【KAC 真夜中】 真夜中の訪問者

風瑠璃

「はいってもいい?」

コンコン。

ノック音に読んでいた本から顔を上げる。


1Kの狭い部屋を見回し、ノック音?と首を傾げた。

時間は真夜中とも言える深夜2時。時計でそれを確認してから、こんな時間に訪ねてくるような人がいるかを思い出してみる。


いない。な。


スマホに連絡が来てるか調べてみるが、特に何も無い。


コンコン。


再び聞こえるノック音。間違いかもしれないと扉まで近づき、ドアスコープを覗いてみる。


誰も、いない?


何故か外には誰もいない。ノック音がしたのは気のせいなのだろうか?

少し考えてから気味悪くなって扉から離れる。

疲れて幻聴が聞こえただけだ。本に集中しすぎて最近寝不足だったから、何か別の音を勘違いしたのだろう。もう寝るべきだ。


「はいってもいい?」


扉の外から、子供のような舌足らずな言い回しの声が聞こえてきた。

不意打ちに、背筋がゾクッとする。何かが這うような気持ち悪い感覚が全身を襲う。

相手をしてはいけないと判断して、扉から背を向けて布団を被って夢の世界へと逃げる。


「そう。だめなんだ」


目を閉じると耳元で囁かれた。そんな気がして目を開くが、そこには何も無い。あるとしたら途中まで読んでいた本やスマホだけ。


明かりをつけたまま布団を頭から被り必死に祈る。

早く朝が来ますように。



特に問題なく朝が来る。

昨日の出来事が夢だったかのように爽やかな目覚めにホッと息を吐いて会社へと向かう。

部屋の外で誰かが待っていたら。なんてドキドキしながら扉を開いたがそんなことはなかった。

何の不思議体験だよと悪態つきながら1日が始まった。その不思議体験に引っ張られるように、仕事でミスばかりをしてしまう。

いつも通りのはずなのに、身体が上手く動いてくれない。あれだけ爽やかな目覚めだったのに、なんでだよ。


上司にも普段しないミスを心配され、昼は休めと追い出されてしまう。

役立たずに仕事はないということなのだろう。


帰り道、コンビニで買ったお弁当も心なしか重く感じる。休みだと言うのに嬉しくないのは、失敗が心を締め付けるせいだろう。

あんなこと、今までなかったのになんでだよ。


ため息ばかりが増えていく。夜更かしせずに早く寝よう。そして、明日はシャンとするのだ。



コンコン。


ノック音に目が覚める。

電気を消していたから周囲は真っ暗だ。時間を確認すれば1時を回ったところ。


誰だよと頭をガシガシとかいた。

いい夢を見ていたような気がする。楽しかった夢をバラバラにするようなノック音に苛立ちながら布団を深く被る。


こんな時間にやってくるような手合いにまともな相手はいないだろう。そもそも、呼び鈴があるのに使わないのは怪しすぎる。

何を考えてるんだよ。


コンコン。コンコン。


ノック音が響く。

シンッとした世界でノック音だけが響き渡り、寝るのを邪魔してくる。


あーもう!!


布団を跳ね除け、文句を言うためにドアノブに手を置いた。


「はいっていい?」


昨日と同じように耳に飛び込んでくる少女のような声。

イタズラするような幼女がこのマンションに居たなんて思いもしなかった。

うるせぇと悪態つきながら扉を開く。


そこには、誰もいない。


ドアスコープで覗いた時同様に影も形もない。

頭の中がはてなマークで埋め尽くされる。


一体なんなんだ?


とりあえずノック音は消えた。何もなかったのならもういいかと部屋に戻る。


「やっと、いれてくれたね」


声だけが聞こえる。

えっ? と視線を辺りに向けるが、やはり誰もいない。いや、そもそも玄関であったはずの場所になにもなくなっていた。


危機感をようやく抱いた時には、全てが遅かったと気がつく。


機械で合成したようなノイズが耳を刺激してくる。

前に進めというように背中が押される。


なんだよ。これ。なんなんだよ!?


わけのわかないままに事態は進行していく。そしてーー



数日後のニュース。


「このマンションでは行方不明者が続出しており、警察が捜査を続けています。最初に行方不明となった男性の詳細はまだ入っておらず、同じ階の人が1日事にーー」


電源が落とされる。

俺はここにいるのに、誰も気づいてくれない。なんで、どうして?


行方不明となった自分のニュースを眺めながら、呆然とする。

俺は、一体ーー


コンコン。「はいってもいい?」











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【KAC 真夜中】 真夜中の訪問者 風瑠璃 @kazaruri

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