第21話 優しい!?
「お話って何でしょうか?」
「その前にどうして敬語なのよ。パワハラ上司と電話しているみたいじゃない」
「いや、実際パワハラみたいなことをされている気が……」
「今何か言った?」
「いえ! 何も言っていません!」
ドエス相手に真っ向から反論なんてできっこねぇ。
無理があるぞ。
それに古井さんは世界でたった1人俺の正体を知る人物。変に刺激したら何されるやら。
「まあ良いわ。早速だけど本題に入るわ」
「お、おう……」
俺はごくりと唾を飲みこむ。
緊張と不安の板挟みになっていて、冷や汗が止まらん。デートの次は一体何をすれば良いんだ?
頼むからハリウッド映画みたな無茶な要望だけはやめてくれよ……。
数秒の沈黙後、古井さんはさらっとこう言った。
「今日のデートは楽しめたかしら?」
「……はい?」
俺の聞き間違いか?
今感想を聞かれたような?
「だから、ひなみとの遊びはどうだった?」
聞き間違いじゃなかったみたいだ。
まさか感想を聞くために電話して来たのか。
「う、うん。凄く楽しかったよ。ひなみの色々な所を知れて良かった」
「ふぅーん」
な、何だその意味深な相槌は。
何か言ってはいけないことでも言ってしまったか?
いや、単純に感想を言ったまで。特にタブーには触れてないはず。
「なるほどね。あなたも結構やる男ね」
「ヤル男って……。本当に何もしてないよ」
「そっちのヤルじゃないわよ。ど変態童貞さん」
「え? じゃあ何?」
「信頼関係を築いたみたいね」
「信頼関係?」
「えぇ」
その後も古井さんは続けた。
「デートに行く前は九条って言っていたのに、今ではひなみって言うのね。何があったかは知らないけど、ひなみとそれなりに親しくなったのは確実」
こ、この人……。
本当に鋭いっ!
よく俺のことを分析なさってますね!
「ま、まあね」
「ひなみの色々な一面を知れてどうだったかしら?」
「どうって……。まあ良い奴だなって」
「そう。その言葉が聞けて何よりよ。私の目標は達成できたという訳ね」
「目標?」
何だ?
古井さんは何を達成したんだ?
ってか目標って何だ?
「えぇ。私が意味もなくデートに行かせたと思うかしら? 君にひなみの良さを知ってもらいたかったのよ」
どういうことだ?
古井さんは俺をイジルつもりでデートに行かせたんじゃないのか?
疑問に思う俺を無視するかのように、その後も古井さんは話すのを辞めなかった。
「君は世間から英雄扱いされている。だから正体を隠し通したい。その気持ちはわかるわ。私も同じことをするし。でもね。その理由でひなみを遠ざけることはしないで欲しい。あの子は本当に純粋で幼くて天然で……それでいて誰よりも優しい。そのことを君に分かってほしかった。もしひなみのことが嫌いではないなら、あの子の傍にいてあげて」
古井さんの意図を知った俺は、思わず黙り込んでしまった。
てっきり悪ふざけでやったのかと思ったが、実際は違った。
単純にひなみと仲良くなって欲しい。
その想いが古井さんにあった。もし今日のデートがなければ、俺は九条の色々な一面を知ることはなかった。
親しくなることもなかった。
このままずっとひなみから遠ざける素振りを続けていたら、どうなっていたのか……。
「古井さんの意図は分ったよ。正体を隠し通すことに夢中になり過ぎた。確かにひなみは良い奴だ。遠ざかる理由なんてないよ。……ひなみの傍にいる。そのことを約束するよ」
「……そう。ありがとう」
「いやお礼はこっちの台詞だよ。古井さんがいなかったらここまで仲良くなれなかった」
「別に君の感謝の言葉なんていらないわ」
「そう冷たいことを言うなよ」
「これが私よ。超ドエスだから」
「あぁ。分かってるよ古井さん。でも意外だな。古井さんってドエスだけど案外友達想いで優しいんだね」
「か、からかうのは辞めなさいど変態童貞さん!」
あ、あれ?
今一瞬古井さんの口調が乱れたような……?
もしかして古井さん、褒めに弱いのか?
「そ、そろそろ時間だから電話を切るわ。そ、それじゃあ。あ、最後に1つ言い忘れていたことがあるわ」
「え? 何?」
すぅー。
と、電話越しから古井さんが息継ぎをしているのが聞こえてきた。
大声でも言うつもりか?
「一度しか言わないからよーく聞いておくことね、ど変態童貞さん」
その後古井さんはこう言いだす。
「あの時、地下鉄通り魔から私の親友を守ってくれてありがとう。感謝しているわ、涼」
言い終えると、俺の反応など一切聞くつもりがなかったのか、古井さんは電話を切った。
ひなみの色々な一面も知れたけど、古井さんの意外な面も知ってしまったな。
いつも超ドエスで毒舌全開。
だけど、友達想いでツンデレな一面もあるんだな。
まあでも、これでどうにか一件落着だ。
疲れたな、さすがに
○○○○
それから日は流れ、月曜日を迎えた。
「ふぁぁー、眠い。クソ眠い」
俺は目が半分閉じた状態で、学校へと向かっていた。
最寄り駅を降りたら学校まで一本道。
だが距離は結構ある。今は春だから良いが夏は大変になりそうだな。
そんなことを考えていると。
「おはよう! 涼君!」
後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
この透き通った声に、聞いただけでもハイテンションだと分かるトーン。
間違いない。
「よう、ひなみ。おはよう」
後ろを向くと、ネット民から1000年に1人と言われているひなみが立っていた。
まあ振り向かなくても良かったんだが、挨拶ぐらいちゃんと顔見て言わないとな。
ひなみが俺の隣まで来た後、一緒に歩み始める。
「涼君もいつもこの時間から登校しているの?」
「まあね。遅刻したらまずいし」
「そ、そっか。わ、私もいつもこの時間帯に登校するんだ」
「へぇー、奇遇だな」
「そ、そうだね……」
ひなみは俺の方をチラチラ見つめながら、何か言いたげな表情を浮かべる。
もしかして……。
一緒に登校したいのかな?
確信がある訳じゃないが、多分そんな気がする。
そう思った途端、土曜日の古井さんとのやりとりが走馬灯のように俺の脳内をよぎった。
『傍にいてあげて欲しい』
そのことを約束したからには、守らないとな。
「よかったら、明日から一緒に行くか?」
俺の提案を聞いた直後、ひなみの目が一瞬にしてキラリと光輝いた。
「ほんとうっ⁉ 迷惑じゃないなら、明日からそ、その。一緒に行きたい」
「別に迷惑じゃないよ。じゃあこの時間に駅集合で」
「うん!」
すぐ隣でひなみはニッコリと笑った。
ひなみは良くも悪くも有名人だ。体目的で変な奴に絡まれる可能性だってある。この前の不良みたいにな。
そんな時のために、誰かがひなみの傍にいなきゃならない。守らなければならない。
だったら。
俺が傍にいて、守ってやろう。
勿論、正体を隠し通しつつな。
後日談。
教室に着いた後、俺は古井さんから無事に生徒手帳を返してもらった。
―――
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