晴れた日の夜の秘密

くすのきさくら

2人だけの時間

カンカンカンカン……。


田舎にポツンとあるこの無人駅から、先ほど今日も無事に1両編成の最終列車が出発していった。これは晴れた時に俺が見ているいつもの光景だ。

電車の走行音が聞こえなくなると、乗り降りをするお客さんがいなかったため駅の周りは、人影がなく静まり返っている。駅前には数台の自転車が止まっているが。この自転車たちは今日はここに泊まるらしい。長年ここに泊まりっぱなしの子もいる気がするが――まあそれはそれだ。俺には関係ないことだ。

ちなみに駅のところにはタクシーの案内があるが。タクシーも止まっていない。むしろタクシーが止まっているところを見たことの方が少ないと思うが……夜に見たことあったかな?稀に――あったかもしれないけど。わからないかな。ってか、それに普段から使う人もほとんどいないためか。電話番号の部分などが読みにくくなっているが、そのままとなっている。果たして――読みにくい番号に電話をかけたところで繋がるのだろうか……という心配はあるが――まあ俺は使う予定がないのでいいかな。使えないからね。


まあここはそんな田舎の駅。

この後は翌日の始発電車までの数時間。この無人駅は眠りにつく。


朝までは誰も来ない。居ない、というのがいつもの事である。

俺はいつものように空から見えているだけだ。



――駅が眠りについてからしばらく経った頃の事。

ふと、俺は気配を感じた。


「……」

「……」


あたりはまだ真っ暗で、最終電車が行ってからまだ数時間しか経っていない。始発電車が来るのはまだまだ先なのだが――

駅の方から声がしている――どうやら今日は開催日のようだ。

俺はちょっと耳を傾けてみる。


あっ、そうそう、この駅は駅舎はなく二両分のホームと真ん中にベンチが1つだけあるのだが。今はそこに人影があった。


まあ、誰かは知らないけど――いつもの子たちだろうな。

またちょっと長い夜の暇つぶしにでも――こっそり聞いていようかな。って、俺を見るな。恥ずかしいだろうが……。



「おぉー、今日も空が綺麗だね。先輩見てみて、あそこの星めっちゃ明るい」

「どれだ?」

「あれだよ。ほら。ここからまっすぐ上見て」

「……あー、あれか。確かに明るいな。っか今日は星がよく見える。空が澄んでいるんだろうな」


とある無人駅のベンチに高校生くらいの男女が仲良く座っている。

2人の距離は密着しているので――そういう仲らしい。

暗いためどのような――というのはわからないが。

このド田舎の無人駅。そして深夜1時すぎというのに……楽しそうな会話が聞こえてきている。


「うんうん。学校の周りだと明るいから暗くなっても星なんてほとんど見えないのに、電車で数駅移動したらこれだからねー。ここだけはホント昔から変わらないよね。電車来るの?って思うようなボロっちぃい場所。何もない場所だけどね」

「毎日使っているところをボロっちぃいとか言うなよ。駅廃止になっても知らないぞ?」

「1つお隣の先輩のところの駅は駅舎あるじゃん」

「——あまり変わらない気がするが」

「変わるよー、こっちは駅の近くに民家もないし。ってか駅があっても全然増えないし。そもそも昼間でもバスの方が集落に近いところを走ってるからって、駅の方まで来る人はほとんど見ないからね」

「だな。少し離れると新しい家もあるんだけどなー。そういえばこの前俺のところ近くにも新しい人引っ越してきてたな」

「うちのところは……先輩のところより駅に近くても――まあ森だね。引っ越してくる人とかいないかなー」

「その森から真夜中に抜け出してきていると思うと――心配なんだがね」

「およよ?先輩が珍しくかわいい後輩ちゃんの心配をしているのかな?」

「ずっとしてるけどな。この謎な決まり。学校では他人の振り。でも夜だけは――その……」

「はいはい。先輩。そこまで言ったらちゃんと言いましょうね。私たちしかいないのに。何で恥ずかしがってるの」

「うるさいなー。苦情来るぞ」

「ないない。誰もいないし。住んでないし」

「……まあ夜だけの謎な関係——」

「ちょ、何で謎な関係とか言う意味の分からない事言うかなー。ちゃんとあるじゃん。恋人って言葉が」

「ってかさ。そろそれ普通に昼間も会ってよくないか?」

「だめだね」

「やっぱり謎な後輩だよ」

「えっへん」

「褒めてない。褒めてない。っか。もう何十回って言ってるが――マジで夜中に大丈夫なのかよ。俺は――まあ普通に家出てこれるが」

「問題なし。私逃走のプロだから。身代わりも部屋に置いてあるし」

「身代わりってなんだよ」

「長年愛用中のくまちゃんだね」

「急にかわいい事言いだしたが――それバレるだろ」

「それがまだバレてないんだよねー。ここ数か月。ってか。みんな夜は爆睡一家だから」

「爆睡一家って……絶対バレてるだろ。っか。マジであまりいい事ではない気がするんだが――まあ特別な感じはあるが――」

「でしょでしょ。だから。もうしばらくちゃんと会うのは、不定期で、この夜の駅だけにしようよ。先輩」

「……謎な女だ」

「ミステリアスな感じでいいじゃん」

「はぁ――っか。そろそろ帰るか?」

「えー、まだ2時だよ?」

「1時間以上話してるぞ?っか、今日こそ家まで送るけど?って家知らないけど……」

「いいよいいよ、走ったら5分だし。それに秘密は多い方がいいからね。まだ先輩に家は教えないよー?」

「結構距離ある気がするが――ってか。田舎でも不審者とかさ」

「まあまあ」

「まあまあって――心配してるのに」

「大丈夫。先輩が知ってるように。私強いから」

「——その情報俺知らないんだが?」

「あっ。これはまだ秘密だったかー」

「……」

「——とりあえず。そろそろ今日はお開きかなー。じゃあ先輩。次は来週の金曜日晴れたらです」

「突然話を変えたというか。無理矢理変えたよ。ってまあ了解」

「すぐにOKしてくれる先輩大好き!」

「なんか軽いような……」

「じゃあ――おやすみ。バイバイのチューでもしてあげよう」

「突然なんか言いだしたよ」

「しなくていいの?」

「したことないのに、何でいつもしてるみたいな言い方なんだよ」

「まあしないけど」

「そこまで言ったら――しろよ」

「したくなくなった―」

「はぁ……ってマジで送るぞ?」

「むー、じゃあ……途中まで」

「珍しい反応だな」

「先輩が言いだしたんじゃん」

「はいはい。じゃあ、行くか?」

「うん」


しばらく駅のベンチで話していた影が2つ動いた。

そして2人は仲良く手を繋いで――駅を離れていったのだった。

まだ楽しそうな会話は聞こえてきている。


それから少しすると話し声は駅から離れていった。

話し声が聞こえなくなると。また駅は静寂に包まれたのだった。



ここは昼間は静かな無人駅。そして深夜は――とある2人の秘密の待ち合わせ場所。

今日も2人は2人だけの特別な時間を楽しんでいたのだった。2人がこの後どうなっていくのか。いや、そもそも2人の出会いも気になるところだが――って――えっ?お前は誰だって?さあ?誰でしょうね。


まあ、晴れた時は空から地上を見ているものですよ。



(おわり)

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