異世界へとたどり着く 06

「あのカエデさん!!」

「おぅっ、ど、どうした?」

 意を決したようにメディは楓を呼んだ。その勢いに楓も驚きながらも答える。

「あっ、まずは説明しますね」

 どうにも落ち着いていないメディだったが、楓を待たせないように話し出した。

「この世界にはパートナーっていう二人一組で結ぶシステムがあります。このパートナーシステムは異なる世界の者同士じゃないと結べないんです」


 楓は頷きながらメディの説明を聞いた。

「このパートナーシステムは結ばないとデメリットが起きてしまうんです」

「そのデメリットってのは、この世界に来たばかりの俺にも当てはまるのか?」

 授業中に質問をする生徒のように、挙手をしながら楓は質問をした。


「はい、それが当てはまるんです。そのデメリットの内容なんですが、パートナーを持っていない期間が長いほど、魔力の量が減ってしまいます。そして、最終的には魔法が使えなくなってしまうんです。

 魔力、とメディに聞こえるか聞こえないのボリュームで楓は復唱した。

「この世界のほとんどは魔力有りきで成り立ち、繁栄しています。ですから、この世界で生きていくには必ず魔法が必要なんです」

「なるほどなぁ。パートナーは必須というわけか」


「それで、そのー。……カエデさんが……もしよろしければなんですけど、私の……パートナーになってくれませんか」

 メディは勇気を振り絞りながら、楓に願いを伝えた。若干目には涙を浮かべている。

「おう、俺で良かったらいいぞ」

「へっ?」

 二つ返事で楓は了承した。すぐに答えが出ると思っていなかったメディは、拍子抜けの声を漏らしてしまった。


「い、いいんですか?自分から言っといてなんですけど、私、その……弱いですよ。カエデさんにいっぱい迷惑かけちゃうかも知れません……」

 自分の短所を言う度に、どんどんテンションを落としていっているメディに、楓は少しの不安も無い表情をした。

「強いからとか利点があるからじゃない。それに……さっき助けてくれたしな。メディがそうしたいっていうなら俺はそれに応えるだけさ」


「カエデさん……」

 楓の言葉を聞いて感極まったのか、メディはさらに泣きそうになった。が、涙を流す前にメディは笑顔を見せた。

「えへへ、ありがとうございます。……それじゃぁその……逃げないで下さいね?」

 いつの間にかメディの手には、拳一つ分の大きさの白い水晶を持っていた。それを楓に向けてかざすように、近づいていく。

「ちょちょ、なんだいったい?」

 メディの動きを制そうとしたが、メディはもう止まる様子は無い。


「うぅ~、私もこれ、すごい恥ずかしいんですからね」

「ちょっと落ち着けって。そんな簡単にオジサンに近づくもんじゃないって」

 オジサンが今日会ったばかりの少女に触れるなんて、楓の元いた世界からの感覚で言えば、セクハラにあたる。それゆえに、楓はメディに触れることが出来ない。

「じゃあ、行きますよっ」

 既に顔を真っ赤にしたメディは、楓の顔へ接近した。


「メディっ」

 反射的に楓は目をつむった。瞑ってすぐ、楓の額に水晶が押し付けられ、そしてメディはその水晶に口付けをした。その瞬間、水晶は白く輝き出し、瞬く間に白い光を発光させた。ログハウスのリビングは、白で何も見えなくなっていた。

「何だこの光……」

 数秒間、輝きが続くと、白い光は萎み、最終的には元通りの状態になった。

「い、今のは……」


 白い光に疑問を持った楓だったが、額に柔らかい感触を感じて、その考えは吹っ飛んだ。

「メディ!?何して……」

「……っ!」

 楓に言われてメディは離れた。自然と楓の手は、柔らかい感触を感じていた額に向かってしまう。

「い、今のはパートナーの契約に必要な儀式なんです。す、すごい恥ずかしかったです」

「そう、なんだな……」

 赤面した顔を見せないように、二人は顔を背けてしまった。

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