異世界へとたどり着く 05

「着きました。ここが家です」

 しばらく森を歩いた先に、開けた場所が現れ、さらにその先を進むと二階建てのログハウスが現れた。

「おぉー、立派な家だ」

「カエデさんは少し待っててくださいね。おじいちゃんに話してくるので」

 そう言い、メディはログハウスに入っていった。残された楓は、ログハウスに軽く触れ、思いふけった。


「……これ、給料何ヶ月分で買えるんだろ……」

 そんなことを考えながら、来た道を振り返えった。風が通り、木々が揺れる森を見て心が落ち着いていくのが分かる。

「なんか、こういう感じ……良いな」

 夜遅くまで仕事をしていた毎日と比べて、穏やかな時間が過ぎていく感覚は、とても心地よかった。


「カエデさん、中へどうぞ。おじいちゃんが相談に乗ってくれるそうです」

 ログハウスの扉を開けると同時に、メディは楓に話しかけた。

「ありがとう」

 メディにお礼を言ってからログハウスの扉をくぐる。ログハウスを入ってすぐ二階に繋がる階段があり、その横にさらに奥へ向かうための廊下があった。

「こっちです」


 メディは廊下に行きながら教えてくれた。ふーっと楓は一息吐いてから、メディの後に着いていった。

「ふむ、キミがメディの言っていた人じゃな」

 楓が着くより先に、老人の声が出迎えた。

「ど、どうも。お世話になります」

 ログハウスのリビングで、小柄な老人が座っていた。長く伸びた白い髭は顔中に生えていて、表情は全く伺えない。


「まぁそんなに固くなる必要は無い。ほら、そこに座って話そう」

 対面に座るように促されたので、楓は素直に従う。

「…………」

 老人を相手に、楓は酷く緊張していた。失礼な態度を取れば即刻、追い出されてしまいそうな気がしていたからだ。

「さて、まずはキミの名前から聞く前に、ワシから名乗ろう。ワシはエイスという名じゃ。どこにでもいる普通の老人じゃよ」


 エイスはそれだけ言い、黙った。次は楓の番であることを示していた。

「名前は越宮楓と言います。普通の会社員で、信じて貰えないかもしれませんが、白い光を追いかけて、気づいたら森にいました」

 変な説明をしていることは重々承知していたが、そう説明することしか楓は出来なかった。

「ふーむ……、なるほどのぅ」

 エイスは自分の髭を撫でた。ドキドキしながら楓はエイスの言葉を待つ。


「ではカエデくんに聞こう。気づいたら森にいて、魔物に襲われメディに助けられた。この状況をどう思う?」

「状況ですか、えーっと……」

 答えが出るものだと思っていたところに、質問が来たのですぐに答えが出なかった。

「……ぷっ」

 急いで回答を考えている楓を見て、メディは笑いだした。

「ごめんなさい。慌ててるカエデさんが、可笑しくて。……ふふふ」


 笑われてしまった楓は恥ずかしそうに僅かに頬を赤くした。そんな二人を見て、エイスは大きく頷いた。

「さぁ、カエデくん。君の答えを聞かせてくれ」

 緊張していた楓だったが、メディに笑われて力が抜けてしまった。そして、軽く息を吸ってから、自分の考えを言った。

「にわかに信じがたいが、ここは俺がいた世界じゃないくて、いわゆる異世界ってやつなんだと思ってます」


 楓は真っ直ぐにエイスを見た。そこで気づいた。長く、白い眉毛の奥で青い瞳がしっかりと楓の目を見ていたことを。

「カエデくんの考えは正解じゃよ。ここはキミがいた世界ではない」

「やっぱり……。信じられないが、現実だと受け入れるしかないな……」

 楓は自分の考えがエイスに納得されて、益々受け入れた。異世界というものに自分が踏み入れてしまったことに。


「さて、これからどうしたもんかな……」

「あの……、いいですか?」

 これから先どうしようかを考えだそうとした時、メディが話しかけてきた。

「カエデさんは天使様に召喚されてこの世界に来たんですか?」

「天使?いや、そんなのは見てないぞ」

 メディに聞かれて楓は即答する。その回答を聞いて、エイスとメディは顔を見合わせていた。


「おじいちゃん、どう思う?」

「ワシは良いと思うがのぅ。後はメディが決めるだけじゃよ」

「ん?何の話だ?」

 二人が話している内容が分からない楓は、ただそのやり取りを見ているしかない。

「私は、その、なってくれたら全然嬉しいけど……」

 モジモジし始めたメディと、楽しそうにしているエイス、そして頭をひねる楓に三者三様だった。


「じゃあ、おじいちゃんはあっち行ってて。見られてると、緊張しちゃうから」

「はいはい。後は頑張るんじゃぞ~」

 メディに言われてエイスはゆっくりとリビングから去っていった。

「メディ?大丈夫か?」

 エイスが去っていく時から、メディの頬は何故か赤い。

「は、はい。私は大丈夫です……」

 そう返事はしたものの、メディは楓に顔を見せようとはしなかった。

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