真夜中小学校の人間ちゃん。

山岡咲美

真夜中小学校の人間ちゃん。

 今日の月は四分の一、少し曇りで暗いけど小学校までの道のりはスクールバスがあるから平気。


「こんばんは吸血鬼ちゃん」


「こんばんはミイラちゃん」


「こんばんはゾンビちゃん」


 私のお友達が次々とスクールバスに乗って来る。


「よろ人間ちゃん」


「こんばんは人間ちゃん」


「あーー、あーー、あーー、」


 私は人間の女の子、お昼の学校ではイジメられてて真夜中に小学校に通う普通の十二歳。


「あっ、吸血鬼ちゃん新しいマント?」


「うん、ウチ可愛いでしょ、表が白で裏地がピンクなんよ」


 最近吸血鬼の間では白を着こなすのが流行はやりみたい。


「あっ、ミイラちゃん新しいホウタイ?」


「ええ、今宵こよい藤色ふじいろの水玉にしましたの、赤いとケガしてる人みたいになってしまうから気を使いますわ」


 なるほど、ミイラちゃんはそういうの気にするんだ。


「あっ、ゾンビちゃん新しい古着?」


「あー、あーー、あーーー、」


 ゾンビちゃんはあえて古着にダメージ加工して着てる、前に筆談したときゾンビである事に誇りを持ってるって言ってた。



***



 社会の授業



 「はい狼男くん、答えて」


 魔女先生が十五センチものさしくらいの樫の木の杖で狼男くんを指す、先生は人間の魔女でこのクラスの担任をしている美人さん、私の憧れ。


「えーーと、魔法で人間が亜人になったり? 吸血鬼やゾンビが噛むと感染? したりします?」


「はい、クエスチョンマークが多いですがその通りですね、しかし今や亜人を生み出す魔法は失われていますし、吸血鬼やゾンビに噛まれてまも市販の飲み薬で治せるのでほぼ増えません」


 コンビニでも買える飲み薬[カマレターラノーム]の登場は人間から吸血鬼やゾンビに対する恐怖心を奪い去った。


「でも魔女先生、うちのパパはママに噛まれて吸血鬼だよ」


 吸血鬼ちゃんが手を上げて魔女先生に疑問を投げかけた。


「そうですね、吸血鬼さんにの家のように結婚を期に同じ種族になる人もいますね、とくに吸血鬼だと生活が夜型になりますし長命になるので同じ時間を生きる為に種の転換を行う方もいらっしゃいます」


「吸血鬼ちゃんのパパ人間だったの?」

 私は前の席の吸血鬼ちゃんに小声で話す。


「そうだよ、パパは愛のためなら太陽だって恐く無いって言ってた!」


 吸血鬼ちゃんはそう言ったけど吸血鬼用日焼け止めクリーム[モエルノフセーグ]があるのでよっぽどのおっちょこちょいじゃなければ灰になったりしない(たまにしか)。


「はい、吸血鬼さん、後ろを振り向かないで下さい!」


 魔女先生が樫の木の杖を振り浄化の魔法をちらつかせる、アンデッド系クラスメイトが震え上がる。


「……魔女先生のあれ、いつかPTAで問題になりそうですわ」


 ミイラちゃんが教科書の影に隠れながら私に呟く。


「ミイラちゃん魔女先生、第二次亜人大戦の生き残りらしいよ……」

 第二次亜人大戦は八十年くらい前に起きた亜人族との世界大戦で魔女先生は最前線で戦ったらしかった。


「あーーー、あーーー、あーーー、」


「そうだね怖いねゾンビちゃん」


 ゾンビちゃんが震えだし教室机と椅子を揺らす、その話しを知らなかった吸血鬼ちゃんとミイラちゃんは背筋をただし真っ直ぐ黒板を見て真面目に授業を受けだした、第二次亜人大戦の生き残りなんてアンデッド殺しの化け物揃いなのだ。



***



 夜食の時間


 教室机を四つ合わせる。



「はー、なんで教えてくれんかったんよ人間ちゃん、ウチ死ぬかと思ったよ」


 吸血鬼ちゃんがA型の血液パックを「チュウチュウ」しながら私に話しかける。


「ごめん知ってると思ってた」

 私は夕食の残り物で作った、ご飯半分レバニラ炒め半分のレバニラ弁当を食べながらそう話した。


「本当にですわ、ワタクシ魔女先生がそんな化け物とは思いもよりませんでしたわ」


 ミイラちゃんはドライフルーツたっぷりのシリアルをそのままで食べる、私が前にメロンパンに牛乳のお弁当の時に「牛乳いる」って聞いたら「ふやけ死ぬ!」って怒られた。


「あー、あー、あー、」


 ゾンビちゃんが生肉のステーキかじってる、焼いた方が美味しそう……。



***



 文芸部



「次のお題[真夜中]だってさ、ウチなに書こうかな?」


 吸血鬼ちゃんがスマホ片手に悩んでる。


 ネット小説サイトで行われている、小説祭のお題だ、短い期間に大喜利みたいなお題に答えて小説を書く、最近この文芸部の話題はこればかりになっていた。


「そうですわね[真夜中]と言えば学校ですわね」


 確かにミイラちゃんの言う通り、私達にとって真夜中は学校の時間だ。


「あー、あー、あーーーーーー、」


「そうだねゾンビちゃん、学校なんて普通過ぎるよね……」

 私はもっと面白いアイデアは無いかと考える。


「いいじゃん普通で、ウチ普通好きだよ、みんながいて、平和で、学校行って、授業受けて、お弁当して、クラブして、普通ぜんぜん楽しいよ♪」


 吸血鬼ちゃんは普通を楽しめる吸血鬼ちゃんです。


「そうですわね、ワタクシもみんながいれば普通でいいですわ」


 ミイラちゃんは友達が大好きなミイラちゃんです。


「あーーーーーーーーーーー、」


「そうだねゾンビちゃん、やっぱり普通最高だね♪」

 私達は普通の小説を書く事にした。



 吸血鬼ちゃん、ミイラちゃん、ゾンビちゃん、みんなみんな大好き、そんな大好きのつまった普通の小説♪♪♪♪



 これが私の普通、イジメも戦争も無い、優しい優しい真夜中の世界。

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真夜中小学校の人間ちゃん。 山岡咲美 @sakumi

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