第43話 人魔大戦の再来

 キルバスの闇の魔力が迫るその時、勇者ミエーカ、聖女フィヤネイト、拳神テラスが瞬間移動でゼノの前に現れた。


「何だあれは!?」


「話は後!」


 テラスの言葉にゼノが間髪入れず答える。


「そうだな。まずはこれを何とかしよう」


 ミエーカの持つ聖剣が眩く輝きだす。

 テラスの拳にも橙色の魔力が集まる。


「町は私が守ります」


 フィヤネイトが町全体に結界を張る。


「助かる」


 ゼノも合わせた両手の先に魔力を凝縮する。

 そしてミエーカやテラスと同時に魔法を放つ。


 ゼノの赤い魔力が、ミエーカの聖なる斬撃が、テラスの橙色の虎が、キルバスの黒い球へと向かう。

 そしてぶつかると、巨大な爆発となる。

 眩い光りと衝撃は町を越え、何十kmと野を駆け抜ける。


 その後、煙が晴れた時、町は建物にいくつかヒビが入っていたが、人は無傷だった。


「やるじゃないか。さすがは、かつての私の仲間だ」


 キルバスは辺りを見渡しながら言う。


「何でこんなことをする!」


「この世に悪が溢れているから」


 熱くなるミエーカにキルバスは淡々と答える。


「だが、いつかはよくなるはずだ!」


「なぜ言いきれる?」


 キルバスの問いにフィヤネイトが答える。


「協力と成長が光で不和と怠惰が闇だからです」


「ふっ、いかにも神官らしい返答だな」


 冷笑するキルバス。


「なぜ信じられない? 私たちは何度も危機を乗り越えて魔王を倒しただろう。人類に不可能はないはずだ!」


 テラスが問いかける。


「確かに今回は魔王を倒せた。だが次も倒せる保証はないだろう?」


「それでも俺たちは信じる」


 ゼノが言う。


「盲信だな」


「だが信じることによって世界は変わる。君が証明したんだろう? 人の思いには力があるって」


 ゼノはキルバスの纏う魔力に視線をやる。

 そう、闇の魔力は人の負の思いが集まったものだ。


「埒が明かないな。まあ、力なき正義など何の意味もない」


 キルバスは淡々と言う。

 けれど、その言葉はキルバス自身にも言っている。

 妻と息子を守れなかった自分自身に。


「お互い結果で語ろうじゃないか」


 キルバスの黒い魔力が波動になって世界に広がった。


「これは!」


 驚くゼノたち。

 世界各地で魔物がダンジョンから溢れだしたのを感知したのだ。

 それは魔王が現れた時と同じ現象。

 人魔大戦の再来だった。


「さあ守ってみせろ」


「キルバス!」


 挑発するキルバスに怒るミエーカ。


「アウレ! キーラ! 少しでも魔物を倒してくれ!」


「はい!」


「うん!」


 ゼノの言葉に頷くアウレとキーラ。

 キーラはアウレも紫電に包んで、瞬時に魔物が溢れるダンジョンの前に移動した。


「君たちは向かわないのか?」


「各地の魔物を倒すより、君を倒す方が早い」


 ミエーカが言う。


「先に人類が滅ぶぞ?」


「舐めるな。人魔大戦の時だって生き残っただろう?」


「私たちが魔王を倒したからな。だが私を倒せるか? 魔王よりも強いぞ」


 キルバスの纏う魔力が膨れ上がる。


「私たちも強くなったさ」


 ミエーカが笑う。

 そしてゼノと同じ、血によって赤く染まった魔力を纏いだした。

 さらにミエーカだけじゃなく、テラスやフィヤネイトも同じように赤い魔力を纏う。


「できたのか!?」


 ゼノが驚く。


「そりゃ、こんな技があると知ったら身に付けるさ。旅が終わってから頑張って身に付けたよ」


 とミエーカは笑う。


「そうか。だが長く持たないぞ」


「大丈夫です。私が治療します。私は魔力吸収で負う傷を、吸収した魔力より少ない魔力で治療できますから」


「じゃあフィヤは無限に魔力を使えるわけか。さすが聖女だ」


「行くぞ!」


 剣を強く握るミエーカに、ゼノたちは力強く頷く。


 世界の命運を握る戦いが、今始まった。


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