第32話 理不尽!?

 恐る恐る南沢君のスマホをとり、そっと耳を当てる。

 最初に古井さんの口から飛び出てきた単語がこれだ。


「電話出ろ」


 こ、怖いぃぃぃぃぃぃぃ!

 やべぇよこれ⁉

 下手に出たら何されるか分らん! 

 慎重にならないと!


「い、いやー古井さんごめん。スマホが今手元になくて気が付かなかったよ」


 よし、何とか弁明できたぞ。これなら何も言ってこないだろう。

 

「あら、私が電話かけてきたことをいつ知ったのかしら? スマホ、今手元にないんでしょう?」


 し、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 完全にやっちまったよ!

 もうこれ言い訳も何もできないじゃん!


「す、すんません……。スマホならズボンのポケットに入ってます」


「バレバレの嘘を言うぐらいなら正直になった方が良いわよ。特に私の前では」


 いや本当何なのこの人⁉

 全部見透かされているじゃん!

 古井さんマジでやべーよ!


「ほんっとすんません。あのそれでご用件は何でしょう?」


「私の部屋に来なさい」


「……はい?」


「だから私の部屋に来なさい」


 え……?

 確か古井さんの部屋割りは、ひなみと友里の3人。

 そこに来いと言うのか⁉

 普通にダメじゃね⁉

 女子の部屋に行くのはアウトだろ!

 

「こ、古井さん! 先生たちが言ってたじゃないか! 異性の部屋に行くのは禁止だって!」


「変装でもして監視の目を潜り抜けなさい。できるでしょ?」


「俺はル〇ンか何かですか⁉」


「もし来なかったら3枚におろす」


「そ、それだけは勘弁してください……」


 結局、古井さんの無茶な要望を断り切れず、俺は部屋に向かう事となった。

 嫌な予感しかしない。

 古井さんが来いって言っているんだ。何かあるはず。ってか破滅イベントの匂いがプンプンする。

 ガチで怖い。

 頼むから何も起きないでくれ……。

 俺は神に祈りながら、そっと1人向かって行った。

 はぁー、せっかくクラスの男子と仲良くなれそうだったのに!


 〇〇〇〇


「遅い、遅すぎるわ。さっきまで何をしていたのかしら?」


 部屋に入った途端、古井さんの辛辣な言葉が聞こえてきた。


「いや、監視の目がありましてですね……」


「下僕のくせに生意気。言い訳は聞きたくないわ」


「いつから俺は下僕になったの⁉」


「光栄に思いなさい、私の下僕だなんて安〇元首相と同じ幼稚園に通っていたぐらい凄いんだから」


「いや、それあんまりすごくないんじゃ……」


 相変わらずのドエスぶりだな、古井さんは。

 いつの間にか俺下僕になっているし。

 だがよくよく考えてみたら、確かに俺は古井さんの命令に無意識に従っている気がする。

 俺の正体を知っているのもあるが、それを考えても俺は古井さんに従順だ。

 古井さん、人を無意識に下僕にできる才能の持ち主じゃ……。


「まあそんなことはどうでもいいのよ。それよりこっちに来なさい。出来立てホヤホヤのJKの部屋を満喫しなさい」


「その言い方は何だかダメな気がするんだが」


 俺は古井さんの後に続き、部屋の奥へと入って行った。

 小さな部屋に布団が3つ敷いてある。だがそれ以外特に変わった事はない。

 いたって普通の部屋だ。ちょっとばかり良い匂いがするが。


「ここが古井さんの部屋か。あれ? 友里とひなみは?」


 ここは古井さんと友里、ひなみの3人の部屋だ。

 布団は敷いてあるのに、2人の姿が見当たらない。どこに行ったんだ?


「ゆりとひなみだったらもうそろそろ戻って来るわ。あの2人って凄い長風呂なのよ」


「あ、そっか。今女子の風呂の時間か。古井さんだけ早上がりしたって訳か」


「そういうこと。ああ、そうそう。お風呂から戻ってくる途中、購買でクラスの男子3人がお見上げを見ていたわ。だから部屋には君と南沢君しかいないと分かって、電話したのよ」


「そういうことかよ……」


 本当この人鋭いし賢いし、頭の回転が速い。

 俺が部屋にいることを予想し、さらに電話に出なかったときのセカンドプランも練っておく。

 俺の正体をたった1日で見破っただけはある。


「友里とひなみなら、もうそろそろ戻ってくるはずよ」


 古井さんが言った直後、ガチャリとドアが開いた。


「いや~、良い湯だったね~。つい長風呂し過ぎて先生に怒られちゃったね~」


「本当良い湯だった! また行きたいなー」


 声から察するに、友里とひなみだ。タイミングバッチリだな、おい。

 2人の足音がどんどんこちらへと近づいてくる。


「にしてもちょっと長風呂し過ぎたな~。浴衣脱いじゃおっかな~」


「それはさすがにダメだよ、友里。でもちょっと熱いから帯緩めようかな」


「私もそうしよう~」


 会話を終えた所で、俺と古井さんがいる奥の部屋へと2人は到着したのだが。

 さっきの会話通り、2人とも浴衣の帯を緩めたため、胸元がかなり露出していた。

 髪はやや濡れ浴衣も乱れているため、どことなく色気が漂っていた。

 

「古井っちお待たせ~。って何でここに涼が……?」


 本来いるはずのない俺がいるため、友里は一瞬固まった。

 彼女に続き、


「え、涼君……」


 ひなみも同じ反応を示した。

 俺の存在を認識すると自分達の淫らな格好に恥ずかしくなったのか、2人とも同時に顔を真っ赤にした。

 ビクビクっと体が震え動揺のあまり口をパクパクした後。


「へ、変態ー!」


「えぇ⁉ 理不尽!」


 俺の言葉に耳を傾けることなく、2人とも声を揃え顔をビンタしてきた。

 ぺチンッ!

 と痛々しい音が2回連続して発生。

 左右どちらの頬にも大きな手跡が付いてしまった。

 クソったれ。

 理不尽じゃねぇーか!



―――

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