第18話 ツーショット!?

「おい、何でここにいるんだよ。懲りてないのか?」


 つい先ほど警告したのに、もう無視して来るとは。

 予想外過ぎて逆に凄いぞ。俺なら絶対にしない。


「た、多分だけど偶然だと思う……。あっちは私達に気が付いていないみたいだし」


 九条の言葉を聞いた俺は、もう一度注意深く不良達を見てみる。

 すると、視線があちこちに向いており、俺達の方をまるで見ていない。

 それどころか楽しそうに話している。

 ってことは、偶然居合わせたってことか。

 何でこう破滅イベントが連続するんだよ……。


「ど、どうしよう涼君⁉ どんどんこっちに近づいて来ているよ! このままだと見つかっちゃうよ!」


 隣でオドオドしながら慌てだす九条。

 焦っている姿も可愛らしいが、そんな気分を楽しんでいる暇はない。

 すぐにどこかに隠れないとまずい。


「まずはどこかに隠れよう。あいつらにバレたら面倒だ」


「そ、そうだね! じゃ、じゃあここに隠れよう! 涼君!」


 この言葉の直後。

 九条はグッと俺の手を掴み、強引に引っ張りだした。


「お、おい。どこに行くんだ!」


「私が思いつく限り、男子が絶対に入らないかつ近づかない場所はここだけだよ!」


 慌てているというのに、その目には何故か自信に満ち溢れていた。

 九条のこの様子だと、本当に良い隠れ家があるみたいだ。

 あいつらが近づかず、絶対に立ち入らない。

 そんな場所って……。


「さぁ涼君着いたよ! ここなら絶対大丈夫!」


 強引に連れて来れられた場所はといういうと。

 プリクラの前だった。

 た、確かに不良達から隠れるには持って来いだ。

 男だけでこんな所入る訳ないだろうし。

 で、でもプリクラって、女子かカップル専用の場所だ。

 そこに入るだけでもちょっと抵抗感があるぞ。


「ここの中なら安心だよ! 早く入ろう!」


「お、おう」


 気乗りはしないが、入るしかない。不良達はこうしている間にもどんどん近づいている訳だし。

 このまま真正面から鉢合わせするよりかはマシだ。

 俺と九条はそのまま一台のプリクラの中に入り、一時身を隠すことにした。

 プリクラの出入り口は隠されているため、顔は見えない。

 覗かれた場合を除き、まずバレる可能性はない。


「ふー。あ、危なかったね! もうちょっとでバレる所だったよ」


 一安心したのか、九条は大きく息を吐きながら落ち着きを取り戻した。

 

「ちょっとこの中で時間を潰して、様子を見つつゲームセンターの外に出るか」


「うん! そうだね。その方が私も良いと思う」


 俺の意見に賛同してくれたのは嬉しいが、問題はここからだ。

 このプリクラの中という、小さく狭い空間で男女が2人きり。

 マジで何をしたら良いんだ?

 先ほどは周囲にゲームがあったから楽しめたが、今はそれがない。

 あるのはプリクラの操作画面のみ。

 どうやって時間を潰す……。

 頭を悩ませていると、語尾に四分音符でもついているかのような音声ガイダンスが聞こえて来た。


『いらっしゃいませ! 画面をタッチして撮影するモードを選んでね!』


 どうやら、人が入ると自動で音声が流れるみたいだ。画面に色々な写真のモードが掲載されている。

 こんな感じなのか、プリクラの中って。

 初めて入るからちょっと新鮮だし、興味があるな。

 タッチ画面をつい好奇心で見つめる。

 すると、その様子を見た九条は俺が撮りたがっていると勘違いしたのか、


「そ、その涼君……。撮ってみる? 私も撮ろおかなって思ってたところだし」


 ボソッと小声で提案してきた。

 視線が何度も同じところを行き来しているが注意してみると、時折こちらを見つめていた。

 俺の返事が気になってしょうがないのか……。

 恋人でもない男女が2人きりでプリクラを撮るのは正直恥ずかしい。

 とは言っても、このまま何もやることなくボーっと突っ立っているのもそれはそれで嫌だ。

 女子とプリクラを撮る何て機会はもう一生に一度も来ないだろう。

 それにプリクラを撮ったからと言って、正体がバレる訳じゃないし、新たな火種が生まれる訳でもない。

 ここは一緒に撮るか。


「お、お願いします……」


「う、うん。私なんかとで良ければ」


 お互い顔を赤くし、恥ずかしがり合う。

 何だよこの流れ。

 滅茶苦茶恥ずかしいじゃねぇーか!

 顔を赤くしながら、上目遣いでこちらを見つめないでください九条さん!


「じゃ、じゃあ撮ろうか……。よ、よろしくね」


「お、おう。俺初めてだからリードしてくれ」


 九条は淡々とタッチ画面を操作し、撮影モードを選択。

 すると、 


『5秒後に撮影を始めます! 画面に映るようにくっ付いてね!』

 

 またしてもテンションの高い音声ガイダンスが聞こえて来た。

 もう始まるのか。

 ま、まだ心の準備が……。

 と、俺がモジモジしていると、九条が突然肩をくっ付けて来た。


「え⁉ お、おい急にどうした⁉」


「だ、だって画面に映らなかったら嫌だし、距離があったまま撮るのも嫌だだから」


 気持ちは分らんでもないが、急すぎる!

 クソ……。香水の良い匂いがツンッと嗅覚を刺激してくる。

 やっぱり可愛い子には抜け目ない。

 

「ほ、ほら涼君笑って! もう写真撮るよ!」


「お、おう!」


 この直後、連続して何枚も写真を撮る羽目になってしまった。

 写真写りが苦手な俺の顔は酷く、正直見ていられなかった。

 目が大きくなったせいで顔のバランスが崩れ、まるで整形手術に失敗したかのように。

 こ、これが俺なのか……。

 タッチ画面に映った俺に絶望してしまう。


「く、九条。すまん。何か俺だけキモくなって」


 俺とは反対にどの写真にも九条はばっちり決めていた。

 本当可愛く撮れてるよ。やっぱ可愛い子は写真写りも凄いんだな。

 圧倒的な差を見せつけられ気分が落ち込んでいると、


「ほんっと涼君面白い顔になってるね! じゃあこうしてあげる!」


 九条は笑いつつタッチペンで俺の顔に髭を書いてきた。 

 ただでさえキモい顔になっているのに、そこにボウボウの髭が生えるとなると、もはや人間ですらなくなる。


「あ、ちょっと何してんの!」


 このまま黙っている訳にもいかん。

 お返しとして、もう一個のタッチペンで九条の顔色を紫一色に染めてやった。

 おかげで毒キノコでも食べたかのように、九条の印象がガラリと変わった。


「ああ! やったな! じゃあ私もこうしてやる!」


「あ、ちょっとそれはないでしょ! じゃあ俺も!」


 と、こんな感じでお互いの顔をいじくり合い、結果酷くて見ていられない写真が出来上がってしまった。

 九条は重病にかかった病人の様な顔に。

 一方俺は宇宙人の様に人間とはかけ離れた顔に。

 出来上がった写真を見つめた後、お互い目を合わせる。


「「ぷ。ぷはははははっ!」」


 面白おかしく出来上がった写真に、俺達は腹を抱えて笑い合った。

 10秒間ぐらいは笑い合っていたかもしれない。

 目から笑い涙がこみあげてきてもそれを気にせずずっと笑った。

 初めてだな。

 女子とこんなにも笑いあったのは。



ーーー

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