第9話 もう一人の幼馴染

 雪菜の顔面偏差値の高さや人当たりの良さもあって、義兄妹であることはあっという間に学年中に知れ渡ることとなった。

 高校二年の夏、受験期に突入する前最後の夏をカップルでイチャイチャして過ごしたい、そんな願望を持つ男子達が雪菜を放っておくはずはなく……案の定義兄の俺の元へクラスメイトも含め知らない奴がちょくちょく俺の元へと来るようになった。


 「なぁ悠哉、ちょっと相談したいことがあるんだが?」

 「えっと……今度はどちらの方でしょう?」

 「どちらの方って、そんな他人行儀なのは止めてくれよ?これなら俺は悠哉の義弟になるんだからな?」


 先走り過ぎだし愛が重い!

 とまぁ、こんな調子だ。

 

 「雪菜ちゃんばっかりモテちゃってお義兄にい様は辛いでちゅねー」


 横の席から小馬鹿にしてくる花凜の言葉はとりあえず無視。

 別に義妹がモテることをひがんだりするような狭量な兄などでは断じてない。

 本当だからな?


 「おいおい、悠哉が困ってるだろ?さっさと帰った帰った」


 知りも知ない奴に言い寄られて困っていると、高身長イケメンが俺を庇うように言った。

 この高身長イケメンは、遠野達樹とおのたつきといって小学校時代からの幼なじみだった。

 俺の花凜との間に何があったのかも知っているし、別れるよう花凜を説得したのも達樹だった。

 ただこのイケメン、常に女子との関係が噂されているモテ男で、傍に達樹がいるだけで女子からの「邪魔だどけ、視界に入るな」という無言の圧を感じることもしばしばある。


 「助かった。すごいなお前は。面識のない奴相手に強気に出れるんだから」

 「控えめなのは悠哉のいいところ、でもいつもそうだと相手につけあがられるからな?」


 勉強もスポーツも出来て人付き合いも上手い(恋愛だけが上手くいっていない)達樹に褒められるとちょっと嬉しくて頬がニヤけてしまう。


 「おうおう、照れんな照れんな」

 

 達樹は笑いながら茶化す。


 「達樹ー、お客さんだぞ」


 近寄ってきたクラスメイトが教室の外を指差しながら言った。

 すると達樹の笑顔はなりを潜めた。


 「ごめん、ちょっと行ってくる」


 すまなそうに言うと達樹は俺と花凜の元を離れた。


 「もう放課後だもんね、かぁー」


 俺と花凜からしたら見慣れた光景だし、笑顔の消えた達樹の表情も見慣れたものだった。

 もちろん達樹を呼び出したのは、他クラスの女子。

 告白というやつだった。


 「断るんだろうな」

 「確か今、大学生の人と付き合ってるんじゃ無かったっけ?」


 花凜の口から伝えられる衝撃の事実。


 「お前よくそんなこと訊けるなぁ」

 「だってほら、私たち隠し事するような仲じゃなくない?」

 「いや〜だって気になるじゃん。ちなみに達樹はその彼女のことを寅さんって呼んでるみたいよ」


 生まれも育ちも葛飾柴又なのだろうか……?

 人のプライバシーだから云々とか思ったけど俺もそこが気になって後から訊いてしまった。

 そしたら達樹の姉の友人らしくて苗字が虎尾だからだそうだ。

 俺も花凜のことを悪くは言えないらしい。

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