第12話 九条とデート!?

 次の日。つまり、古井さんとの約束の日。

 俺は今△△駅にて、古井さんが現れるのを待っている。昨日の約束では、集合時間は朝の10時。

 遅れると嫌なので、俺は5分前行動よりもさらに早く、10分前に来ている。

 遅れたら、本当に何されるか分からんしな。

 それにしても、人が多い。

 土曜日のためか、駅の至る所には人だまりができている。きっとショッピングモールも激混みなんだろう。

 めんどくさいと思う反面、ちょっと緊張している。パシリとして使われるのは確かだけど、それでも年頃の女子とお出かけだ。

 これは世にいうデートと言うやつだ。

 まだ彼女が出来たことのない俺にとって、本来起こりえることのないイベントなのだが。運が良いのか悪いのか良く分らんが、突如として発生してしまった。

 まあ、古井さんのドエスぶりはもう分かり切っている。覚悟を決めていくしかない。

 さて。そろそろ時間か?

 俺はスマホの画面で現在時刻を確かめてみるが、まだあと5分もある。

 この短い待ち時間が意外と長く感じるんだよな。この現象をなんているんだろう。俺だけじゃないはず。

 そんなことを考えていた俺なのだが。

 背後から突然声が聞こえた。


「あれ? どうして涼君がここに?」


 その声は透き通る程綺麗で、聞いた者を虜にするほどの魅力があった。

 それと同時に、随分と聞き覚えのある声でもある。

 俺は恐る恐る声が下方向へと振り向くと、そこには……。


 何とも可愛らしい私服姿をした九条が、不思議そうに俺のことを見つめていた。


 なんだその姿は……。制服の時とは一変して、随分とお洒落で清楚感が漂っているぞ。

 昨日は、ストレートの髪型だったのに、今日はポニーテールじゃねーか!

 美しさと可愛さ。この両方を兼ね備えた完璧すぎる容姿に、俺は不覚にもドキッとしてしまった。こんな姿を見せられて、何も感じない方がおかしいよ。

 周りを見渡せば、皆俺と同じことを考えていたようだ。足を止め、九条の方をじっと見つめる人が多い。

 1000年に1人の美少女と言われているだけはある。

 て、おいおいおいおいおい。何見惚れているんだよ俺は!

 そんなことよりも、何でここに九条がいるんだ?

 偶然と言うやつか?

 いや、だとしてもあり得るか?

 普通、こんな偶然ないぞ!

 何で昨日に続き、破滅イベントが起きるんだよ。しかも今日は土曜日。学校が無い日だぞ。本来会う事すらないって言うのに。

 まあ、偶然にしろ必然にしろ、挨拶だけでもしておこう。

 九条もきっと彼氏とデートの待ち合わせをしているに違いない。

 

「お、おお。九条。おはよう。偶然だな。ここで待ち合わせでもしているのか?」


「あ、うん。そうなの。10時に待ち合わせの約束をしてるんだ。偶然って凄いね。まさか涼君とここで会うなんて」


「俺もだよ。同じ日に同じ場所で同じ時間に待ち合わせしているなんて、中々ないよな」


「なんだか奇跡みたい」


「ああ。そうだよな。いやー、それにしても、もうそろそろ集合時間になるっているのに、まだ来ないのか。遅刻するなって言ってたけど、大丈夫なのか? 言った本人が遅刻したら本末転倒だ」


「あー、そういえば、まだ私の方も来ていないなー。10時に待ち合わせって言ったのに。遅いなー」


 そして俺と九条は息を揃えて、お互いにこう言った。


、もしかして寝坊したのか?」


、もしかして寝坊しちゃったのかな?」


「……。ん?」


 おい、ちょっと待て。

 今九条なんて言った?

 え? 古井さんの名前出したか?

 俺の聞き間違いか?


「ちょっと待て。もしかして九条は古井さんとここで待ち合わせをしているのか?」


「え? う、うん。そうだけど。でもどうして涼君の口から古井ちゃんの名前が出るの? 私何も聞いてないよ」


「お、俺もだよ。来て欲しいって昨日の夕方に言われたから、今ここにいるんだ」


 おかしいぞ。俺は古井さんからここに来いって言われて来てみれば、本人は何故かおらず、代わりに九条がいる始末。

 もしかして、九条も同伴することを伝え忘れたのか?

 いや、古井さんに限ってそんなミスは犯さないだろう。何しろ断片的な情報で、俺の正体に誰よりも早く気が付いたんだ。

 ってことは? 意図的に情報を伏せたのか?

 だとしたら、何のために?

 俺は解決できない疑問に頭を悩ませていると。

 ズボンのポケットに入れておいたスマホから電話の通知が聞こえた。

 画面を見てみると、非通知設定の文字が。

 誰だ?

 俺は若干警戒しつつ、電話に出てみることにした。


「はいもしもし。涼ですけど」


「あら、よかった。しっかりと電話に出てくれて安心したわ。私よ。私」


 電話の相手は、まさかの古井さんだった。

 もしかして、生徒手帳に書いてある携帯の電話番号を見てかけてきたのか?。

 いや、そんなことはどうでもいいんだ!

 速くこの訳の分からん状況を聞き出さないと。

 何でここに九条がいるんだ!


「ちょっと古井さん! なん」


 古井さんは俺の言葉をクールな口調で遮り、話を始めた。


「分かっているわ。どうせ『何で九条がここにいるんだ⁉』的なことでしょう?」


「え⁉ 何で分かるんだよ……。ってか九条がここに来ているのが分かるのか?」


「まあね。ひなみって5分前行動を絶対に守るから、今頃君の隣にいるだろうと思っていたのよ」


「す、すごいな。んで? 古井さんは今どこにいるの? 俺聞かされてないぞ。九条がいるなら、いるって言っといてくれよ。びっくりしちまったじゃねーか」


「あらごめんなさいね。ついつい伝え忘れてしまったわ」


「いや、嘘でしょう……」


「ええ、嘘よ。100%嘘」


「えっ⁉ 嘘なの⁉」


 そんな堂々とした虚言発言は初めてだぞ。しかも100%で構成されているし。

 

「まあ、そのことについては一旦おいておきましょう」


「あ、ああ。分かった。で? 今古井さんどこにいるの? もう約束の時間になるよ」


「ごめんなさいね。ちょっと今日そこへは行けそうにないわ」


「はい? 今なんて?」


「実は、ちょーお腹がいたーいのよ(棒読み)。余りの痛さに泣いてしまいそうだわー(棒読み)。誰か助けてぇー(棒読み)。という訳だから、自宅から出られそうにないわ。あとはよろしく」


「おいおいおいおい! 待ってくれ古井さん! 何その棒読みの台詞! 絶対お腹痛くないでしょう! それに九条と俺はどうしたら良いんだよ⁉」


 どういう要件で呼び足されたか知らないが、この場には九条がいる。

 俺1人ならさっさと帰って終わりだが、いくら何でもそれは可哀そうすぎる。

 九条だって待ち合わせの時間通りに来たんだ。なにも非はない。

 この言い分を見過ごせるか!

 と、思っていたのだが、とんでもない言葉が聞こえて来た。


「何を言っているのよ。昨日言ったでしょう? 買い物に付き合ってって。だからそれを実行しなさい」


「はぁ⁉ 古井さんが来ないとそれができないだろ⁉」


「別になんて一言も言っていないわよ?」


「……え?」


 俺はこの台詞を聞き、昨日の会話内容を思い出してみた。

 あの時確か古井さんは、

『土曜日にちょっとお出かけがあるから、付き合ってちょうだい』

 と言っていたよな?

 これが古井さんの買い物に付き合えって意味じゃないなら……。

 まさか!


「もしかして、のが、条件だったのか⁉」


「ようやく気が付いた様ね。騙したつもりはないわよ。一回も私の買い物に付き合えだなんて言ってないし、嘘偽りはないわ。事実のみ」


「い、いや確かにそうだけど!」


「そして、君はその条件を承諾した。これも偽ることのできない事実。そうでしょう?」


 や、やられた……。

 どうして九条が古井さんとここで待ち合わせをしていたのか、ようやく理解できた。

 もとから九条の買い物に古井さんが付き合う予定だったけど、その役を俺と交代したのか。

 あのドエスの考えたことだ。

 お腹が痛いなんて絶対嘘だ。

 意図的に俺が苦しむ様を楽しんでやがる!

 俺の正体を知っているからこそ、あえて九条と一緒にいさせることにより、ボロを出させようとしているんだ!

 や、やられたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 ハメられたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 条件が緩すぎると思ったけど、そういうことだったのか!

 お、おのれ……。我が強敵古井さんめ……。


「という訳だから、今日1日ひなみの買い物に手伝ってあげなさい。もし逃げ出したら分かるわよね? しっかりと最後まで付き合いなさいよ。じゃあ」


 その後、古井さんは俺の命乞いを一切聞くことなく、一方的に電話を切ってしまった。

 まるで「お前の反論は認めん」とでも言っているかのようだ。

 そ、それにしても、困ったな。

 策にハマったとは言え、俺はこれから……。


 1000年に1人の美少女と2人で買い物に行かないといけないのか。

 

 これってもうデートじゃね?

 マジで俺はどうすればいいんだ⁉


―――

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