第8話 ピュアだと!?
「おお! ひなみがやっと来た! 生徒会の仕事お疲れ~。いやぁ~、相変わらず心に響くスピーチでしたな~」
まるでおっさんの様に感想を述べる友里に対し、九条は微笑しつつこう返した。
「もうー、ただの普通のスピーチだってば。それにしても、私達3人が一緒のクラスになれるなんてラッキーだね!」
「ですな~」
「そうね」
九条の言葉に、友里と古井さんは頭を縦に振りながら、肯定した。
九条ひなみ。
中等部で生徒会長を務める程人望が厚く、凄く明るい。さらに、誰が見ても惚れこんでしまいそうな程、容姿が整っている。その上性格も良い。
確か中等部の偏差値は60代後半。ってことは相当頭が良いのは間違いない。
品行方正で容姿端麗。
おまけにネット民から1000年に1人の美少女なんて呼ばれている。
普通、こんなハイレベル過ぎる少女と同じクラスでさらに席も隣なら、さぞ大喜びだ。
しかし、ちっとも嬉しさを感じない。いや嬉しいとは感じている。ぶっちゃけ内心めっちゃドキドキしている。めっちゃワクワクしている。
だが、俺の正体がバレたらまずい。
絶対にまずい。
地下鉄通り魔事件で、俺が九条を助けたという事実は誰も知らない。その影響か分からんが、ネットでは俺が英雄扱いされている。必要以上に期待が高まっている中で、俺が助けたという事実が広まれば……。
九条および周囲の人は絶対に落胆する。こんな特に特徴のない俺が、英雄だったなんて、誰も信じたくないはずだ。
仮にそうじゃなかったとしても、英雄の眼差しを向けられて学生生活を送るのはごめんだ。
よし!
適当に自己紹介だけ済ませといて、スルーしておこう。それが最善策だ。
さて、名前と趣味だけ言って、会話を終わらせよう。
と、思っていたのだが、
「ああ! そうだひなみ! ひなみにぜひ紹介したい人がいるんだ!」
友里に先手を取られてしまった。まずい!
まずいぞこれは!
焦る俺とは反対に、友里は俺のライフポイントを削る言葉をズカズカと言い始める。
「友里の隣に座っている男子なんだけど、名前は涼っていうの! 入試の帰りに偶々遊んだんだ。凄くない⁉ 合格してまた会えるなんて! 神様は私のことを愛してくれているのかな~」
いや、愛されているのではなく、俺がただ単に嫌われているだけだ。
悪いことをした覚えがないのに、このざまだ。何か逆鱗に触れるようなことをしてしまったのか?
「へぇー、涼って名前なんだね! 私は……ってあれ? 君はもしかして、あの時の?」
「ええ⁉ 何々⁉ 2人とも知り合いだったの⁉」
と、友里が食いついてきた。
「あ、うん。さっきトイレの場所を教えてあげたの。まさか同じクラスの人だとは思わなかった」
くそ。適当に挨拶して済ませようと思っていたのに。
友里のコミュニケーション能力の高さが、裏目にでてしまったな。
仕方ない。こうなったらしっかり挨拶だけでもしておくか。
「ど、どうも。初めまして。涼って言います。さっきはどうもありがとうございました」
俺の自己紹介に九条は一礼し、丁寧に言葉を返した。
「私は九条ひなみって言います。友里と古井ちゃんとは中学から仲良しで、初めて3人で同じクラスになれたの。今日からよろしくね!」
九条は言葉の後俺に満面の笑みを見せてきた。
くそ!
めっちゃ可愛いじゃないか!
純度マックスの笑顔を向けられ、思わずドキッとしてしまう。
そんな俺の後ろから、不意打ちの様に古井さんが仕掛けてきた。
「ひなみ、一応友達として言っておくけど、そいつ……。生粋の童貞クソ野郎よ。この手のタイプは、女子に話しかけられると、自分に好意があるのかと勘違いして興奮しちゃうから、気を付けてね。くれぐれも変な気にさせないように」
友里に先手を取られたと思ったら、今度は古井さんの後手だ。
ドストレートに痛いことを言ってきやがる。
しかも、まるで一般常識を言っているかのように、表情を何1つ崩していない。
どうしたら、そんな真顔でバイオレンスなことを言えるんだよ。
「おいおい、古井さん。ほぼ初対面なんだ。これ以上変な先入観を持たれると、俺の居心地が悪くなるじゃないか」
俺は優しい眼差しを古井さんに向けた。もしきつく言えば、このドエスは何を言うか分からん。ここは丁寧かつ優しい言葉を言うのが鉄則だろう。
「あら。童貞さんが私に説教でもするのかしら?」
あ、だめだ。全然効いてない。むしろ逆に舐められちゃったよ。
「もー。古井っち! からかうのはいいけど、手加減しないとダメだよ! 古井っちは本当は凄く優しいんだから、もったいないよ!」
ビクビク震えている俺に同情したのか、友里が仲裁に入ってくれた。
こんなドエスに優しいという言葉が似あうだろうか。いや、似合う訳がない。対極に位置する言葉だぞ。
このドエスに優しいという概念なんて存在するわけがない。
「そうね。ちょっと虐めすぎちゃったからしら。私こう見えてもすごく優しいものね。せっかくの優しいキャラが台無しになっちゃうわ」
「いや、心の構成成分がドエスしかない古井さんが、そんな優しい訳ないでしょ⁉」
古井さんの言葉を聞いた途端。俺の口は勝手に動いてしまった。
自分で自分のことを優しいなんて、本気でそう思っている訳ないよな……。
「ほーら。もういいでしょ。2人がもう既に打ち解けて仲良しなのは分かったから」
友里は両手でパンッと強く叩き、俺と古井さんの会話を強制的に終了させた。
まあ、これ以上くだらないことを言い合っては、最終的に俺が負けるだろう。これを機に、ちょっと冷静になるか。
そう思い、俺が頭を冷やそうとした時だ。
「あ、あのさ皆」
九条が何やら重い表情を浮かべ、俺達の方を見つめて来た。
え。何々? 何を言う気なの?
「さっき古井ちゃんが言ってた、『童貞』って言葉なんだけど。それ……どういう意味なのかな?」
この言葉の聞いた瞬間。
俺の目の前でダイナマイトが爆発したかのような、とんでもない衝撃が全身を駆け巡った。それと同時に、俺はムンクの叫びの様に顔が酷く歪み、口を大きく開けて仰天した。
いや。俺だけじゃない。視線を逸らせば、古井さんも友里も同じような表情になっていた。
1000年に1人と言われている美少女が、童貞と言う言葉すら知らない生粋のピュアだなんて一体誰が想像できる?
――
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