第三章 時雨

 今日は天気がいいので彼女とデートの約束を予定に入れた。

 待ち合わせ場所は初めて遊んだ駅前とすっかり定着していた。

 十二時ちょうどに彼女は来た。


「やぁ、待った? 」

「いや、今来たところだよ」


 これももお決まりの流れになっていた。


「今日は、なんと!買い物をします! 」

「やけにテンション高いね。何買うの? 」

「それは着いてからからのお楽しみというやつです」

「なるほど、それは楽しみだ」


 いつにも増してウキウキしてる彼女を見てオレは微笑んだ。

 今日はどこに連れて行ってくれるんだろうか。オレもワクワクする。


 「着いた、ここだよ」


 彼女が足を止めたのは小さな雑貨屋だった。

 中はこじんまりしてて、アンティーク品や、レトロチックな物が多かった。

 ごちゃごちゃしてるけど何故かそれが雰囲気を出している。

 足早に彼女は店員さんに何か話していた。

 もう買うものは決まっているのだろうか?

 こっちにおいで、と手を振る彼女を追い、オレも店員の元へ向かった。


「あの、ドッグタグを作りたいんですけど… 」

「ドッグタグですね、かしこまりました」


 ドッグタグ?犬に付けるタグとか何かな?

 彼女が犬を飼っていることなんて聞いてないけど…。


「二つでワンセットなっておりますがよろしいでしょうか? 」

 よく見ると下のショーウィンドウに見本があった。

 あ、これアクセサリーなのか。

 いろんな種類の刻印が刻まれていてお洒落だな。


「はい、それでお願いします。別で細いチェーンも付けたいんですが、お願いできますか? 」

「もちろん大丈夫ですよ。三種類ございますが、先にお選びしますか? 」

「はい!お願いします! 」


 彼女は一番細いチェーンを選び、店員は「かしこまりました」と彼女の指定チェーンを取り出した。

 ここでオレは理解した。彼女はオレとお揃いのペンダント…いや、ドッグタグが欲しいのか。

 可愛い奴め、と思いながら顔がニヤけるのを必死に隠した。


「陽太くんはどれがいい? 」

「オレ?オレは…金属アレルギーだからなぁ。付属に付いてるキーチェーンにするよ」

「付属のものはこちらになりますがよろしいでしょうか? 」


 そう言って店員が見せてくれたのは丁度生徒手帳に入りそうなサイズだった。

 これならいつでも持ってられるな。

 店員に「お願いします」と伝えると「かしこまりました」と爽やかに対応してくれた。

 この店員、実に接客が丁寧で、すごく話しやすかった。


「では、刻印の文字がいかがされますか?アルファベットはもちろん、が数の多い漢字や日本語も可能でございます」


 結構いろんなものでも刻印できるんだと正直驚いた。

 店員は用紙を持ってきて、記入欄の説明をしてくれた。

 なんて記入するんだろう。無難にイニシャルとかだろうか。

 彼女は記入欄に、オレ達が付き合った日を書いた。

 嬉しいのと恥ずかしいので耳が熱くなった。覚えてくれてたんだ。


「記念日とイニシャルにしようかと思うんだけど、どう思う? 」

「何も知らされてないのにその質問はずるいよ」


 店員は「あら」と口に手を当て微笑ましそうにこちらを見ていた。

 きっと気づいたんだろうな。

 店員の気遣いが今はとても恥ずかしい。

 周りの視線を気にしてしまう。

 案外誰も見てないようで安心したが絶対他の店員にも「あのカップルお揃いのペンダント」

 ということが知れ渡るだろう。

 もういいさ、どうせカップルがお揃いのペンダント注文なんて沢山いるだろう。


「ではこちらで刻印させていただきますね。お間違いはございませんか? 」

「はい、大丈夫です」


 彼女は満足そうにしていた。

 まぁ、笑顔でいてくれるならそれで良いか。


 *


「規則でアクセサリーは禁止だから細いチェーンにしたの」


 帰る途中彼女は呟いた。


「でもね、セーラーの襟の隙間にピッタリ埋まるように調整してくれたんだ」

「オレは生徒手帳に入れようと思ってる」

「本当⁉︎てっきり家に保管してくれるのかと思ってたのに、嬉しい」

「うん、だから『お揃い』だね」


 彼女は笑顔が弾け飛ぶように笑い、手を繋いできた。

 オレはそれを、放しはなかった。


 帰ってきたオレは早速刻印してもらったドッグタグとやらを生徒手帳にバレないようにそっと忍び込ませた。

 これでまた一つ、彼女との思い出が増えたのだ。

 ドッグタグを作った後は、近くのカフェで今日のことを二人で日記帳に書いた。

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