第53話 ゲス野郎だった!?
会議が始まってから一時間程が経った。
今後のスケジュールや種目についての議論が一通り終え、一旦休憩となる。
俺はイケメン四人と美少女三人に圧倒されたせいか、ずっと居心地が悪かった。
陽キャの合コンに間違えて招待されて、一人浮いている気分だ。
だから俺は『ちょっと席を離れる』と言い、トイレに逃げ込んだ。
男子便所に入ると個室のドアを開け、中に入る。
「あんなイケメンを前にしたら、さすがに気が引けるわ。はぁー」
俺の口から独り言と深いため息が出る。
今すぐにでも帰りたい……。早く会議が終わって欲しいよ……。
俺はそう願いつつ、ポケットからスマホを取り出し、音ゲーをやり始める。
こういう時は一人で音ゲーをして、嫌な事を忘れよう。熱中していれば気が楽になる。
便器に座りながらイヤホンを付け、プレイ開始。
リズムに合わせながら、次々と画面を叩く。
やっぱこの時間は最高だ。トイレにこもっていれば邪魔されないし、誰にも干渉されない。音ゲーに集中しながら思い切り楽しめる。
お、そろそろ終盤に差し掛かってきたぞ。
ここを乗り越えればフルコンボでクリアだ!
よしあと少しで!
その時だった。
「いや~。まさかあの『千年に一人の美少女』がいるとは思わなかったよ。やっぱめっちゃ可愛くね? そう思わない?」
聞き覚えのある声が、イヤホンを貫通し俺の耳に届いた。
これ……。もしかして星林高校の人か。
四人のうちの誰かが、トイレに入っていたのか。
でも話しかけていると言うことは、誰かいるみたいだ。
俺は一旦音ゲーをやめ、会話に集中した。
「ああ。ネットの画像でしか見たことがなかったけど、実物はやっぱり化け物だな。とんでもなく可愛いよ」
こ、この声って……。
草柳さんか!
爽やかで芯のある声だからすぐに分かる。
でも何だ、この違和感は……。
会議で話していた時と、口調が違う気がする。
草柳さんは会議中、ずっと爽やかな笑顔を見せつつ、優しい言葉をかけていた。
だからあんな口調になるとは意外だ。
男同士だからか?
「だよなー草柳。本当可愛いよね。どう? できそうか?」
「どうって何がだよ?」
「とぼけんなよ」
数秒の沈黙後。
草柳さんと会話をしている星林高校の人の言葉を聞き、俺は絶句した。
「あの『千年に一人の美少女』とヤレそうか?」
お、おい……。
この人達一体何を話しているんだ?
ヤルッてまさか……。
ひなみとか?
恋人とかなら分かるけど、そういう感じじゃないよな。
まるで体だけ見ている気が……。
嫌な予感がした俺は、少しだけドアを開け、二人の表情をこっそりと覗き込んだ。
小便器の前に立ちながら、草柳さんは不気味な笑みを浮かべる。
「大丈夫だ。話してみた感じだと、九条は天然だ。ピュアな女だよ。ああいうタイプは俺みたいなイケメンに甘い言葉を囁かれると、簡単に股を開く。ちょろいな。余裕だよ。体育祭で良いところをみせて、惚れさせる」
う、嘘だろ……。
あの爽やかで優しい草柳さんが……。
ひなみの体を狙ってやがる!
おいおいおいおい。マジかよ!
やべぇーだろこれ!
裏ではそんな風に女を見ていたのかよ!
「さっすが草柳だ! お前みたいにイケメンに生まれたかったよー。可愛い女の子とヤリまくりな人生とか超羨ましわー」
「安心しろ。あの子の処女をもらうのは俺だが、その後はお前らにもヤラせてやるよ。ま、俺好みに調教した後だけどな」
「お前の性癖はヤバいからなー。あんなピュアな子に何をするつもりだよ。けど『千年に一人の美少女』とヤレるのは貴重だわ。ありがたく、あの子の体を使わせて頂く!」
「ああ、楽しみにしとけ」
し、信じられねぇ……。
生まれ持った容姿に大手アイドル事務所に所属している肩書を利用して、女を食いまくっていたのかよ!
しかも相手の子の気持ちなんて考えず、他の男にも強要しているなんて……。
何でそんな目で女を見れるんだよ。体だけが全てじゃねえだろうが!
俺は今すぐにでも、草柳を殴りたかった。
だがここで殴れば、終わるのは俺の方だ。
アイドルに暴行したとなれば、間違いなく俺の意見なんか皆聞いてくれない。
た、耐えるんだ……。耐えるんだ俺!
この話を偶然にも聞いてしまったからには、何としてもひなみを守らないと!
今ここで暴れても得なことはない!
怒りが爆発しそうになる俺だが、この後の草柳の言葉を聞き、さらに怒りが増す。
「あー。それと他の女子二人も仲間に入れてやるか。あの二人もかなりの美少女だしな。人数が増えた方がより楽しめる」
「くぅー。一人だけではなく、友里ちゃんと古井ちゃんも狙うのか! 一人で美少女三人を相手にするとか、さすが草柳だわー」
黙って聞いていれば、友里や古井さんにまで手を出すつもりかよ!
信じられねぇよこいつら!
可愛い子なら誰でも狙うのかよ!
クソ野郎が!
「一緒にいた慶道とかいう男は見た目からして彼氏でもなさそうだし、問題ないだろ。可哀想だな。知らない間に、友達三人が俺に食われるなんて」
「確かに!」
「神様も良い仕事してくれるよ。経験人数はちょうど九十九人。記念すべき百人目を、あの『千年に一人の美少女』で迎えるとしよう」
「最高だなそれ! じゃあ草柳が九条で遊んでいる間、俺は友里ちゃんか古井ちゃんで遊ぼうかな!」
「それもいいな。本当……体育祭が楽しみだ」
草柳は最後にいやらしい笑みを浮かべると、二人そろって男子トイレを出ていった。
ヤバい。
とんでもない奴が、ひなみ達の目の前にいる。
このまま何もしなかったら、ひなみだけじゃなく、友里と古井さんまで酷い目に……。
何としてもクソ野郎から守らないと、やべぇことになるぞ⁉
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