第41話 キルバス・ヤロカという男
ゼノ、アウレ、キーラは、キルバスの治めるメリエスマ王国の首都サタへとやってきた。
サタは大陸屈指の港として栄えている町だ。
町中に水路が張り巡らされ、人々は舟で町を行き来する。
そして水路と水路の間には白壁に赤い屋根の建物が立ち並ぶ美しい町だ。
多くの舟が港に停泊し、多くの商人で溢れている。
そんな活気溢れる様子にゼノは少し安堵した。
キルバスが王としての職務をきちんとやっていると分かったから。
大切な人を亡くして、何も手に着かなくなっているかもしれないと思っていたが、どうやら悲しみに塞ぎ込んでいるばかりじゃないようだ。
少々安心したゼノは王宮に着き、キルバスに会いにきたことを衛兵に伝える。
「ゼノーリオ・タミだ。キルバスに会いにきた」
「あのゼノーリオ様ですか!? お会いになるか伺ってきます。少々お待ちを」
衛兵の一人が急いで王宮の中へと入っていった。
そして、しばらくして帰ってきた。
「お会いになるそうです。どうぞこちらへ」
衛兵の案内で城へ入る。
ミエーカたちは会えなかったそうだが、会えるということはそれだけ立ち直ったということだろうか、とゼノはまた少し安堵した。
しかしミエーカに話を聞いた時から感じる嫌な予感は、全く消えなかった。
謁見の間の入り口へ着く。
衛兵が扉に手を掛けるのを見ながら、ゼノはキルバスと共に旅をした日々を思い出す。
キルバスは2mを超す、熊のような大男だった。
けれど威圧感があるわけじゃなくて、むしろ側にいると安心するような、優しく頼もしい父のような男だった。
「キルバスは何がしたい?」
魔王を倒して平和になった世界でしたいことをミエーカに聞かれた時、
「私は妻と共に息子の治める王国の発展を見守りたい。国民が笑っている姿を見たい。あと孫が生まれるところを見たい。それまでは死ねない」
キルバスは故郷の家族を思い出して、心底愛しそうな顔をした。
また魔物と激闘を繰り広げている時、ゼノが魔力も体力も尽きて絶体絶命の時があった。
膝を着くゼノに迫る大蛇。
その時ゼノをキルバスが手で押し出した。
そして身代わりとなって大蛇に食われた。
「キルバスッ!!」
キルバスも魔力がほぼ尽きていたので、死んでしまったのではとゼノは思った。
けれど違った。
「ウオオオオッッ!!」
キルバスは雄叫びを上げ、大蛇の顎を引き裂いて出てきた。
全身血だらけで、骨も折れているだろう。
立っているのも不思議なくらいなのに、それでもキルバスは笑っていた。
「そんな顔をするなゼノ。私は不倒王キルバス。どんな困難も乗り越えてきた。今回もそうだ。決して倒れない。私は戦士としてお前たちを守り、魔王を倒す!」
キルバスは斧を振り回し、魔物の大群へと向かっていく。
その雄々しき姿にゼノもミエーカも、テラスもフィヤネイトも勇気が出てくる。
「そうだね。俺たちは魔王を倒すんだ。こんな所で躓いちゃいられない!」
ゼノはもう魔力はないけど、血を魔力代わりにして、魔方陣を描き、できることをする。
そしてミエーカやテラスも、皆が必死になって戦い、勇者一行は何とか魔物の大群を打ち破った。
それから幾度も、キルバスの強靭な肉体と精神にゼノたちは助けられ、魔王を倒した。
キルバスとの過去を回想したゼノは思う。
家族を亡くしたショックは計り知れないだろう。
それでもキルバスなら、きっと立ち直っているはずだと。
しかし、何も心配することはないはずだと思いながらも、どうしても嫌な予感が拭えない。
いやキルバスなら大丈夫。
きっと大丈夫。
そう自分に言い聞かせながら、ゼノは開かれる扉の先、玉座に座るキルバスを見た。
そして、言葉を失った。
玉座には悪鬼がいた。
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