第20話 またハメられた!?
11月1日にスニーカー文庫から発売決定!!
タイトル→「地下鉄で美少女を守った俺、名乗らず去ったら全国で英雄扱いされました。」
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――――――
異性の人を下の名で呼ぶ。
これは交際を始めた男女が始める典型的なあるあるだ。勿論、恋人関係でなくても親しい友人の場合も当てはまる。
だが総じて言えるのは、リア充でなければ起きないイベントだ。
リア充という単語とは対極に位置する俺なのだが。
このイベントが、突如として発生してしまった。
「……え?」
九条の言葉に、俺は思わず固まってしまった。
まさか相手からお願いされるとは……。
「そ、その……。苗字より、下の名前で呼んでくれた方が、嬉しいから。つい……」
九条は視線をスッと下へ逸らし、小声で呟く。
どうしていきなりこんなことになったのかは分からない。
九条は良い意味で天然だ。考えていることなど予想できない。
でも俺のことを信用してくれていることは確かだ。
でなきゃ、あっちからお願い何てするはずがない。
「……うん。分かった。苗字で呼ぶのは辞めるよ、ひなみ」
俺が下の名前で呼んだ途端。
視線を再び俺の方に戻し、ひなみは口角を上げた。
そんなに嬉しかったのかな?
「ありがとう、涼君。凄く嬉しい……」
モジモジしながらも、視線だけは俺の目をはっきりと見つめていた。
照れながら上目遣いするとは……。
超可愛いじゃねぇーか!
「そ、それじゃあ電車が出ちゃうからそろそろ行くね、涼君」
「あぁ。また月曜日にな、ひなみ」
「うん!」
最後にとびっきりの笑顔を俺に見せた後。
ひなみは俺に背を向け、ホームへと向かって行った。
どこか嬉しそうにスキップしながら……。
こうして長かったようで短かったデートが終わりを迎えた。
古井さんの罠にハマった時はどうしようかと悩んだが、案外楽しかった。
ひなみの色々な面が知れたしな。
幼くて純粋で素直で。
そしてよく笑う。
とびっきり楽しみながら笑う。
正体を隠し通したい思いとは裏腹に、そんなひなみともっと一緒にいたい。
そう思う自分が心のどこかにいた。
○○○○
「あー、さすがに疲れたな。もうこのまま寝てぇー」
デートから帰宅した後、俺は自室のベットに思い切り飛び込んだ。
家に着いたと当時に、緊張と疲労がグッと俺の体を襲って来た。
さすがに半日近く女子と遊ぶと疲れるな。
このまま柔らかい感触に包まれながら、夢の世界に行ってもいい気分だ。でも風呂に入ってないし、歯も磨いていない。あと飯もまだだ。今どうせ寝たって、妹に叩き起こされるだろう。
俺は睡魔に抗いつつ、ボーっ天井を見つめた。
破滅イベントが立て続けに起こったが、何とか回避はできたはずだ。
そう思いたい。ひなみが俺の正体に気が付いたら、色々と面倒だ。
世間から英雄扱いされている中で正体を明かすなど絶対に無理。
黙って静かに傍にいるのが得策だろう。
そう考えている時だ。
「お兄入るぞー」
妹の
「あのさ、何度も言ってるけどノックぐらいはしてよ。年頃の男の子の部屋に気安く入れないでくれます?」
「いや普通にノックすんのめんどい。どうせお兄のことだし、エッチな動画でもみてるんでしょう? もうバレバレだし気にする必要なくない?」
「おい、分かっていても言わないのが優しさだろうが」
相変わらず俺の扱いが雑だな。
今日お兄ちゃん頑張ったんだから、もうちょっと優しくしてくれます?
「それで用件は? もう飯でもできたのか?」
「残念ハズレ。お兄に電話が来てる」
「え? 電話?」
美智香は俺に近づいた後、手に持っていた受話器を差し出してきた。
電話か……。
何故だろう。まだ誰がかけてきたのか教えてもらっていないが、だいたい予想がつく。多分あの人だ。
いやまて。速まるな!
きっと学校関係者の電話かもしれない。
あのドエスではないはず。絶対に違うはず!
「あ、相手の人って誰?」
「古井さんて人。クラスメイトって言ってたよ?」
クソったれ……。
またかよ。またあの人からかよ。
この電話に出たら、次はどんな任務を言い渡されるか分らん。
それにこんなヘトヘトな時に、超がいくつあっても足りないドエスと電話なんて無理!
絶対無理!
「美智香、お兄ちゃんは今深い夢の中に入っていて中々起きない。そう伝えておいてくれ」
悪いが一旦逃げるぜ古井さん。
気力体力共に回復した後に電話を掛け直しますよ!
「あ、お兄。言い忘れてたんだけど、保留ボタン押してないから、今も通話中だよ。古井さんから保留ボタンは押さないでって言われたから」
あのドエスがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
俺が逃げることを分かってて、妹にそう頼み込んでいたのか!
ってことは今までの会話全部漏れてるじゃねーか!
やられた……。
一度ならず二度までも!
「わ、分かった。お兄ちゃん頑張るから、美智香は部屋から出てくれ」
「はーい」
受話器を俺に渡し終えた後、美智香はそのまま部屋から出て行った。
静かになった自室で、俺はそっと耳に受話器を当てた。
「も、もしもーし……」
数秒後。受話器から古井さんの声が聞こえてきた。
「夢の世界はどうだったかしら? 十分楽しめた? それともエッチな動画でも見てたのかしら?」
「は、はい……すみません」
ちくしょー!!!
会話全部聞かれてたから逃げられねぇー!
言い訳もできねぇー!
「私から逃げれるとでも思っていたのかしら?」
「ほんっとすみません……」
「まあ良いわ。お話良いかしら?」
あはははははー。
古井さんとお話か……。
い、嫌な予感しかしねぇぇー!
ーーー
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