第14話 不良に絡まれている!?
「ふっふっふーん♪」
九条の鼻歌が試着室から聞こえてくる。
相当テンションが高くなっているぞ。
これから、九条のプチファッションショーが始まろうとしているのに、何だこのモヤモヤは。
喜びたいのか、避けたいのか良く分らん。
それに若干周りの目も気になる。
九条が店に入ってから、他の客だけでなく作業中の店員さんまで注視していたからな。
頼むから、何も起きないでくれよ。
「じゃあドア開けるね!」
試着室のドアを開けると共に、ワンピースを着た九条が姿を見せた。
試着室周辺にいた店員さんやお客は、あまりの彼女の美しさに目を奪われ、数秒間ピクリとも動かなくなった。
勿論、俺もその内に含まれている。
元々清楚系美少女という属性だったが、さらにそれが強化されたのだ。
今の九条の姿を例えるなら、ワンピースを着た汚れなき女神様と言える。
スタイルの良さをそのまま出しつつ、清楚さをさらに引き出して、見るのも全てを虜にしている。
な、何だこの神々しさは⁉
元々の清楚感がさらにレベルアップされて、神の領域に達しているぞ。
これあれか?
至高の領域と言うやつか?
九条はワンピースを着ただけで、到達したというのか?
強すぎだろ!
「あ、あの涼君。どうかな……? 似合ってる?」
思わず見惚れている俺に、九条は顔を赤くしながらそう聞いてきた。
あ、ダメだ。こんな姿をした九条が顔を真っ赤にしているだけで、理性がぶっ壊れそうだ。
「に、似合っていると思うよ。九条にはピッタリだ」
「え⁉ 本当⁉ 嬉しいな。いつも同性からしか言われたことが無かったから、ちょっと新鮮。えへへ♪」
九条が満面な笑顔を俺に見せて来た途端。
LP 4000
↓
LP 2000
ダイレクトアタックされてしまった……。
こんなのチートだろ。トラップカードでも防げないぞ。
防御不可というやつか……。
「じゃあ、次の洋服着てみるね!」
ドアを閉め、再び鼻歌を歌いだす九条。
そんな彼女を一目見ようと、あちこちから人が集まって来た。
たぶん、さっきに神々しさが店内に駆け巡ったのだろうな。
「おい見たかさっきの子? やべー程可愛いぞ!」
「さっきのあの子、超可愛くなかった⁉ スタイルも良いし超羨ましい!」
「やべー、さっきの姿はまさしく女神様だろう!」
四方八方から、そんな声がいくつも聞こえてくる。
と同時に。
「おい、あの少年ってまさか彼氏か? 羨ましいぞ」
「あんな可愛い子の彼氏になれるなんてすげーな」
「羨ましい以外の言葉が思い浮かばねぇ」
いや……。彼氏じゃないんだよな、俺。
それ勘違いです。
地下鉄通り魔の事件で英雄扱いされたと思えば、今度は彼氏扱いかよ。
何故こう変な扱いや勘違いをされてしまうんだ。
「涼君、ドア開けるねー」
この状況に全く気が付いていない九条は、陽気な声と共に、ゆっくりとドアを開けた。
九条本人からしてみれば、ただの試着に過ぎないだろう。
だが彼女の容姿は、全ての人を虜にする。そんな人が今どきのお洒落な服を着て、満面の笑顔で現れたらどうなるか……。
容易に想像ができる。
「「「ブラウス姿も可愛い!」」」
九条のブラウス姿を見た途端、特に合図もせず、周囲の人々は皆口を揃えてそう言った。
九条のブラウス姿は、先ほどの女神様から一変し、美人OL感が漂っている。清楚な年上女性の魅力を存分に引き出せている。
こりゃやべー。
「りょ、涼君。こっちもどう?」
先ほど同様、顔を赤くして聞いてくる九条。
彼女のそのピュアな態度に。
LP 2000
↓
LP 0
となってしまった。
もう、どっちでも良いよ……。
結局、どちらも似合うため、適当に白のワンピースをお勧めした。
まあ本人は嬉しそうに買っていたが、俺からしたらどっちも変わらない。
ただ言えることが1つ。
あのままファッションショーを続けていたら、間違いなく俺の理性はぶっ壊れていた。
LPが0でもだいぶ正気を保てたから良いが、何度も0にされたらやばいな……。
○○○○
九条のファッションショーが終わってから、次に俺達が向かったのはフードコートだ。そろそろ昼食の時間だ。まあ混んでいるだろうけど、我慢するか。
俺は向かう途中からそんな覚悟を決めていたが、いざ到着してみれば、あっさりと2人用のテーブルを見つけることができた。
「席が偶々空いてラッキーだな。さて、昼飯を食べますか。あ、その前にトイレ行ってきていいか? 確かこのエリアの近くにあったはずなんだよな」
俺は席に荷物を置き、視線をスッと九条の方へと向ける。
「うん分かった! じゃあ私はこの席で荷物とか見てるね」
「サンキュー、じゃあ行ってくるわ」
確か、フードコートの近くにあったはずなんだよな。
少し歩いてうろちょろすれば、男性用のトイレマークがすぐさま目に入った。
さっさと用を済ませ、待たせている九条の元へ急ぐか。
ペースを速めながらも、俺はここまでの苦労をふと思い返した。
古井さんの罠にハメられた時はどうなるかと思ったが、何とかなりそうだ。
九条の買い物は一応午前中で終わったし、後は飯を食って解散。
これだけだ。
破滅イベントが発生してしまったが、どうにか回避に成功できたな。
LPが0になった時は、理性がぶっ飛びそうだったが……。
さぁ、ラストスパートも頑張ろう!
俺は気持ちを再度切り替え、やる気に満ちた顔で九条の待つテーブルへと向かったのだが。視界に九条の姿が入ったと同時に。
見たことのない4人の男性も共に写り込んだ。
パッと見た感じ、相手はフリーターか大学生か?
だが髪型や服装からして、不良の様にも見える。ツーブロックで刈上げている上に、竜の刺繡が刻まれたジャージを着ているぞ。近くの客の顔を見てみれば、全員ビビッて委縮している。
さすがに、こんな奴らが九条の知り合いな訳ないよな。
な、何だこの嫌な予感は。胸騒ぎがする。
もしかして……、あいつ。
不良に絡まれているのか⁉
―――
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