第46話 何故こうなった!?

 「おおおおおお母さん何言ってるのっ⁉ 私達まだ高校生だよ⁉ そ、そ、それに結婚だなんて気が早いよ!」


 頬を真っ赤に染めながら反論するひなみ。

 しかし、母親はそんなこと一切気にする素振りを見せなかった。


「なーに言ってんのよ。そんなもん、勢いでどうにでもしちゃいなさい!」


 無茶すぎるだろ……。

 俺の上半身を見て目を輝かせていた様子から、母親は間違いなく筋肉好きだ。

 とんでもないほど、筋肉が好きなんだ。

 武術を教わっていた関係で鍛えていたのが、まさかこんな形で裏目に出るとは。

 

「慶道君、うちの娘はポンコツで天然だけど、真面目で良い子だから、よろしくね!」


「いや、お母さん気が早いですって……。それに俺達付き合ってもいませんよ」


「えー、でも年頃の女の子の部屋に上がるってことは、少しぐらい気があるんじゃなーい?」


 確かにそりゃ言えるが、俺達はあくまで誰にも迷惑がかからない場所で勉強をしようとして、ここを選んだだけだ。

 本当にカップルなら、親がいない日を選択すると思うんだけど……。


「おおおおおおお母さんっ! もうその話はいいから、早く出ていって!」


 ブシュ―ッと耳から煙を出しながら、ひなみは母親を無理やり部屋から押し出した。

 相当恥ずかしかったみたいだな、これ。

 あんなにも顔を真っ赤にして、煙まで出すとは。


「はいはい。分かりましたよー。でも、慶道君。結婚とか関係なしに、この子と仲良くしてあげてね。よろしく!」


 部屋を出る間際、俺の顔を見つめながら母親はウィンクをした。

 うぅ……。年上のお姉さん感が凄い。

 女子高校生の娘がいるというのに、このルックスか。

 親子そろって美人だなんて恐ろしい。


「もう……、本当すぐテンションが上がるんだから。お母さんのバカァァ……」


 母親が部屋から出て行った後、ひなみは静かにそう言いながら、ドアにもたれた。

 恥ずかしさのせいか、ひなみは顔を下に向け、俺の方を見ようともしなかった。

 何というか……。

 個性が強すぎる親を持つと、色々と大変だな。


「そ、その涼君……」


 ボソッと囁くひなみ。

 俺はその言葉を聞き逃さなかった。


「ん? どうした?」


 数秒の沈黙の後、ひなみは真っ赤なリンゴの様に顔を赤くし、おどおどしながら俺の目を見つめた。


「こ、このことは絶対誰にも言わないでね。お、お願い……」


「誰にも言わないから安心してくれ。それにあまり気にしてないからさ」


「ほ、本当?」


「おう」


「そ、そっか。よかった。ありがとう」


 俺の言葉を聞き、ひなみはそっと胸をなでおろした。

 俺としてもひなみが落ち着てくれて、何よりだ。このまま変な空気で勉強するのは、ちょっと気が引けるし。


「にしても、ひなみのお母さんがあそこまで筋肉が好きだなんて、ちょっと驚いたよ。お父さんは凄いマッチョなの?」


 ひと段落したところで、俺はつい気になったことを聞いてみた。

 するとひなみは、静かに首を横に振った。


「ううん。私のお父さんは、涼君が想像している程の巨体じゃないよ。一般的な体型だと思う。それに、お母さんは筋肉が好きなんじゃなくて、鍛え抜かれた人が好きなの」


「え? そうなの? でも何で?」


「お母さんの学生時代が関係していると思う」


「学生時代?」


「うん」


 その後、ひなみは母親の学生時代について話し始めた。


「お母さんね、学生時代は凄いモテてたんだって。同級生の男子の半分はお母さんに告白していたみたいだし、高校では三年連続ミスコンに選らばれたらしい」


「やべぇな。モテモテじゃないか」


「そうなの。でもね。美人な人のところには、嫌な人も寄ってくる。高校生の時、複数の変質者に襲われかけたそうなの」


「が、ガチでか?」


「うん。もうダメだ。そう思った時に、とある同級生が助けに来てくれたの。たった一人で複数の男をコテンパンに倒したの」


「もしかして、その同級生ってのが……」


「うん。私のお父さんだよ」


 な、何その出会い方! めちゃカッコいいじゃないか!

 父親ナイス!


「お母さんはお父さんの勇姿にすっかり惚れちゃってね。それがきっかけで付き合うことになったの。でもお父さんがカッコいいのはこの後なの。お母さんが恋人を作ったことに対して、嫉妬に狂ってしまう人がいてもおかしくはない。だからどんな時でもお母さんを守ってあげられるように、お父さんはずっと鍛え続けたの。ずっと傍にいてあげたの。だからお母さんは鍛え抜かれた人が好きなんだと思う」


「そ、そうだったのか。何かドラマみたいなストーリーだな」


「本当そうだよね。でもお母さんの気持ち、分からなくないかな」


 その後、ひなみは胸に手を当てた。


「自分のことを守ってくれる人が傍にいてくれたら……安心するし、ずっと一緒にいたいと思う」


 そう言うひなみの顔は、少しだけ口角が上がっていた。

 まるで大好きな人に『愛している』とでも言われ、つい微笑んでしまう様な、そんな表情だった。

 女としては、そんな理想的な男がいたら、そりゃ惚れるよな。


「ひなみの父親、本当カッコいいな。尊敬するよ」


「うん! 私も凄くお父さんを尊敬している!」


 最後にとびっきりの笑顔を見せるひなみ。

 純粋無垢で可愛らしい笑顔に、俺は目のやり場に困った。

 にしても、ひなみの両親がそんな出会い方をしているとはな。

 変質者から守り、その後もずっと傍で守り続けたのか。

 ……。

 あれ?


 両親の出会い方と俺達の出会い方なんか似てね⁉


 こ、こんな運命あるのか?

 いやいやいやいやいや!

 ない!

 偶然だ!

 絶対そうだ! 

 偶々同じ出会い方をしただけですよね神様⁉

 そうですよね⁉

 

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