第36話 部屋に戻れない!?

 九条の何とも分かりやすい反応のせいで、俺の思考は鈍りつつある。

 何せ、9を出そうとすればひなみは泣き面になり、逆に4を出そうとすれば幸せに満ちた満面の笑みに。

 どうすればいいんだよ……。

 ここで9を出そうとすれば何か男として気が引けるし、大人げない気がする。でも、4を出せば俺の気になる人を言わなければいけない。

 もしもだ。もしも俺が罰ゲームを受けることになったらどうすればいいんだ?

 クラスで気になる女子って……。

 この林間学校までの間に、色々なことがあった。

 1000年に1人の美少女であるひなみと強制的にデートをしたり。ドエス女王の古井さんに振り回されたり。昔一緒に遊んだ女友達の友里と再会したり。

 そんな中で、俺は一体誰が気になるんだ……。

 俺は一体誰の名前を言うんだ……?

 自分の本心を探るべく。

 心の中で自分自身にこう問いだしてみた。


 お前は一体誰が気になるんだ……?


 問いだした後。

 一番に俺の心に浮かんだ人物は……。


「りょ、涼君? どうしたの? さっきからボーっとして」


「……え? あ、ああ。ごめんちょっと考え事を」


 答えを出そうと深く考え込んでいたあまり、ひなみが心配そうに俺を見つめてきた。

 やっべぇ。顔と態度に出ていたか。

 何ラスト勝負で考えているんだよ。まだ負けるかどうかなんて決まった訳じゃないだろ。

 今はとりあえずこのゲームを終わらせないと。


「ひなみ、ここから先は恨みっこなしだぞ」


 ここで9を出しても大人げないし、男として気が引ける。

 だから俺はそっと手札をシャッフルし、カードを見ないでそのまま場に出すことにした。

 今俺が出そうとするカードが何なのかは誰も知らない。

 9かそれとも4か。勝つ確率は2分の1。負ける確率も2分の1。

 これなら文句はないよな。

 俺が場に出したカードをひっくり返そうとした、その時。

 唐突に部屋のドアをコンコンッとノックする音と声が聞こえた。 


「おーい、ひなみ班ー。部屋にいるかー? 入るぞー」


 え、この声って……。

 まさか華先生っ⁉

 しかも今入るって言ったよな⁉


「やべー! この声は華先生だ! 何で急に⁉」


「きっと部屋周りね」


 慌てる俺に対し、古井さんは落ち着きながら状況を素早く把握した。

 さすが古井さんだ。こんな時でも全く乱れてねぇー。


「まさか入って来るとは……。このまま涼が部屋にいることがバレたら面倒だわ。トランプをさっさとしまって、部屋の奥に敷いてある布団の中に隠れて」


「お、おう! 分かった!」


 俺はあたふたしながらもトランプを片付け、速攻で奥に敷いてある布団の中に潜り込む。

 そしてそのまま気配を消し、先生が帰るまで石像にでもなったかのように動かずに隠れた。

 布団の中にいるからどういう状況かは分からないが、声だけは俺の耳に聞こえてきた。


「おーす、お前ら。部屋にいるかどうか確認しに来たぞー。風呂にはちゃんと入ったか?」


「はい先生。入りました」


 声だけを聞く限り、古井さんが対応しているのか。


「そりゃーよかった。今日は沢山動いたし、疲れていると思うからさっさと寝ろよー」


「分かりました」


「それじゃあ確認も出来たし、出るとするよ。そろそろ消灯時間だから夜更かしするなよー」


 よかった。もう華先生が行ってくれる。これでバレる心配もなくなった。 

 しかし、大富豪をやっていたら、もう消灯時間になっていたのか。

 時間の流れが速いな。華先生が介入してきたせいでゲームは突如中止になっちまったが、逆にこれはこれでありだ。

 よし、華先生が部屋を出た後、俺も元の部屋に戻るか。

 と、考えていたのだが……。

 神様はどうやらそう簡単に俺を見逃してくれなかった。


「それじゃあおやすみー。あ、先生廊下で見張っているから、無駄な外出はしないようになー。見つけたらどうなるか。ふふふ。じゃあねー」


 華先生はその後静かにドアを閉め、部屋から去って行った。

 今廊下で見張っているって言ったよな?

 ……。


 あれ? 俺部屋に戻れなくね?


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