第16話 照れている!?

 涼の視点に戻ります。

――――


 不良達に絡まれている九条を、黙ってみていることなど俺にはできなかった。

 正体がバレれば俺の学生生活は終わりを迎える。

 色々と面倒なことになっちまう。

 でもよ。

 目の前で友達が苦しそうな顔をしているのに、何もせずにはいられねぇーよ。


「あ? お前何? この子の彼氏?」


 リーダーであろう不良が、俺を睨みつけながら聞いてくる。


「いいや、ただの友達だ」


「あっそ。正義のヒーローごっこしているなら、すぐにどいた方がいいぞ。痛い目見るぞ?」


 完全に舐められているな。相手は複数人。対して俺は1人。

 数的には俺の方が不利なのは明白。

 でもだからって絶対に負ける訳じゃない。


「それはこっちの台詞だ。痛い目見るのはお前らだぞ」


 この言葉の直後。

 不良は先ほどよりも顔つきを怖くし、拳をスッと前に出した。

 そして小刻みに前後に動き出す。


「バカだなーお前。カッコつけてよ。ぼっこぼこにして、格の違いを見せてやるよ!」


 なるほど。

 格闘技を経験しているみたいだな。

 だが実力はおそらくほとんど無いに等しいだろう。

 何せ不良の両手には一切の傷がない。手が綺麗だ。

 普通格闘技をやっていたら、それなりに傷はつく。

 適当にかじった程度だろう。 

 素人に毛が生えたレベル。

 問題ない。


「何さっきから静観かましてんだこら⁉ 俺にビビってんのか⁉」


 この言葉の直後。

 不良は一気に距離を詰め、俺の顔面を目掛けて殴りかかって来た。


「涼君!」


 せまり来る拳を前に、九条は思わず言葉がこぼれる。

 彼女の目には、俺の敗北している姿でも見えているに違いない。

 一見すれば確かに不利な状況で勝ち目はなし。

 でもこっちは過去に武術を習っていた上に、刃物を持った通り魔と戦って無傷で生還しているんだ。

 この程度の殴りなんて、可愛く見えるよ!

 バシッ!

 と、俺は不良の拳を片手で強く掴んだ。

 お前の攻撃なんて、通り魔と比べたらビビる要素何て何1つない!


「はぁっ⁉」


 予想外の展開に、不良は動揺を隠しきれなかった。

 そりゃそうだ。見下してた奴が片手1本で自分の拳を防いだんだ。

 驚かない方が逆に不自然だ。


「お、お前何者なんだよ!」


「別に……。ただの普通の学生だよ!」


 俺は拳を掴んだままクルっと後ろの方を向き、そのまま不良を背負い投げした。

 バンッ!

 と、体が床に激しく激突した音が響き渡る。

 俺に背負い投げされた不良は、激痛のあまり立ち上がれなくなっていた。

 もう反撃はしてこないだろう。

 俺は再び前を向き、他の不良達をキリっと睨んだ。


「もうこれでいいだろ? さっさとどっかへ行ってくれ。もしまた俺の友達に手を出したら、今度はただじゃおかないぞ!」


 この学生には勝てない。言う事を聞かないと本当にやばい。

 そう思ったのか、


「は、はい……。す、すみませんでした!」


 不良達はあっさりと俺の要望を聞き入れ、リーダーを担ぎながらこの場を立ち去って行った。

 ふぅー。

 これで九条を狙う卑しい奴らは無事に消えたな。

 さすがにもう大丈夫だろう。

 俺はすぐ隣にいる九条に視線を移し、声をかける。 


「何とか撃退することに成功したな。また何かあったら言ってくれ。どんな時でも助けるよ」


 九条は日本屈指の美少女だ。1000年に1人何て言われているほど、誰もが認める美貌の持ち主。

 こういう輩に絡まれてしまうのはしょうがないことだ。

 正体がバレてはいけないとはいえ、さすがに友達のピンチにはしっかりと応えたい。

 傷つく姿は見たくないしな。


「あ、ありがとう涼君……」


 俺と目が合った途端。

 九条はすぐさま視線を下に逸らした。

 あれ?

 俺避けられてる?

 俺はその様子に少々不安を感じていたら、彼女の口からボソッとこんな一言が聞こえて来た。


「す、凄くカッコよかった」


 顔を真っ赤にし、照れくさそうに言うその姿に、さすがの俺も。

 

(か、可愛いじゃねぇーか)


 そう思ってしまった。


「涼君あのね……聞きたいことが……ううん。やっぱり何でもない。今はいいかな」


「え、そうか」


 最後に何を言いたかったのかは分からなったが、まあ気にすることはないか。

 俺の正体がバレている訳でもないだろうし。

 にしても、午前中はテンションが高く幼い九条だったが、今度は恥ずかしがり屋な一面もあるのかよ。

 古井さん。

 あんたのせいで色々トラブルと連発だけど、今だけちょっと感謝するよ。

 可愛いなおい!

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