第49話 姉妹丼!?

「お、おい友里……。そ、それってどういう意図で言ってる?」


 友里の言葉を聞いた俺は、すぐに聞き返した。

 じょ、冗談だよな……。

 友里のことだし、また俺をからかっているに違いない。

 絶対そうだ。そうに決まっている!

 だよな、友里!

 と、思っていたのだが、


「……」


 友里は無言だった。

 下を向いたまま、目も合わせようとしなかった。

 え?

 お、おい。

 何故何も言わない? 何故目を合わせてくれない?

 お、俺はどうすればいいんだ⁉

 混乱のせいで、打開策が思いつかない!


「お、おい友里? どうした?」


 その直後である。

 下を向いていた友里が、ゆっくりと俺の顔に近づいてきた。

 目は前髪で隠れて上手く見えないが、顔色が凄い真っ赤だ。

 それと同時に、俺の目に薄桃色の小さな唇が写り込んだ。

 ……え、おいおいこれまさか!


「ゆ、友里、一体何をするつもりなんだ……」


「涼が良いなら、私もいいよ。私達も色々しちゃおっか?」


 え、えええええええええ⁉

 お、おいこれ本気なのか⁉

 それともさっきみたいな冗談か⁉ 俺をからかっているのか⁉

 ダメだ、全然分からん!

 こうしている間にも、友里の唇がどんどん近づいてくる!

 ど、どうしたらいいんだぁぁぁぁぁ⁉

 と、その時だ。


 ——ガチャッ。


 家の鍵を開ける音が聞こえた。

 それに続き、若い女性の声も。


「友里、ただいまー。あれ? 見ない靴があるけど、友達でもいるのー?」


 この声を聞いた友里は、スッと顔を離し、しかめっ面をした。


「ゲッ。この声は……。お姉ちゃんだ」


「え? お姉ちゃん?」


 あ、そういえばさっきお姉ちゃんについて少し話していたな。

 一体どんな人なんだ?

 そんなことを考えていると、友里のお姉さんの足音がどんどん大きくなっていく。

 や、やばい。部屋に近づいてきている。

 

「友里、この状況はマズいんじゃないか? 勘違いされそうだし」


「そ、そうだね。一旦離れよっか」


 そう言うと、友里は体ごと横にずれ、俺と距離を取った。

 そしてその直後。


「友里、部屋に入るよー。誰か友達でもいるのー?」


 ドンッ!

 ドアが開くとそこには、金髪のセミロングに肩とおへそが出ている服を着た、派手な女性が立っていた。

 す、凄い攻めた服だな。

 でも、これだけ派手な服でも自然と似合っている。

 見た目はギャルッぽいけど、高身長でスタイルが良く、胸も結構ある。

 綺麗な女性だからこそ似合う服だ。

 友里もそうだけど、お姉さんまでも美人なのかよ。

 その容姿に見惚れていると、お姉さんと目が合う。

 そして何か察したように、こう言い出す。


「はは~ん。なるほどね。友里、その子彼氏でしょ? 私が大学に行っている間に、良い感じになろうとしてたんでしょ?」


 この言葉に、友里は頬を赤くしながらすぐに反論した。


「ち、違うよお姉ちゃん! ただのクラスメイト! テストが近いから勉強を教えていただけだよ!」


「へぇ~。家に誰もいない時に招待するなんてね~。未来の彼氏候補ってわけか」


「まだ彼氏じゃないよっ!」


「ふぅ~ん。まだ、ね~」


「も、もうからかわないでよっ!」


 珍しく動揺する友里。なるほど、ちょっと小悪魔っぽいところがあったけど、お姉さん譲りだったのか。

 

「別に恥ずかしがる必要なんてないのに~。あんたも年頃の女だから、そういう気持ちになるのも、分からなくはないわよ」

 

 ここでお姉さんは視線を友里から俺の方にずらした。

 そしてニヤニヤしながら、こんなことを聞いてきた。


「で? どこまでやったの?」


「何もしてないですよ⁉」


 いやなんてストレートに聞いてくるんだ!

 さすがに即否定するわ!


「ちょっとお姉ちゃん! 涼に何を聞いてるのよ⁉」


 キリッと鋭く睨みつける友里だが。


「へぇ~。。ま、べっつにいいじゃない、ちょっと気になるし」


 お姉さんには全く効いていなかった。それどころか、この反応が面白かったのかそらにニヤニヤしだす。


「だ、だとしても、もうちょっと聞き方を変えてよね!」


「そんなに変だったかな~?」


「変だよ! 初対面の人には普通言わないでしょ⁉」


 言葉を荒くする友里に対し、まるで勝ち誇ったかのような笑みを浮かべながら、お姉さんはこう言った。


「でも気になるじゃない。が」


「「え?」」


 俺と友里は思わず言葉を重ねた。

 ポカンッとする俺達に対し、お姉さんはさらに続ける。


「だって、勉強してたんでしょ? どれぐらい進んだのか知りたかったから、『どこまでやったの?』って聞いたのよ。あれ? もしかしてお二人さんは全然違う方で勘違いしてた? もしかしてセ」


「おおおお姉ちゃんハメたでしょ⁉」


 お姉さんが何か言いかけると同時に、素早く友里が突っ込んだ。

 こんな動揺して恥ずかしがっている友里の姿を見るのは初めてだよ。


「さぁ~。何のことでしょうかね~」


 お姉さんは知らんぷりしながら、俺の方に近づき、そして。


「よっと。隣失礼するね、少年」


 当たり前の様に俺の隣に座った。

 え? 何これ? どゆこと?


「な、何でお姉ちゃんが座ってるのよ! 今は涼と私が一緒に勉強しているの!」


「いいじゃ~ん。私だってついこの間まではピチピチの高校生だったんだよ? あんた以上に勉強を教えられる自信ならあるよ~」


「ぐ、ぐぬぅぅぅぅ。お姉ちゃんめ……」


 こう言われては返す言葉がなかったのだろう。

 友里は拳をギュッと握りながら、リスの様に頬を膨らませた。

 

「いやぁ~。休講になったから、寄り道せずに帰ってきて正解だったね~。な~んか面白いことになったし。さて、少年。こんなポンコツな妹より、私が勉強を教えてあげようか。私の方がいいよね?」


 と、お姉さんは俺の方に体重をかけ、突然密着してくる。

 お、おおおお!

 や、やばい! 香水の良い匂いが!

 お姉さんの綺麗な肩がこんなにも近くに!

 

「お姉ちゃんは自分の部屋に戻って! 涼はお姉ちゃんより私の方が良いよね!」


 今度は友里がお姉さんに負けない様に、体を寄せ密着してくる。

 お、おおおおおおおお!

 両サイドから香水の良い匂いが!

 そして二人共顔が近いって!


「え、えっと……そ、それはだな……」


「え~、もしかして友里を選ぶつもりかな~? 釣れないな~少年。せっかくピチピチの現役女子大生が付きっきりで勉強を教えてあげるんだぞ? 中々ない機会だよ~?」


 い、言われてみれば確かにそうだな。

 見た目ギャルな色っぽいお姉さんに勉強を教えてもらうなんて、そんな最高のシチュエーションはそうそうない。

 こ、ここはお姉さんを……。


「だからお姉ちゃんは邪魔しないで! 先に約束をしたのは私なの!」


 と思ったら今度は友里のアプローチかよ。

 た、確かに友里の言う通り、先に約束をしたのは事実だ。

 どっちがいいんだよ、これ……。

 一人悩んでいると、お姉さんと友里が俺の腕をグイッと掴みながら、こう言った。


「私とお姉ちゃん、どっちがいい⁉」


「私と友里、どっちがいい⁉」


 も、もう勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇ!

 普通に勉強させてくれよ!

 

 

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