかと思っていたから、この対応はちょっと意外だ。
「さて、準備したらここを出ようかな。参加しないのにここにいてもしょうがないし。あ、そうだ古井さん。最後に一ついい?」
「何かしら?」
ちょっとだけ間をおいた後、心がムズムズする感覚に襲われながらも、俺はしっかりと古井さんの目を見た。
「……本当ありがとうな。古井さんがいなかったら、ここまで上手くいっていなかったよ。助かった。ありがとう」
古井さんが協力してくれたからこそ、ここまでこれたと思う。大変なことや、いじられたこともあったけど、それでも古井さんがいなかったら、本当にダメだったと思う。
だから、感謝の言葉を送ったのだ。
俺の言葉を聞いた古井さんは、ポッと耳を真っ赤にした。そのままプイッと顔を横に向け、口調を乱した。
「べ、別にこれぐらい当たり前よ! な、何急に言ってんのよ! こ、このバカッ!」
うわー、やっぱり古井さんは褒めに弱い。絶対に弱い。
これは大きな収穫だ。やはり古井さんは褒められるとつい照れてしまうんだな。
「こりゃ古井さんの弱点を一つみっけ! いつもいじられているから、今度仕返ししてやる!」
俺が少しだけ勝ちを確信したと思ったら、顔を真っ赤にしていた古井さんが、急に元に戻った。と同時に、辺り一帯の空気が冷たくなる。
「は? 殺すぞ? 社会的な意味で」
「あ、はい。すみません……」
やっぱりこの人怖い! 何その目! まるで猛獣じゃねぇか! 調子に乗るなよって言っているのが伝わってくる。
切り替え早いな本当。
「ま、まあそういうことだから、俺はとりあえず、準備したら帰るよ」
このままここにいたら命が危ないと思い、俺は立ち去ろうとする。
すると、古井さんが俺の手を突然掴み、動きを封じた。古井さんの柔らかい手の感触が脳に伝わる。
「ど、どうしたの古井さん?」
「私も最後に一ついいかしら?」
古井さんは俺の反応を無視しながら、こんな質問を投げかける。
「通り魔から守った英雄だと、名乗り出なくてもいいの?」
「……え? どういうこと?」
「だって、草柳がクズ野郎だと分かったのよ? 名乗るなら今が絶好のチャンスでもある。この機を逃せば、もうこんなチャンスはないわ。だって、ひなみを草柳から守っていたのよ? ひなみがあの会話を聞いていたということは、守られていたと、きっと気づいているはず。本当に良いの? 救えなかった友達のことも分かるけど、自分が本物だって一生隠し通すの?」
確かに古井さんの言う通りだ。
あいつの本性が暴露された今、正体を打ち明かすチャンスかもしれない。
これを逃せばもう無理だ。俺が本物だと名乗っても誰も信じないだろう。でも……。それでも。
俺は正体を隠し通し続ける。
「ひなみは皆を照らす光だよ」
「え?」
「ひなみは明るくて可愛くて、誰からも好かれる。皆を明るくさせてくれる存在だ。だから俺は……。彼女が照らす光の影で良い。影から支えられればそれでいい。だからこのまま、影から守るポジションで良いんだ」
俺がそう言うと、古井さんは納得したのかゆっくりと手を離してくれた。
「そう。分かったわ。これからもあの子のことをよろしく、影のヒーローさん」
「ああ。じゃあまた」
俺はその後古井さんの元を離れていった。
俺の役目は終わりだ。あとはもう、家でゆっくりするだけだ。
古井と涼。この二人は周囲に聞かれないように、ひっそりと校舎裏で話をしていたのだが。
とある人物に偶然にも聞かれてしまう。
(ええっ⁉ う、嘘! 涼が……。あの時の本物の英雄だったの⁉)
その人物は二人の校舎裏での会話内容に、開いた口が塞がらなかった。
(ま、まさか涼と古井っちがそういう協力を裏でしていたとは)
盗み聞きをしていたのは……。
涼の音ゲー仲間である友里だった。
彼女は二人が歩いているところ目撃し、後を付けていたところ、偶然聞いてしまったのだ。
友里は衝撃的な事実に腰の力が抜けそうになるが、それでも必死に校舎裏から走り去っていった。
――――
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