第61話 騎馬戦だと!?

『さあー、いよいよ体育祭午後の部が始まります! 現在の総合得点では、赤組が五百点。一方白組が四百五十点! 白組、逆転できるか⁉』


 昼休憩が終わり、ついに午後の部に突入する。

 日光がグラウンドを熱く照らす中、俺は端っこの待機場所にて、次の競技が始まるのを静かに待っている。

 先ほどのアナウンス通り、俺達白組は総合得点で赤組に負けている。

 負けている要因は、俺達白組の練習不足。というのも勿論あるが、それよりも草柳の卑怯な手で苦しんでいるのが、正直なところだ。


 草柳は体育祭実行委員に所属している。それを上手く利用し、白組の出場者名簿をチェックして、その弱点を突くように体育会系の部活に所属する人達を出場させていた。

 草柳の高校は男子校。スポーツ経験者が多いクラスを、意図的に赤組にしていた可能性がある。

 体格差やスタミナの面から、俺達白組はその気迫と根性強さに負けてしまい、差を付けられてしまった。


 だが逆転の余地がないわけでもない。

 午後の部では高得点種目が多数あるから、可能性はある。

 これから行われる騎馬戦も、勝てば高得点を手に入れられる。草柳も参加するからこそ、この種目は絶対に負けられない。


 ちなみに、これから行われる騎馬戦は、赤白両チームは、好きな人同士で四人一組を作り、競技に参加する。各チーム四十名だから、計十個の組が生まれる。

 騎士役と馬役を決め、騎士の人は腕に巻いているハチマキを取られないように守りながら、相手の物を奪う。


 と、まあ普通の騎馬戦と大体の流れは同じだ。

 だが勝敗の決め方は少し違う。勝敗を決める方法はただ一つ。


 王様のハチマキが取られれば、即敗北が確定する。


 各チーム一人だけ王様役を任命される。

 もし王様のハチマキが相手に取られた場合、取られた組の敗北が確定する。

 また、誰が王様なのかは、事前に相手にも共有されているため、敵に知られながらどう守り抜くか。それが勝負の鍵を握っている。


 俺達白組の王様はひなみ。対して赤組は草柳だ。

 王様のハチマキを死守しなければ、白組が優勝する確率は低くなる。

 

 ひなみと俺は同じペアで参加。勿論俺は馬役だ。他の男子二人と共に王様であるひなみを守りながら戦う。一方友里と古井さんはそれぞれ別の組で参加する。ひなみ、友里、古井さん。この三人は別々の組だが、全員騎士として参加する。


 ひなみと草柳。どちらのハチマキが先に取られるかで大きく運命が分かれる。

 負けられねぇぞ草柳。絶対に勝つ!

 俺は待機場所でそう思っていると、でかいマイクの音量がキーンと鼓膜を刺激してきた。


『さぁー、大接戦の体育祭もついに午後の部に突入しました! 午後の部最初の種目は、一年生による騎馬戦です! 一体どんなバトルが繰り広げられるのか⁉ 楽しみで仕方がありません! それではまず初めに赤組の選手入場です!』


 実況者の言葉の後、応援席にいる吹奏楽部の人達が一斉に楽器を演奏する。軽快な音楽に合わせながら、俺達白組と反対方向の待機場所にいた赤組が、続々と試合場に入っていく。


「赤組の皆! 午前の借り者競争では惜しくも二位だったけど、次は勝つ!」


 草柳は入場しながら、次から次へと声を上げるファンの方達に、ニッコリと笑いながら手を振る。

 草柳の爽やかな笑みを見た応援席の女子生徒達は、


「「「キャーッ!」」」


 目の形がドでかいハート型に変形していた。

 中身はクズだが外見だけ見れば、普通にイケメンだ。メロメロになるのが普通かもしれない。


「さあ皆! 白組を倒すために用意した作戦を成功させ、王様のハチマキを奪い取るぞ!」


「「「おおぉー!」」」


 草柳が自信満々な表情を浮かべながら掛け声を上げ、仲間を鼓舞する。

 相手の選手を見てみると、体格がデカい人たちが何人かいる。男女混合の騎馬戦とはいえ、結構な数の体育会系がいるな。あれを相手にするのは骨が折れそうだ。


『赤組の全選手がたった今入場を終えました! 会場全体が草柳選手の格好に釘付けです! 何という逞しさ! そしてカッコよさ! 王様でもある草柳選手を筆頭に、赤組はどう動くのか! さぁ! 続いては白組の入場です!』


 ついに俺達白組の入場が始まる。

 待機場所に全員が試合場に向かおうとするが、その前にひなみが一瞬だけ声を出した。


「皆! 古井ちゃんから言われた作戦通りに動こうね! 赤組が古井ちゃんの予想通りに動いたら、作戦実行だよ!」


 ひなみの言う通り、俺達は古井さんが考えた作戦を元に行動する。

 古井さんの作戦は以下の通りだ。

 序盤は相手の動きを見つつ、王様以外のハチマキをできるだけ多く取り、戦力を落とす。この時、草柳は王様だから、ほぼ確実に後ろから味方に指示を出すはずだ。だから草柳を狙うより、まずは相手の騎馬の数をできるだけ減らす。


 次に、状況を見て囮役の古井さんと友里が敵陣に突っ込み、相手の注意を逸らす。

 相手の注意を奪い、隙が生まれたタイミングで、俺達以外の騎馬を全て草柳の方へ突進させる。

 急に大多数の敵が迫り来れば、さすがの草柳も動揺するに違いない。

 草柳が防御に集中している間に、俺達が背後から近づき、騎士のひなみがハチマキを取る。

 これが大まかな作戦内容だ。

 この作戦が上手くいくか分からないが、それでも可能性は十分にある。


『白組一年生が続々と入ってきました! 白組の王様は九条ひなみ選手です! 彼女を守りつつ、赤組とどう戦うのか非常に楽しみです!』


 盛大に応援される中、俺達が所定の位置まで歩いていると、自信たっぷりな表情をした草柳が相手陣地から見えた。

 草柳の周りには体育会系の部活に所属している人が多数いる。ここからでも、熱く燃えている闘志を感じる。

 フィジカルで勝ちにいくつもりだ。それに対して俺達はそこまで体格がデカい人はいない。

 あいつからしてみれば、もはや勝ったも同然だろうな。


 俺は草柳の様子に少しイラつきながらも、所定の位置に着き、そのまま騎馬を組む。

 俺が前で、他クラスの男子が左右を担当。俺達三人で作った馬の上に、ひなみが乗る。

 他の仲間を見ていると、ほとんどが準備を終えていた。


『両チームとも所定の位置に着き、試合の準備が整ったようです! どんな試合になるのでしょうか? それでは……スタートです!』


 実況者の合図と共に、一斉に白組が動き始める!



―――

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