第9話 一緒にご飯!?
今の俺と友里そして古井さんの心情は、幼い我が子に子供の作り方を聞かれた親と同じだろう。
気まずいというか、返答に困るよこれ。
え? どう説明すんの?
ってか男がこんな純粋な女の子に卑劣なことを教えていいの?
「え、えっとだな……」
口ごもる俺を見て、九条は首を傾げる。下手なことを言えば、ドン引きされるかもしれない。さすがに高校初日でそれはきついぞ。
何とか言わないと。でも何言ったらいいのかまるで分からん!
「どうしたの? 童貞って言葉はそんなに難しい言葉なの?」
いや難しくはない。ただ純粋な子に説明するのが難しいんだよ。
焦りのあまり変な汗が出てきやがったな。
し、しかたない。ここは素直に言っておくか。今の俺ではなんて誤魔化したらいいのか分からん。
「ど、童貞っていうのはな。そのー、えーと」
もうここまでか。
そう思った俺は、真実を話そうとしたが。
古井さんが俺よりも早く口を動かした。
「そうねぇ。まともに女性と遊んだことがない男のことを指すのよ」
す、凄い古井さん!
俺のカバーに入ってくれるなんて、やっぱり優しいじゃん!
ってか、よくそんな遠回しな言いかたを思いついたな。
「へぇー、そんな言葉があったなんて私知らなかったなー。もっと勉強しないとね!」
新しい知識を覚え少しばかりテンションが上がる九条を横目に、俺は若干の申し訳なさを感じていた。
こんな純粋な女の子に、一体何を教えているんだ……。
1000年に1人と言われている美少女だが、その正体はとんでもない程のピュアか。
男が喜びそうな設定全部持ってやがる。
高校初日、俺は3人の友達ができたのだが、クセと言うか個性が強すぎる。
・1000年に1人と言われている生粋のピュア、九条ひなみ。
・生粋の陽キャ、佐々波友里。
・超がいくつあっても足りないドエス、
どうやら、俺の高校生活は平穏に過ごせそうにないな。
正体を隠し通して生活したいのに、絶対にバレちゃいけない人が俺の席の隣にいる。それに加え、まるで逃げられない様に友里と古井さんにも包囲されてる。
神様よ。
何故俺だけこんなに不幸なの⁉
普通の男子学生なら喜ぶけど、正体を隠したい俺からしたら、絶望でしかねぇーよ!
〇〇〇〇
それから数時間後。
高校生活初日に行われるイベントはほぼ全て終えた。
担任からのあいさつや生徒1人1人の自己紹介など、一通りのことはやった。
さすがに高校初日から授業はない。なので俺に残されたミッションはただ1つ。
帰宅という2文字だけだ!
机のサイドに掛けていたバッグを手に持ち、俺はさっさと教室から去ろうと動き出した。
色々あったけど、まあ何とか1年ぐらいは頑張れるか。
さて、家に帰って飯でも食べよう。
と、そう思っていたが、ここで思わぬハプニングが起こってしまう。
「ねね、涼! 親睦も深めて、クラス皆でご飯食べに行くんだけどどう⁉ 古井っちの両親はお店開いてるからさ、そこでやろうと思うの! 参加できそう?」
帰宅する気満々の俺を見ても尚、友里は昼食を共に食べないかっと誘って来た。
今の彼女の目は、まるで『来てくれるよね』っとでも言っているかのに、すげぇーキラキラしてる……。
彼女の目を見ていると、なんだか断るのが悪い気がしてきたな。
「い、いや、まぁ別に良いけど」
「本当⁉ やったー! 今皆に声かけてる所なんだー。全員は無理かもしれないけど、過半数以上は来れそう!」
一体いつの間にクラスメイトに声かけてたんだよ。
やっぱ友里はコミュニケーション能力が高いな。普通初対面の人に飯の誘い何て出来ねぇーぞ。
まあ、まだ男子の友達がいないし、ここは話に乗っておこう。もしここでクラスの男子もくれば、友人関係を築くことができるだろうしな。
いや待てよ。それはそうと、クラスの過半数が来るんだったら、店側の負担デカくないか?
全員分の席とは用意できるか分からないし。
「気になることがあるんだけど、参加者全員入れるのか? 15人以上は来るんだろ?」
俺のこの疑問に対し、後ろの古井さんが友里の代わりに弁明した。
「問題ないわよ。私の両親が経営している店でやるから、ノープロブレム。既に両親には話を通してるし、クラスメイト全員が来たって、問題ないわよ」
「あ、そうなんだ。ってか古井さんの両親って、経営者なんだ」
どうやら、俺が心配するまでも無かったらしいな。普通に事前準備してたのか。まあそりゃそうだよな。いきなり大人数で来ても、店側は困るわけだし。
「それじゃあ皆で向かいましょうか!」
友里の掛け声とともに、俺達は古井さんの家へと向かって行った。
〇〇〇〇
学校から徒歩20分ほどの場所に、古井さんの両親は店を構えていた。
どうやらイタリアンレストランのようだ。外装がお洒落でいかにも高級感が漂っている。
さすが娘をお嬢様学校に通わせるだけはあるな。
売り上げ額も凄いことになっていそうだ。
あまりの豪華ぶりにクラスメイトの何人かが若干緊張する中、古井さんは全く気にせず店のドアを開けた。
「さあ皆入って。今日のお昼は貸し切りにしてあるわ」
古井さんの言葉を合図に、クラスメイト達は続々と店へと足を踏み入れて行った。
ちなみに、普通の客として店に入った場合、どんなに安くても3000円はする。だがクラスメイト割引で、全員一律1000円だそうだ。
安すぎる。学生には随分と優しいお店だ。
クラス全員が店内に入ったことを九条は確認すると、皆の前に出て声を大にした。
「皆ー! 今日は親睦を深めるために、このお店に来ました! なので、テーブルに座るペアは、くじで決めたいと思います! これを機に色んな子と仲良くなりましょう!」
その後、九条は透明なビニール袋をバッグから取り出した。
何だ?
中に折りたたまれた紙が沢山入っているぞ。
「この袋に紙が入ってます! 中には番号が書かれているので、その番号の席に座ってください!」
なるほどな。仲良しグループで一緒に食べても親睦になんてなりゃしないもんな。
良い案だ。
俺は早速くじを引き、指示通り番号が書かれた席へと向かって行った。
さて、一体誰が俺と同じテーブルに座るんだろうな。
頼むから、男子が欲しい。来てくれ!
そう願う俺なのだが。
ここでも神様に嫌われていたようだ。
「お! 涼と同じテーブルじゃん!」
記念すべきペア1人目は、友里だった。ま、まあコミュニケーション能力が高い友里がいれば、会話は弾むだろうな。
続く2人目は、
「あら、まさかここでもあなたと席が近いのね。嫌になるわ」
まさかのドエス王女古井さん。マジか……。ま、まあ、最後の1人が男子なら別にいいか!
そして最後の1人目は……、
「ええ⁉ 公正なくじで決めたのに、結局皆と同じテーブルじゃん!」
まさかの1000年に1人の美少女、九条ひなみであった。
おいこらちょっと待て。
これくじ引きする意味あったか?
ってかさ……。
何でこうなるのぉぉぉぉー⁉
正体ばれちゃいけないのに、さっきから破滅イベントしか起こってねぇーんだけど!
ーーー
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