第12話 二人きりの旅行
「二人とも後からちゃ〜んと、感想聞かせてね?ふふふ」
「佳奈さん、ネタにする気満々ですよね?」
「この旅行のスポンサーは誰だっけ〜?」
この義母、弱い所を的確に突いてくる。
「あ、はい。しっかりネタになるよう精一杯旅行してきます」
ネタになる旅行って何だよ……自問自答しつつスポンサーには強気に出れないので渋々了承するのだった。
「で、でも私達で描かないでよね!?」
「むふふ〜」
佳奈さんは雪菜の声には答えずニマッと笑うと手を振りながら親父と一緒に新幹線改札の中に消えていく。
「なんかごめんね?」
「全然気にしてないよ。むしろ面白い人だなって」
雪菜が申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「俺達も行こうか」
「うん」
友だちとして、そして妹として見るにはまだ日の浅い同い歳の女の子と二人で旅行に行くという不思議な感覚。
まぁ佳奈さんが二人で旅行に行ってきなさいと言ったのは、自分達が旅行に行くからという理由だけでなく高校で言うところのホームルームデイみたいな仲を深める機会にしろってことなんだろうな。
「あ、やべ……急がないと!この「ひかり」を乗り過ごしたら「こだま」で各駅停車になっちゃうからさ」
「そうね、田舎だもんね」
新幹線ホームが二つしかないという田舎ぶり、駅で迷うなんてことは幼稚園児でもない限りなさそうだ。
それぞれのキャリーケースを引っ張って改札を抜ける。
俺達の乗る新幹線は東京方面の五番線からの発車だ。
「熱海までってどれくらいなの?」
「五十分くらいかな」
「以外に時間かからないんだね」
「【ひかり】だからね」
俺達の住んでいる静岡県は東西155km、浜松-熱海間の新幹線の路線長で言えば152kmとそれなりに東西の移動距離は長い。
「寝れそうにないなぁ」
雪菜の目元を見てみれば僅かに隈ができている。
「ぷふっ、子供かよ」
思わず笑ってしまった。
「しょうがないじゃん!男子と二人きりで行くんだし……色々緊張しちゃって……寝れなかったんだもん」
だもん……って、不覚にも可愛いと思ってしまった。
おいおい、相手は義妹だぞ?
「そうか」
「実はさ、私まだ悠哉くんのこと義兄っていう風に思えないの。べ、別に悠哉くんがダメとかそういうわけじゃないんだよ?ただ付き合いが浅いからなんだと思う」
「俺もさっきまで同じこと考えてた」
結局、互いに家族っていう感覚が希薄な状態で二人っきりの旅行ってのはハードル高いってことなんだろうな。
雪菜が嫌だって言うなら、払い戻しも出来るしキャンセル料はかかっちゃうけど旅行は辞めてもいいよ、そう言おうとすると、
「だ、だからね?その……この旅行で互いに家族だって思えるようになりたいなって……」
走り出した車内、恥ずかしいのか伏し目がちに雪菜は言った。
雪菜はハードルが高いから旅行を回避するって考えてるのかなって思ってたが、俺以上に前向きだった。
雪菜がそうしたいと思うなら、この旅行で俺もちゃんと雪菜のことを家族と思えるようになりたい。
戸籍上は家族だけど、どこか他人行儀な関係におさらばしたいのは二人とも同じ思いなのだから。
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