真夜中を翔ける流星

亜未田久志

ハローネオワールド


 僕は星追い人。

 どこまでも翔ける世界の旅人。

 夢を翔けて、夜を翔ける。星を追いかけて。

 世界の果てまで。

 

「どこへ行くんだい?」


 僕は星に問いかける。

 答えはこうだ。


「果てまで真っ直ぐ」


 光の速さで星が流れる。

 己の身体を燃やしながら。

 僕はとてもじゃないけど追いつけない。

 息が上がる。荒くなる吐息、白く息を吐いて、止まる。

 

「僕じゃ届かないのかな」


 僕の後ろから星が追い抜いた。

 いくつもの流星が僕を追い抜いて行く。

 僕のおじいちゃんは立派な星追い人だった。

 星を捕まえた事だってあった。

 捕まえた星でパーティをした。

 あの頃は楽しかった。

 でも、おじいちゃんは死んだ。

 僕が家業を継ぐ事になって。

 家は傾いていった。

 星が一つも入らないのだから当然だ。

 僕は自分の不甲斐なさに泣いた。

 涙を流す僕に病に罹った母が頭を撫でてこう言った。


「お前はまだ幼いんだから、気にする事はないよ」


 僕は悔しかった。

 早く大人になりたかった。速く夜空を翔けたかった。

 流星を捕まえて立派な星追い人としての指名を果たしたかった。


「僕は星追い人失格だ」

「そんなことないさ」


 僕に並走する星が現れる。

 僕は咄嗟に捕まえようとするも避けられる。


「まあまあ話を聞きなよ」

「君も行くんだろ」

「僕の話を聞いてくれたら、捕まってあげる」

「ほんと!?」


 星は頷いた。僕は星と翔けて、話をした。


「ずっと昔の事だ。僕が好きなマリアンナが星になった」

「うん」

「僕もすぐに追いかけて星になろうとしたけど止められた」

「……うん」

「そして時が来て、ようやく、僕は星になってマリアンナを探しに行く事になった」


 僕は聞き入っていた。その話の続きを。


「だけどマリアンナはとうの昔に果てへ辿り着いているという」

「じゃあ君も果てに行けば――」

「ダメなんだ」

「どうして?」

「果てにあるのは終わりだ。もう戻れない終わりなんだ。マリアンナはそこに行ってしまった」


 僕は知らなかった、そして星追い人の真の使命を知る事になる。


「君達、星追い人に捕まれば、また輪廻転生の輪に乗れる、僕はそこでマリアンナを待つ」

「えっ? でもマリアンナさんはもう戻れないって」

「今の技術ではね、僕は蘇って『果て』の研究をするつもりだ」

「研究?」

「そう僕は科学者だった。これでも頭良かったんだぜ?」


 僕は彼が聡明な星である事を悟った。彼ならば本当に果てから彼女を救い上げられるかもしれない。もし果てから星を救い上げられる技術が手に入るなら――


「星追い人の仕事も楽になる?」

「そういうことだ。理解が早くて助かる。だから条件がある」

「条件?」

「僕を輪廻転生の輪に乗せる時、記憶も一緒に乗せて欲しい」

「わかった!」


 やり方はお母さんが知っているはずだ。

 きっと喜んでくれる。

 僕は星と手を繋いで家に帰った。

 母が嬉しそうに出迎える。


「星を持って帰ってこれたんだね! さぁさ夜が明ける前に」

「その前に母さん、この星の記憶を一緒にお皿に乗せて欲しいんだ」

「……何を言ってるんだい?」


 僕は事情を説明する。すると母の顔が険しくなる。


「……星、あんた余計な事を吹き込んでくれたね」

「え?」

「君のお母さんは、そうか、病を患っているのか。高空病だ。星の記憶を食べなきゃ生きていけない。どうだ。君のお父さんもそれで死んだクチじゃないのかい」

「そうなの母さん」

「……」


 沈黙は答えだと思った。

 僕は星の手を掴んで家から離れた。


「あっ! 待ちな!」

「大丈夫だよ星さん、僕はその輪廻転生の輪の場所を知ってる。一度、おじいちゃんに連れて行ってもらった」

「いいのかい? 君のお母さんが死ぬぞ」

「分かってる」


 僕は涙を浮かべた。でもそれをすぐ拭った。


「僕に続く星追い人達が楽を出来るように、君を応援するよ」

「君は賢い子供だな、賢過ぎるくらいだ」

「褒めてるの?」

「少し憐れんでいる。今より未来を選ぶ者同士、ね」


 もうすぐ夜が明ける。

 夜が明けると輪は見えなくなってしまう。

 見えた――月虹。

 それが輪廻転生の輪。


「さあ! あれに乗って地上に落ちて!」

「ありがとう賢い少年、最後に君の名前を」

「ネオ! ネオだよ、覚えて行って!」

「ネオ、新しい。か、これは偶然かな、いや運命だろう」


 ―――――――――――


 一筋の流星が地上に落ちた。

 その日から、星追い人の歴史が変わった。

 果てまで翔けた星を救い上げ、輪廻転生の輪に乗せる。高空病の治療法も見つかった。人類は新たなステージへと達した。

 その功績にネオの文字があった。

 生まれ変わった星が研究成果に付けた名前だった。

 ネオはもういない。星になった。

 一人の研究者は呟いた。


「ハロー、ネオワールド」

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