第31話 2人っきりで!?

 友里と手を繋いでいる間、意外にも会話はなかった。

 俺から何か話題でも振ろうかと思ったけど、友里の顔を見て辞めた。

 いや。そっとしておいたと言うべきだろう。

 どこか嬉しそうで、うっすらと口角が上がっていた。話すよりもこの場は沈黙しておいた方が良さそうだな。

 それから数十分後。

 少し先に目的地が見え始めた。

 あともう少しで肝騙しも終わりだ。色々あったけど、まあこれもまた思い出になりそうだ。


「友里、少し先に目的地が見え始めたぞ。もうそろそろで着くな」


「本当だ! なんだかあっという間だったね!」


 今の友里の顔からは、苦しさや辛さと言った負の感情は一切感じられない。

 いつもの明るくて元気いっぱいの可愛らしい友里に戻っていた。

 ちょっぴり、目が赤くなっているがな。


「さすがにこの様子を見られるわけにはいかないし、手離すか」


「う、うん。そうだね。ごめんね」


「いや別に良いよ。全然平気」


 友里と手を繋いで目的地に、つまり肝試しを終えた同級生たちの前に現れるのはさすがにアウト。

 変な噂だけは勘弁してほしい。

 俺は静かに手を放し、そのまま歩き進める。

 さあ、この小さく細い山道を登れば、肝試しは終わりだ。

 最後の最後に気合を入れ、歩くスペースを上げた時。


「ああ~、ごめん涼。靴ひもがほどけちゃったから先歩いててくれる?」


 困った顔を浮かべながら、友里は俺を見つめる。


「お、おう。でも1人で良いのか? 暗いし怖くないか?」


「だ~いじょ~ぶ! 平気平気! だから先行ってて!」


「お、おう……」


 友里に背中を押された俺は、そのまま前を歩き始める。

 どこか強引な気がするが、まあいいか。

 それにしても、あの時の女の子とこうして再会できたのも奇跡だな。

 俺としては嬉しい。だがこういった幸福イベントの次にはだいたい破滅イベントが訪れる。

 これはもはやお約束展開に等しい。

 この林間学校でも正体を隠し通さないとな。

 俺はそんなことを考えながら歩いていると。


「ごめ~ん! やっと結び終わったよ~」


 背後から友里の声が聞こえてきた。

 と同時に地面を強く蹴る音も聞こえる。走っているのか。


「あと少しだしがんば」


 前を向きながら俺が言いかけた時だ。

 後ろから近づいて来た友里に腕をぐいっと引っ張られた。

 突然の出来事で動揺していると、友里が小声でこう言いだす。


「あの時助けてくれたお礼だよ」


 直後、俺の頬から柔らかい感触がした。

 最初は一体何が俺の頬に当たったのか、全く分からなかった。

 だが視線を逸らせば、すぐに分かった。

 俺の手を引っ張った後。

 友里が頬にキスをしてきたのだ。


「なっ⁉ ……え⁉」


 焦りがピークに達した俺は咄嗟に友里との距離をとる。

 う、嘘だろ⁉

 俺今頬にキスされたのか⁉

 恥ずかしさと気の動揺で、頭のてっぺんから足の指先まで一気に熱くなる。

 そんな俺の様子を見た友里は、小悪魔の様にニヤニヤと笑いだした。


「このことは2人だけの秘密だよ? じゃあ私先に行くね~」


 クルッと背を向き、まるで何事もなかったかのように1人走って行ってしまった。

 な、何だったんだ⁉

 あの時のお礼をキスで⁉

 まさか友里は俺のこと……。

 ないないないないない!

 ある訳ないっ!

 ほ、ほら、海外だとあいさつ代わりにキスをするだろう? きっとそれと同じ感覚でしただけだよ。俺のことが好きとかそんな訳ない!

 友里の意図が読めず、俺はただただ混乱した。1人真っ暗闇の中、頭を悩ませた。

 あ、そう言えば。友里が走り去って行く時、どこか嬉しそうにしていたが、あれは見間違えか……?


 ○○○○


 肝試しを終えてから30分程度過ぎ、時乃沢高校1年全員は宿泊施設へと戻っていた。。

 この学校は今年から共学になったとはいえ、男子の数はまだまだ少ない。そのため、部屋割りの際、男子は全員同じ部屋となっている。

 つまり! 

 俺はこの誰にも邪魔されない空間で、クラスメイトとの仲を深めることができるのだ!

 この部屋には男子5人がいる。その内3人は今購買でお土産を見ている。

 そのため、部屋には俺と南沢君というクラスメイトしかいない!

 絶好のチャンス!

 俺は息を整え、ファーストコンタクトを取ろうとした。

 その時。


『ブゥー。ブゥー。ブゥー』


 スマホの着信音が聞こえた。

 な、何でこうタイミングバッチリなんだよ。

 俺は誰が送って来たのか確認するとそこには……。

 『古井さん』という文字がスマホの画面に映し出されていた。

 あー、やばいなこれ。

 俺は何も見なかったようにスマホをポケットにしまい、気を取り直して南沢君に話しかけようとしたが。

 今度は南沢君の方にも電話がかかって来たみたいで、電話に出てしまった。

 な、何でこうタイミングが悪いんだよ。

 俺は電話が終わるまで静かに待っていると。


「え? 涼? 今俺の目の前にいるから電話変わろうか? うん。オッケイ。じゃあ変わるよ」


 と俺の名前を出して来たと思えば、通話中のスマホを俺に差し出してきた。


「え、えっとこれは?」


「涼に用があるみたいで、電話に出て欲しいってさ」


「相手は誰?」


「古井さん」


 あの人はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 電話に出ないからって、南沢君を利用してきやがった!

 何て卑怯な手を使いやがるんだぁぁぁ!

 またしても逃げ道がないじゃねぇーか!

 俺は恐る恐る南沢君のスマホを握りしめ、そっと耳を当てた。

 嫌な予感しかしない!

 破滅イベントとかやめてよ⁉

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