第11話 条件だと!?

 新しく始まった学生生活の序盤で、早くもピンチを迎えてしまった。

 同じクラスの同級生に正体がバレるという破滅イベントが発生。

 しかもバレた相手がよりによって、超がいくつあっても足りないほどのドエス、古井さんだ。

 本来なら言い訳したいところだが、この人を相手にそれが通用するかどうか……。

 誰よりも速く俺の正体に気が付いたんだ。確固たる証拠を基に、俺だと推測したに違いない。

 にしても、どうやって俺だと特定したんだ?

 ネット民でさえ、俺の正体を突き止めていない。

 一体どうやって……?

 頭が混乱して、うまく思考がまとまらん。


「あら、返答がないわね。驚きと不安で話すことを忘れているのね」


「あ、ああ。ごめん。急に言われたからびっくりしてさ」


「そう。でも否定はしないのね。それってもう認めているようなものよね?」


「い、いやいやいやいや! 俺はあの事件には一切関与してないよ! 古井さんがいきなり変なことを言ったから、リアクションに困っただけだって!」


「ふぅーん。そうなのね。じゃあ、どうして私が君だと推測したのか。その根拠を言ってもいいかしら?」


「……え? まあ、聞こうかな」


 俺の返答の後。

 古井さんの完璧すぎる推測が、俺の鼓動を跳ね上がらせた。


「生徒手帳に入っていた学生証に君の住所が記載されていたから、最寄り駅が男子学生が消えたあの○○駅だと分かったわ。それに時乃沢高校の受験後、友里と一緒にゲームセンターで遊んだのよね? その時間を仮に1時間と見積もると、地下鉄通り魔が乗っていた地下鉄の発車時間とほぼ一致する。つまり、時乃沢高校の受験後、君は地下鉄通り魔がいた地下鉄に便乗していた可能性が非常に高いと言えるわ」


 完璧すぎる推理を前に、俺は思わず息を止めた。

 ……。う、嘘だろ?

 何て頭脳の持ち主なんだ。

 生徒手帳からここまで推測できるなんて、あの高校生名探偵も顔負けだぞ。

 

「どう? ここまでが私の仮説なんだけれど、合っているかしら?」


 ここで「はい、そうです」って言ったら、もう逃げられない。

 このまま古井さんの完璧すぎる推理を聞いていたら、言い逃れする気力が削がれてしまう。

 一旦話の流れを変えよう。そうするしか方法はない!


「で、でもそれだけで、俺を断定するのは難しいんじゃないか? 事件発生時には多くの男子学生がいただろうし」


 これならどうだ?

 確かに古井さんの推理は完璧すぎる。でも、まだ俺だと断定できる証拠はない。

 さぁ。どうでる古井さん!

 さっきまでは古井さんの流れだったけど、そうはいかないぞ!


「そうね。確かに君だと断定するにはまだ証拠が欠けている。じゃあ1つ質問良いかしら?」


「え? 質問?」


「ええ。どうして君は……、ひなみが近くにいると顔が引きつるの? まるで一緒にいてはダメだっと言っているかのような表情をしていたわ。特に昼食の時なんて、どこか気まずそうに見えたし」


「なっ⁉」


「こんなことを私が言うのもあれだけど、ひなみって凄い人気者なのよ。あの事件のインタビューを境に、SNSの総フォロワー数が10万人を超えたわ。有名モデル事務所からオファーが相次いでいるし、『1000年に1人の美少女』、だなんて呼び名もついてしまったわ。誰が見ても可愛いと思えるひなみを前に、君は何故か避けたがる素振りをしていた。それが最初の疑問点だったの。バレてはいけない秘密を隠し通そうとしている。そんなふうに見えたわ」


 や、やべぇぇぇぇぇぇぇ!

 し、しまった!

 無意識に顔に出ていたか!

 確かに避けるような素振りはしていた。でも、それを見逃さなかったなんて。

 古井さんの洞察力が凄すぎる。

 どう言い訳する? どう切り返す⁉

 あぁ! ダメだ! 

 何も思いつかない! 

 ダメだ。焦りと動揺で思考がまとまらない!

 

「え、ええっとそれはだな……」


「ひなみを避けていた理由は、正体を隠すため。世間の期待値が跳ね上がっている中、正体を明かすのが怖いから。でしょ? それに、ひなみから助けてくれた男子学生の身体的な特徴をさっき教えてもらったわ。身長は170cmほどで、痩せ型。黒の髪にキリッとした目つき。全部君に当てはまるわ。まあ言った本人は君の正体を全く気が付いていないみたいだけど」


 完璧だよ。避ける理由まで当てるなんて。

 言い逃れしようにも、次から次へと痛い所をつついてくる。

 本当のことを言うか? 

 いや、でも相手は古井さんだ。何かしら仕掛けてくるに違いない。

 どうすればいいんだ⁉


「無言ということは、必死に否定できる根拠を探しているけど、思いつかず、焦っているからよね?」


 ダメだ。もう観念しよう。下手な真似をしたらどうなるか、想像できん。

 高校生活初日でバレるとは、完全に予想外だよ。


「あぁ。そうだよ古井さん。俺があの男子学生の正体だ。頼むからこのことは口外しないでくれ。色々と面倒なことが起きるかもしれないし」


 俺の正直な返答に、古井さんは何故か数秒間黙り込んだ。

 電話越しだから相手の表情や態度は一切分からない。古井さんが今何を思い、考えているのか。

 これを一番知りたいが、さすがに黙り込まれたら、知る由もない。


「……。あの古井さん? どうしたの? もしかして電波が悪くて聞き取れなかった?」


 俺がそう言うと、まるで空想から現実に戻ったかのように、古井さんが先ほどの調子で再び話始めた。


「ああ。ごめんなさいね。ちょっと考えていただけよ。まさか君があの男子学生とはね。言い当てた本人が言うのも何だけど、未だに現実味がないわ。ていうか、あなた嘘つくの下手ね。半信半疑のつもりで言ったのだけど、まさか図星だったとは」


「古井さん相手に嘘が貫き通せるかよ……」


「そうね。まあでも安心しなさい。君が名乗り出ない理由も少しばかり分かるから。全国で英雄扱いされている中、名乗り出るのもかなり勇気がいるだろうし。条件次第で、口外しないと約束してあげるわ」


「理解があって助かるよ。ん? ちょっと待って。今なんて言った?」


「聞こえなかった? 条件次第では君の正体を黙っておいてあげるわ」


 え? 

 てっきり、弱みを握って俺のことをこき使うのかと思ったんだが。

 どうやら、俺の気持ちを察してくれたらしいな。

 でも、条件ってのが気になるぞ。

 相手はあのドエスだ。超緩い条件を提示して来る可能性は限りなく低い。

 下手に出れば、暴露されるかもしれない。

 ここは、その条件とやらに従っておこう。

 それさえ守れれば、俺の正体を黙ってもらえるわけだ。

 やるしかない!


「そ、そうか。ありがとう古井さん。それで、条件ってのは何なんだ?」


「たいしたことじゃないわ。明日、つまり土曜日にちょっとお出かけがあるから、付き合ってちょうだい」


「え? それだけ?」


「ええ。それだけ」


「古井さんの割には条件が緩すぎないか? てっきり俺のことをこき使うのかと」


「あら? じゃあそっちに変更する? 私としては何も問題がないし、下僕が増えるから別に良いのだけれど」


「あ、すみません。さっきの条件でお願いします」


「素直でよろしい。それじゃ、明日の集合時間と場所を言っておくわ。時間厳守だから。遅れたら容赦しないわよ」


「あ、はい。絶対に遅刻しません!」


 その後、俺は古井さんから明日の予定内容を全て聞いた。

 どうやら、時乃沢高校の近くにある大型ショッピングモールに出かけるらしく、それに何故か俺も同伴しろと。

 まあ、ただの買い物に付き合うだけで秘密を守ってくれるなら有難い話だ。

 いやまて。もしかしたら、奢らされるかもしれないぞ。

 うぅ。まあ金で何となるならいいか。

 合格祝いで祖父母から結構な額貰っているしな。


「以上が明日の予定よ。何か質問でも?」


「いや、特にないよ。でも本当に買い物に付き合うだけでいいの?」


「ええ。でも身なりはしっかりとしなさい。ダサい服で来たら即アウト」


「わ、分かりました」


「話はこれで終わり。そろそろご飯だし、一旦電話を切るわ」


「了解。あ、その前に1ついい?」


「何かしら? 手短にお願い」


「古井さんの偏差値とか、IQってどのくらいあるの?」


 俺は興味本位でついくだらないことを聞いてしまった。

 でも、古井さんは僅かな情報だけで、俺の正体を見事言い当てた。相当頭がキレることは確かだ。 

 だから、ちょっと興味があるんだよな。

 古井さんがただの推理オタクなのか。それとも天才なのか。

 気になる所だ。


「そうね。自慢話はあまりしたくないのだけれど、中3の時に高3模試を受けて最高偏差値73を記録したわ。IQは測ったことが無いから分からない。それじゃあね。また明日」


 そう言うと古井さんは電話を切り、会話を終了させた。

 最後の偏差値の話を聞いてすごく納得したよ。

 古井さん、ドエスってだけじゃなく、とんでもない程頭が良いんだな。

 中3で、高3の模試を受けるってどういうことだよ。しかも偏差値73を叩き出すって、異次元過ぎる。

 こんな天才が俺の席の後ろにいたのか。 

 そりゃバレてもおかしくはないわ。

 


 高校初日。色んな出会いがあった反面。 

 破滅イベントおよびフラグが大量発生し、挙句の果てには同級生に正体がバレてしまう始末。

 超運がついていない1日を送ってしまった訳なのだが。

 さすがにこの先の生活は、今日よりマシになるはずだ。

 俺はその希望を胸に、明日への準備に取り掛かった。

 明日の古井さんとの買い物では、何も起きないでくれ。

 頼むぞ神様!



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