第13話 二人きりの旅行(2)

 「起きてくれ。そろそろ着く」


 俺の肩に頭を預けて眠っていた雪菜に声をかける。

 

 「ふにゃふにゃ……ふえぇ?」


 すっかり寝惚け眼のままに頭を俺の方にもたげた雪菜と目が合う。

 

 「なんで……こんな近くに悠哉くん……?」

 

 ぱちくりと目を瞬かせる雪菜。

 次第にその顔が赤くなっていく。


 「わ、私……何をしてっ!?」


 寝ぼけ眼は、すっかり見開かれ慌てて俺から離れる雪菜。

 やめてくれよ、俺が嫌われてるみたいじゃん……。

 他の乗客の視線が刺さる。


 「その……なんというかごめん」

 「いや、気にしてない」


 どういうつもりかさっきまで頭を預けていた俺の肩を雪菜は手で払った。


 「お、重たくなかった?」

 「そんなことは無いよ。むしろ車内がちょっと冷えてたから雪菜の体温が心地よかった」

 「た、体温!?へ、変態!!」


 雪菜の声に注がれる好奇の視線。

 俺、言葉のチョイス間違ったかな……?

 フォローしたつもりだったんだけどな。


 「あー、誤解を招いたようならすまん」

 

 謝ったところに流れる車内アナウンス。

 ナイスタイミングだ。

 二人の間に漂ったなんとも言えない雰囲気を機械音声が押し流してくれる。


 「というわけで起こしたんだが……」

 「私の方こそごめん」


 車両がトンネルを抜けると青い海がチラリと見えた。

 国際観光文化都市であり日本を代表する温泉観光都市の玄関口である熱海駅へと列車は滑り込む。

 倒していたシートを戻して降車、南口改札を抜ける。


 「えーと、こっちかな」


 スマホの頼りに、駅から出てすぐの交差点を右へ。

 佳奈さんが予約を入れてくれた温泉旅館、『湯宿一番街』を目指す。


 「結構近いんだね」

 「多分、佳奈さんが配慮してくれたんだと思う」


 そんなことはなかったとあとから知るのだがそれはまた別のお話。

 エントランスに入って受付へ。


 「何か私に出来ることあるかな?こういうとこ来たことないけど……」


 不安そうな顔をしながらもそう言ってくれる雪菜。


 「大丈夫、俺がやるから」

 

 でも不案内な雪菜に頼むのはないだろうと思い俺がやることにした。

 

 「いらっしゃいませ」


 和服に身を包んだ女性がフロントから声をかけてくる。


 「すみません、予約した大月と申します」

 「今確認しますね。えーっと、大月様……あ、佳奈ちゃんから話は聞いてるよ!」


 受付の業務をこなしながら、目の前の女性はそう言った。

 ん?義母を知っている……?

 

 「なんでも再婚したんだって?義兄妹モノの制作が捗るとか言ってた気がする」


 おい、なんてこと言ってんだあの義母ひとは……。


 「母のことをご存知なんですか?」

 「知ってるもなにも大学時代一緒に漫研にいたんだよ」


 雪菜と話す浅葱色の着物の女性は、確かに言われてみれば佳奈さんと同年代に見えた。


 「その頃から欠かさず佳奈ちゃんの作品は読んでるよ!ちゃんと現場コミケに行ってね?今でこそ、女将になっちゃったから行けないけど毎回送られて来るんだよ」

 

 この人、この旅館の女将で佳奈さんの友人だったのか。


 「はいこれ、ルームキーね!多少は大目に見るけどあんまり派手にはシないでね?ここはラブホじゃないから」

 「す、するわけありません!」


 笑いながら言う女将さんに、雪菜は新幹線のとき以上に顔を赤らめながら言った。

 女将さんは雪菜の反応を楽しみながら笑った。


 「ふふふ、それじゃ、ごゆっくり〜」


 支払いなど諸々を終えて、部屋に荷物をおいたらいよいよ観光だ。


◆❖◇◇❖◆


 作者は静岡民ですが、むしろ近いので熱海には行きません。

 でも温泉は好きで秘湯めぐりとかしてます。

 読者のみんなはどうなんだろう……。

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