第40話 凱旋
ビフレアドの軍はイルペースの首を槍に刺し、王都へ凱旋した。
宿敵クイバイラを倒したとあって、人々は大いに歓呼の声を上げ、花びらをムスキルたちの上に落とした。
その量は、町に張り巡らされた水路が花びらで埋まるほどだった。
ムスキルたちは大歓声の中、通りを王宮まで進んだ。
その後ゼノやアウレ、キーラが従者や侍女によって、貴族風に身だしなみを整えてもらっている間に、祝宴の準備が調う。
ゼノたちは豪勢な料理が並べられた大広間へと案内され、一段高い所にある席にプラティネスやムスキルと共に座る。
そして宴が始まる。
「ゼノさん、アウレさん、キーラさん、あなた方のおかげで我が国は救われました。誠にありがとうございます」
プラティネスが何度もしたお礼を再度言う。
「いえ、私どもがいなくても、クイバイラには勝利していましたよ」
「それに私やキーラは何もしていませんから、お礼を言われるのは恥ずかしいですよ」
「うん、何もしてない」
ゼノ、アウレ、キーラはそれぞれ謙遜する。
「そんなことはないわ。あなた方がいなければムスキルも戻ってきてなかったかもしれませんもの。ぜひお礼をさせてください。欲しい物があれば何でも言ってください」
「それでしたら遠慮なく。私たちは魔無しへの差別をなくすために旅をしています。この国で差別をなくすように取り組んでいただけないでしょうか」
「ええ、喜んでいたしますわ」
「ありがとうございます」
「お二方は?」
「私は特には……キーラちゃんは何か欲しい物ある?」
「ない。美味しい物が食べれたら十分」
「私もそれで十分です」
「分かりました。押し付けてもあれですし、何か欲しい物があれば言ってくださいね」
「はい」
「わかった」
アウレとキーラは頷いた。
それからゼノたちが珍味佳肴に舌鼓を打っていると、
「あっ、そうですわ」
プラティネスが何か思い付いた。
「差別をなくしたいなら今回のゼノさんたちの功績を大々的に国民にお知らせしましょう。こちらへ来てくださる?」
プラティネスは立ち上がり、ゼノたちを大広間から続いているバルコニーに案内した。
そこは城の前の広場に面していて、広場には多くの国民が集まっている。
王宮に向けて歓声を送ったり、踊ったりしていた。
そんな彼らにプラティネスは、今回の戦の功労者としてゼノたちをムスキルと共に紹介した。
女王と英雄の登場に国民は大歓声を上げ、手を振る。
プラティネスもムスキルもゼノも笑顔で手を振り返す。
アウレは戦争で何もしていないことに照れながらも、無視するわけにいかないので、控えめに手を振る。
キーラは皆が自分に手を振ってくれることが嬉しくて、振り返す。
「戦に勝ててよかったわ」
満面の笑みの国民を見て、プラティネスは心底そう思った。
「ええ」
とムスキル。
「これからも守っていきたいわ。私の側で支えてくれる?」
「もちろん」
「ずっと一緒にいてくれる?」
「ええ、生涯あなたに尽くします」
「嬉しいわ」
プラティネスは目に涙を浮かべながら満面の笑みになった。
「そうと決まれば、発表しなくちゃね」
プラティネスはムスキルの手を取った。
そしてムスキルの困惑をよそにバルコニーの最前まで行き、
「皆さん聞いてください! このたび私プラティネスはこちらのムスキルと結婚することになりました!」
ムスキルと繋いだ手を高々と掲げて宣言した。
「「ええっ!!?」」
突然のことに国民は驚いたし、ムスキルも驚いた。
「何をおっしゃっているのです!?」
「さっき結婚を承諾してくれたじゃない」
「いや、先程のは騎士として仕えるという……」
「私のこと嫌いなの?」
「いや、そういうわけでは……」
「ならいいじゃない。あなたがいなくなってから、ずっと待っていたんだもの。もう待てないわ」
プラティネスがわずかに顔を赤らめながら言えば、
「ですから、そういうことでは……」
ムスキルも顔を赤らめる。
「きちんとした理由もあるのよ? 皆様は旅をしているのですから長くは留まれないでしょう?」
プラティネスはゼノの方を向いて言う。
「そうですね」
ゼノは旅を続けることはもちろんのこと、キルバスのことも思い浮かべた。
妻と息子を亡くしたキルバスのことが心配で、早く向かいたかった。
「でも皆様はムスキルを連れ戻し、この国を救ってくれた恩人です。だからこそ皆様に私たちの結婚を祝福してほしいのです。一週間くらいなら留まれるかしら?」
「それくらいなら。喜んで祝福させてもらいます」
「おめでとうございます」
「おめでとう」
ゼノ、アウレ、キーラが口々に祝福の言葉を述べた。
「まだ何かある?」
「ありません。生涯あなたを愛すことを誓います」
観念して微笑んだムスキルは愛を誓った。
「私もよ」
プラティネスも愛を誓い、どちらからともなく、二人はキスをした。
見ていた国民は大いに沸き、あらんかぎりの祝福の言葉を二人に投げ掛けた。
そんな二人を見ていたアウレは自然に笑顔になった。
私もこんな恋をしてみたいな、と思った。
そして、そんなことを思った自分に驚いた。
生きるだけで精一杯だったから、恋愛なんて考えたことがなかった。
自分も将来、恋愛するのだろうか。
もしするなら……。
無意識にゼノの方を見た。
そして、すぐに逸らした。
いや、私と先生は弟子と師匠だから。
恋愛するような関係じゃないから。
それに立場が違う。
私はどこにでもいる、しがない女で、先生は魔王を倒した英雄。
でも、もし同じような立場だったら。
聖女様と勇者様みたいに、対等な立場だったら……。
アウレは自分とゼノがフィヤネイトとミエーカみたいに話している姿を脳裏に浮かべる。
いや、何考えているのだろう。
ありえないことを考えていても意味ないわ。
アウレは首を振って考えを打ち消した。
その後、戦勝記念と女王の結婚を祝った祝宴が七日七晩続けられた。
そして翌日、ゼノたちは旅立つことにした。
町の外には多くの人が見送りに来てくれている。
「先生のおかげで祖国を救うことができました。このご恩は一生忘れません。何か困ったことがあればいつでも頼ってください。どこにでも駆けつけます」
「こちらこそ、ムスキルのおかげで旅が楽しかったよ」
ムスキルとゼノは固い握手を交わす。
「また機会があればビフレアドに立ち寄ってください。誠心誠意おもてなしいたしますので」
「楽しみにしてます。それでは」
女王とも別れの挨拶をし、ゼノたちは多くの騎士、市民に手を振りながら旅立った。
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