第54話 作戦!?

 ファミレスでの会議が終わり、夜になった。

 俺は自室のベッドで横になりながら、今日の出来事を振り返る。

 トイレで盗み聞ぎをしてしまったあの後、草柳はグイグイひなみにアタックしていた。


『ひなみちゃんって、運動とか得意なの?』

『何か出たい種目とかある?』

『ひなみちゃんは本当しっかりしているね』


 こんな感じで、会議の途中で雑談をしている時は、ずっとひなみの方に目を向け、積極的に話しかけていた。

 今後のために仲をある程度深め、警戒心を解こうという魂胆だだろう。

 直接的に何か仕掛けるのはもう少し先になりそうだ。

 だが油断していればいつひなみに、いや、他の女子二人にも手を出すか分からない。

 警戒しとかないと。

 だとすればやることは一つ。

 協力者が必要だ。

 ベッドで横になっていた体を起こし、俺はLINEを開く。

 そしてとある人に電話をかけた。


「こんな時間に私に電話をするなんて珍しいわね。どうかしたの?」


 声の主はドS王女古井さんだ。

 彼女なら何かしら力になってくれる気がした。いつもいじってくるけど、何だかんだ友達想いな人だ。

 それに頭脳明晰で、ちょっとずる賢い一面もある。

 こういう人が協力者になってくれると、俺としては心強い。


「ちょっと相談事があってさ。今時間平気?」


「ええ別に良いわよ。でも長話するつもりはないから、手短にお願い」


「ああ。初めからそのつもりだよ」


 俺はその後、トイレで偶然知ってしまった草柳の本性について、古井さんに話した。

 草柳がひなみの体を狙っていること。

 彼女だけではなく、友里と古井さんもターゲットになっていること。

 今後何かしらひなみに仕掛けてくること。

 この三つのことを全て話した。


「なるほど。草柳がそんなクソ野郎だとは……」


 いつもクールな古井さんでも、この話には動揺した。

 草柳の見た目と性格を考えると、そうなるのも無理はない。

 実際、個室で聞いていた俺でも夢かと疑ってしまった。


「このままだとひなみが危ない。あいつは女を体でしか見ていないんだ。絶対にひなみを守りたい。だから……」


「私に協力してほしい、と?」


「……う、うん」


 俺はごくりと息を飲んだ。

 古井さんが果たして乗ってくれるかどうかが問題だ。

 そもそも、この話を信じてくれるかどうか怪しい。

 大手アイドルグループに所属している草柳に嫉妬し嘘を言っている。そう思われても不思議ではない。

 あの場にいなかった第三者からすれば、信じがたい話だ。

 古井さんが動いてくれるかどうか……。


「なるほどなるほど。君の言いたいことは分かったわ。その話だけど……」


「うん」


 ごくりと唾を飲む。

 緊張する俺に、古井さんは静かにこう言った。


「話を信じるわ。君に協力してあげる」


「……え? ほ、本当かっ⁉」


 古井さんの言葉を聞き、俺の声は無意識に大きくなっていた。

 良かった……。信じてくれなかったらどうしようと、不安だったよ。

 よし。強力な助っ人が見つかったぞ!


「君のことだし、嘘は言ってないと思うわ。ま、私もあの男はちょっと怪しいと思っていたのよ。妙に爽やかな笑顔を見せてくるし。ひなみにやたらグイグイアタックしていたし」


「さすが古井さんだ。人の正体を見破る力がやっぱりあるんだよ」


「そうかもね」


 古井さんはそう返すと、今後のことについて話を始めた。


「さて。じゃあ草柳からどうひなみを守るかについて作戦を考えましょうか」


「おう。俺はあんまり作戦を練るのは得意じゃないから、指示を出してくれ」


「分かったわ。じゃあ今から言うことを徹底して頂戴」


「了解!」


 古井さんは俺がすべき二つのことについて、話をした。

 一つ目が、草柳がいる時はひなみの傍にずっといること。

 もし目を離した隙になるをするか分からない。男の俺がいれば、草柳も中々手は出せないだろうし、抑止力になる。

 二つ目がこの話は口外禁止とのこと。

 他校と協力して体育祭をやるのは、今年が初めて。

 前例がない中で体育祭を成功させるためにも、無駄な問題を作らない。ひなみと友里、そして他の生徒や先生には秘密にしつつ、裏で行動する。まあ、仮に言ったとしても、証拠がないからあまり信頼されないだろう。

 確かな証拠がない状況では、下手に暴露すればこちらに危害が及ぶ。

 俺と古井さんが証拠を手にするまで、とりあえず隠密行動だ。


 この二つを守りつつ、ひなみを救う。

 それが俺と古井さんの作戦だ。


「どう? 守れそうかしら?」


「大丈夫だ、古井さん。問題なしだ」


「そう。なら良かったわ。毎週体育祭の会議を行うから、ひなみの傍にずっといなさい。帰る時もよ。友里は私が見るから安心して」


「分かった。俺はひなみに専念するよ」


「ええ。そうして頂戴。ゴミクズ野郎は必ず仕掛けてくる。恐らく体育祭の競技中に、ひなみとの距離を縮めてくると思うわ。ま、そこら辺は何とかやっておくから。私からの指示が出たら、それ通りに動いて」


「おう! 頼もしいよ古井さん! 協力してくれてありがとう!」


「別に良いわよ。ひなみと友里は私の友達なんだし、守りたいのは当然でしょ。それに、ちょっと個人的に嬉しかったわ」


「え? 何でだ?」


 古井さんの言葉に、俺は思わず聞き返した。

 一体何が意外何だ?

 ひなみが狙われているのに、何でそんなことを?

 そう思っていると、古井さんは静かにこう言った。


「だって……『絶対にひなみを守りたい』なんて言葉を言うとはね。しかも堂々と。林間学校の覚悟は口だけではなかったみたいだから、安心したわ。立派な男になったわね」


「う、うるせぇ」


 やべぇ。改めて聞くと恥ずかしいな……。

 お、思い出しただけで体が熱くなってきた。

 は、恥ずかしいぃぃぃぃ……。


「強がっても無駄。恥ずかしがっていることぐらい、バレバレよ。でもね、その意思は今後も捨てちゃダメよ。誰かを守りたいという意思は、素晴らしいことなんだから。自信を持ちなさい」


「お、おう。ありがとう。意外だよ。てっきりからかってくるのかと」


「人の覚悟まではおちょくらないわよ」


「そ、そっか。やっぱ古井さんに相談して良かった。体育祭が終わるまで協力しよう!」


「ええ。『ヤリ〇ンクズ野郎撲滅作戦』始動よ!」


「おう!」


 ひなみを草柳から守るために。

 俺と古井さんは秘密裏に同盟を結び、あの男を撃退することを決意した。

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