第63話 ハイタッチ!
赤組男子の多くは星林高校の生徒だ。つまり異性との交流がかなり限られている。中には体育会系の人達がいるから、部活が忙しくて余計交流なんてないだろう。
そんな中、あの美少女二人から誘われたら、思春期真っただ中の男子なら多少なりとも食いつく。
あの人考えやがった。どうして囮役に友里が選ばれたのか分からなかったが、二人で色欲を刺激するためかよ!
『な、なんてことだ! 白組! 美少女二人がとんでもないことを言い出した! この発言にさすがの男子も無視できず、必死に追いかける! だが友里選手と古井選手の騎馬は圧倒的に早い! 機動力があるせいか、全く追い付けない! 赤組どうする⁉』
赤組男子は必死で二人を追いかけるが、機動力が全然違う。
圧倒的な速さでグランド内を駆け巡り、相手の陣形を次々と崩していく。
元々古井さんと友里さんの騎馬は攻撃力がほとんどない。その代り陸上部を中心に組まれているから、スピードなら圧倒的だ。相手が追い付けないのも不思議じゃない。
「アホかお前ら⁉ 何やっている⁉ それぞれの持ち場に戻れ! 罠だぞ!」
この状況に草柳は冷や汗を流し、味方にツッコミながらも指示を出す。
しかし、一度火が付いた男のハートは簡単には静まらない。
「「「彼女欲しいいいいいいいいいいいい!」」」
むしろどんどん熱が上がっている気がする。水が一瞬で蒸発する程の熱を感じる。
普段は関われないであろう美少女とお近づきになれる。さらにはリア充になれるかもしれない。
その誘惑に負け、草柳の言葉が届きていなかった。
「ちくしょうがっ! せっかく有利に進んでいたのに、バラバラじゃねぇか!」
草柳の言う通り、今完全に赤組の陣形は崩れた。
前線部隊では、むしろこちらの方が数的に増え、さらに体育会系で組まれたあの防御も手薄になった。
友里と古井さんに気を取られているせいで、陣形が乱れていることに気づいていない。
やるなら今がチャンス!
「ひなみ! 赤組が乱れている! やるなら今だ!」
「うん涼君! 皆! 一気に行くよ!」
「「「おう!」」」
ひなみは守備に回っている騎馬と、前線部隊で戦っている仲間に合図を出す。
皆ひなみの意図を理解した後、囮役となっている友里と古井さん以外の騎馬全てが草柳の方へと一直線で動き始めた。
こちらの騎馬の数は計七つ。
対して相手は体育会系がいるとはいえ、三つしかいない。
やれる!
友里と古井さんが注意を引いてくれている隙をつき、草柳がいる後方へと向かい、一気に衝突する。
倍近くの数の敵に襲われているため、さすがの草柳も冷静さを失っていた。
「ちくしょう! さっさと俺を守れ! 他の連中も何やっている!」
怒りに満ちた声が俺の耳にハッキリと聞こえた。
よし。混乱している。このチャンスは逃さないぞ!
俺達は相手が混乱してい注意を怠っているタイミングを見て、こっそりと草柳の背後に回る。
前の敵に集中している隙を狙い、ひなみが草柳のハチマキに手を伸ばす。そして、
「取った!」
しっかりと握りながら、一気に引っ張り、見事取ることに成功した。
一瞬の出来事だったためか、相手選手全員が事態を飲み込めずポカンと口を開ける。
しかし、ハチマキを握っているひなみと、そして彼女が取る姿を間近で見ていた俺達は、しっかりと理解していた。
王様である草柳のハチマキを取ったこの瞬間、白組の勝ちが確定した、と。
この事実にやや遅れて実況者が気付き、マイクを握る。
『な、な、なんとぉぉぉぉ! ひなみ選手! 草柳選手の背後に回り、ハチマキを取ったぁぁぁぁぁ! 王様である草柳選手のハチマキが奪われたため、試合終了です! 勝者は白組だぁぁぁぁぁ!』
「「「やったー!」」」
勝敗が決まり、見事俺達白組の勝利!
それが嬉しかったためか、騎馬戦に出ていた白組全員が思わずガッツポーズする。
「ひなみちゃん! よくやった!」
「大活躍じゃねぇかひなみさん!」
「よくやったぞ!」
応戦席から、俺達の勝利とひなみの活躍を祝う言葉が飛び交う。
一年生の騎馬戦では、どうにか草柳の活躍を抑え、俺達が勝つことができた。
「やったなひなみ!」
俺はひなみを降ろしながら、そう言葉をかける。
「うんやったね! いえい!」
お互い笑い合いながら、俺とひなみは勝利を祝うハイタッチをした。
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