第47話 家で二人っきり!?

 衝撃的な事実を知ってから、意外にも時間はすぐに過ぎ、すっかり夕暮れとなった。

 俺とひなみはあの後も黙々と勉強をすることが……できなかった。

 必要以上にひなみの母親に攻められ、さらに妹の蜜柑ちゃんにもちょっかいをだされてしまった。

 蜜柑ちゃん、あの幼さで人のいじり方をだいぶ熟知している。


りょうにぃ! ひな姉って可愛いよね! どこが可愛いかひな姉の前で教えてっ!」


「涼にぃって、ひな姉と仲いいよねっ! ひな姉のどこが好きなの?」


「涼にぃ! ひな姉みたいな人がタイプなの? 教えてよっ!」


 と、ひなみのいる前じゃ答えにくい質問ばかりしてきやがった……。

 おかげで対応に困っちまったよ。

 あの年でSに目覚めるなんて何者なんだよ。一体どこの誰が仕込んだんだ?

 ひなみはあり得ないし、母親も違う気がする。もしかして、今日会えなかった次女か?

 どちらにせよ、九条家はだいぶキャラが濃ゆい。

 特にあの母親には注意せねば……。

 このままずっと家にいたら危ない気がする。

 ということで、俺は日が暮れる前に家に帰ることにした。

 ひなみの母親からは、『夕ご飯も食べていきなさい』と言われたが、柔らかく断った。


「それじゃあひなみ。今日はありがとうな。勉強教えてくれて」


 玄関で靴を履き終え、ひなみにお礼を言う。

 といっても、外部のちょっかいがあって、ほとんど頭に入らなかったけど……。


「気にしないで! 涼君と勉強出来て凄く楽しかった!」


 ニッコリと笑うひなみ。

 その笑顔をもうしばらく見ていたいのだが……。

 ひなみの隣にいる母親から、妙な圧を感じ取れる。

 顔は笑っているのに、何かこう……。

 狙った獲物を逃がさない、そんな覇気を感じる。


「慶道君。またいつでもいらっしゃいね! 君なら大歓迎よ! でも……次我が家に来るときは、婚約指輪と、婚姻届けを持って来てね! うふふっ」


 いやいやいや。重いって……。

 愛が重いよ。

 俺は変な人にまたしても目を付けられてしまったぞ……。


「もうお母さん! やめてよそう言う冗談はっ!」


「えー。いいじゃない! 慶道君になら我が娘を任せられるわっ! お願いね!」


「は、はぁ……」


 ウィンクをしてくる母親に、俺の顔は思わず引きつってしまった。


「じゃ、じゃあ俺はもう帰るよ。また明日な、ひなみ」


「うん! じゃあまた!」

 

 ひなみの笑顔を背後に、俺はドアを開け自宅へと向かった。

 


 こんな感じで、一日目の勉強会が終了。

 ひなみには英語を教えてもらうつもりだったのだが、正直全然進めなかった。

 終わらせるはずだった試験範囲の半分もできなかった。

 ドS王女古井さん。

 愛が強すぎるひなみの母親。

 何故俺の高校生活は妙な人に目を付けられるんだよ……。

 勘弁してくれ……。



 次の日。

 本日の勉強会の開催場所は友里の自宅だ。

 友里は学内でもトップクラスで数学ができる。その友里から直接指導してもらえるんだ。

 昨日みたいなミスはもうしない。

 

「ささっ! 涼上がって~」


「お、おう。お邪魔します」


 俺は玄関に足を踏み入れる。

 友里の家はどう見ても高そうな高層マンションの最上階にある。

 さすがお嬢様学校にいるだけはあるな。

 ここの家賃なんて絶対に高いはずだ。さすがお金持ちだ。


「私の部屋は奥にあるから、案内するね~」


 俺は友里の後に続き、家の中をどんどん進んで行く。

 家の中はひなみの時とは違って、もの凄い静かだ。

 誰もいないのかな?

 

「なあ友里。親とかはいないのか?」


「え? 今はいないよ~。二人共仕事があるから、帰ってくるの遅いよ~。それにお姉ちゃんも今日大学があるし」


「へ、へえー。そうなのか。ってかお姉ちゃんがいたんだな」


「うん! 今年時乃沢高校を卒業して、今は都内の国公立大に通っているよ~」


「現役で国公立とか凄いな、おい」


 やっぱエリート一家だよ、ここ。

 姉妹二人共頭いいなんて凄いな。

 

「お姉ちゃん普段チャラけてるけど、凄い頭良いんだよね~。まっ! 今日は!」


「お、おう……。だ、誰もいない……か」


 な、何故だろう。

 何故胸がドクンッと鼓動を速めているんだ。

 年頃の男女が家で二人っきり……。

 ひなみの時とは違って、何か別の事件が起きそうな臭いがする……。

 き、気のせいだよね⁉

 俺の勝手な思い違いだよな!

 な、何も起きないでくれよ。

 普通に勉強させてくれっ!

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