第24話 理性がぶっ飛ぶ!?

 ネットで調べてみた所、この先の道路で衝突事故が起きたらしい。現場はかなり悲惨で、撤去作業にかなり時間がかかるみたいだ。

 他の道から行こうにも、方向転換なんて出来そうにない。

 どこを見ても四方八方車だらけ。

 これじゃあ何もできない。

 スマホの時計を見てみると、もう少しで集合時間となってしまう。

 このままだと、他の生徒や教員に迷惑がかかると判断した俺達は……。


「皆~。先生たちに今電話したわ。今回は特別に遅れて来ても良いって~。今日は仕事ないし、宿までは私が連れて行ってあげるわ~」


 古井さんママは耳からスマホを話し、にっこりと笑いながらそう言った。

 そう。どう頑張っても集合時間に間に合わない俺達は、そのまま古井さんママに送ってもらうことになった。

 先生達に許可を得たので問題はないが、正直申し訳ない。


「あの、本当すみません。せっかくの休みなのに」


「いいのよ~。気にしないでね~。私ね~車の運転すっごい好きなの」


 俺の言葉に、古井さんママは先ほど見せた笑顔を何1つ崩すことなく、優しく返した。

 何だ、この優しさに満ち溢れた笑顔は。

 その隣にいるあなたの娘さんはとんでもない程のドエスですよ。

 古井さんのドエスは一体誰譲りなんだよ……。

 そんな訳で、渋滞にはまってしまった俺達は林間学校の宿泊施設までそのまま送ってもらうことになった。

 だがこの時の俺はまだ知らなかった。

 古井さんのドエスは母親譲りであることを……。


 ○○○○


 渋滞にはまってから数時間ほどが経過。

 無事に撤去作業が終わり、俺達は運転を再開することができた。

 車内にいる間は、世間話などで結構盛り上がり、意外にも退屈しなかった。だが相変わらず両サイドに女子がいるので、若干息苦しい。女子とこんなに密着したことなんてないからなー。

 本当変なことを考えれば即アウト。

 心を無心にすれば大丈夫だ。

 さっきみたいな、急カーブが来なければ大丈夫!


「さあ皆~。このした山道を通り過ぎれば、宿につくわよ~」


 どうやら、もうちょっとで到着するみたいだな。

 やっとこの状況から脱することができる。あとはこの山道を。

 クネクネした道を通りすぎれば……。

 ん?

 おいちょっと待て。

 今古井さんのお母さんなんて言った?


「ここの山道は車の通りが少ないから、一気にスピード上げるわよ~」

 

 古井さんママの言葉の直後。

 ブゥゥゥゥゥゥン!

 と、轟音を鳴り響かせながら、車のスピードが一気に上がった。


「えぇぇぇぇ⁉」


 後部座席にいる俺達3人は、突然の展開に黙ってなどいられなかった。

 だが俺達の動揺などまるで無視するかの様に、古井さんママは全くスピードを落とさなかった。


「ここからが本番よ!」


 そのまま最初のカーブを通るため、古井さんママは一気にハンドルを切り、プロ並みの華麗なドリフトをした。

 ギュウゥゥゥゥン!

 と、タイヤと道路が激しく擦れる音が聞こえてきたと思えば、


「マジかよ!」


 再び遠心力で俺の体がひなみの方へと吹っ飛んでしまった。

 先ほどはひなみの胸元だったが、今度は抱きしめているような形になってしまった。遠心力のせいで思い切りひなみと俺の体が正面から強く抱きしめ合う状況に。

 や、やべぇぇぇぇぇぇ⁉

 理性がっ⁉

 

「りょ、涼君。ちょっと苦しい……」


「ご、ごめんひなみ!」


 俺がひなみから離れようとした時。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ! さっきと同じ展開だぁぁぁ! 涼避けて!」


 友里が俺の隣から抱き着くように飛び込んで来た。

 クソ、何だこのデジャブ展開は!

 前方ではひなみとほぼ抱き合うような形になって、後方では友里の胸の感触が……。

 うおおおおおお!

 やばいやばいやばい!

 り、理性が吹っ飛ぶ!

 女子2人によるサンドウィッチ状態になっている俺をバックミラー越しで確認した古井さんは、表情1つ変えず静かにこう告げる。


「あぁ。ごめんなさいね。言い忘れていたことがあったわ。お母さん、ちょっと前から『イニシャルC』っていう漫画にハマっているの。だからドリフトとか凄い練習して上達したのよ。気を付けることね」


 いやそれ早く言ってくれない⁉

 運転が好きだって言っていたのは、そういう訳だったのかよ!


「あらあら~。後ろの席の皆、すっごく楽しそうね~。これってあれでしょ? ラブコメ漫画のお約束展開みたいなものよね。良いわね~。青春じゃない。羨ましいわ~。ここで終わりにするのも、もったいないしまたドリフトするわね!」


「ちょっとそれは!?」


 後部座席にいる俺達3人は息を揃えて訴えるが、全く意味がなかった。


「そ~れ~!」


 まるではしゃいでいる子供の様に、この状況を楽しむ古井さんママ。

 今度のカーブはさっきとは逆向き。つまり、友里の方へと俺の体は投げ飛ばされた。

 物理法則に抗う事のできない俺は、友里の胸元に思い切り顔をめり込ませてしまう。

 柔らかい感触に思わず心臓の鼓動を上がってしまう。

 やばい。本当にやばい! 

 すぐさま離れようとするが、ひなみがそれを阻止するかのように背後から密着してきた。

 

「ちょ、ちょっと涼! こ、これはまずいのでは!」


 友里の恥ずかしがる声に、俺はすぐさま返した。


「俺も離れたい気持ちで一杯だが、ひなみが後ろにいるから離れられない!」


「ご、ごめんね涼君! す、すぐに離れるね!」


 ひなみはそう告げるとゆっくりと俺の背中から離れ始めった。

 だが、古井さんママの攻撃は止まらない。


「あ、またしてもカーブだわ~。もう一回ドリフトしちゃおうかしら!」


「それはやめてぇぇぇぇぇ!」


 俺とひなみ、友里は声を大にして反対するが、結局ドリフトの嵐は終わらなかった。

 10回は超えるであろうドリフトに、後部座席にいる俺達はただただ耐え忍ぶしかなかった。

 何度も激しく揺れ動く中。俺は運転席にいる古井さんママの顔を見たが……。

 思い切り楽しそうだった。

 純粋にドリフトと、ラブコメ展開に興奮していた。

 ああ。そうか。

 古井さんのドエスはお母さん譲りなのか!



 あれから少し経ち、俺達はどうにか宿泊施設に到着することができた。

 駐車場に車を止め外に出ると、心配した表情で担任の華先生が近づいて来た。


「よかった! 無事に到着したみたいだな! ってあれ?」


 俺達の様子を見た華先生は思わず頭上に?を浮かべた。


「どうして古井以外は、既に満身創痍なんだ?」


「これには色々ありまして……」


 後部座席に座っていた俺達3人は、言葉を重ねる。

 何度もドリフトをされ、サンドウィッチ状態を繰り返した俺達のHPなど、ごく僅かだ。

 ただあの状況下でも、古井さんは助手席にいたから対してHPは削られていない。

 クソ! 

 このドエスファミリーがぁぁぁ!

 と、心の中で叫ぶ俺だが。

 あの展開にちょっと嬉しさを感じていたことは黙っておこう。


―――

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