第34話 ゼノ対イルタ

 ゼノも準決勝を勝ち上がった。

 そして翌日、ゼノ対イルタの決勝戦が行われた。


「アウレに謝れ」


 天に届くほどの魔力を纏うゼノ。


「劣等種が指図するな。お前も同じ目に合わせてやるよ」


 イルタも荒ぶる魔力を纏う。

 赤と緑の魔力が闘技場を埋め尽くす。


「その言動が貴族の品位を下げていると分からないのか?」


「黙れ!雑魚が!」


 ゼノの言葉に怒ったイルタは数百個の火球を作り出し、ゼノへと放つ。


「桁が少ないぞ」


 イルタの攻撃に動じないゼノ。

 その背後には一万個の火球が浮かぶ。

 それらはイルタの火球を打ち消し、そのままイルタへと向かい、大爆発を起こす。


 爆煙からイルタが飛び出し、剣を振るう。

 それを右手で掴んだゼノは、易々と砕く。

 そして右手の甲でイルタの顔を殴り付ける。


「この野郎……!」


 吹っ飛ばされて結界にぶつかったイルタは、顔を手で覆いながら立ち上がる。

 指の間からは血が滴っている。


「謝る気になったか?」


「劣等種に謝るわけねえだろ!」


 イルタが突き出した右手から、魔力の塊が飛ぶ。

 ものすごい密度で、ものすごい速さでゼノへ迫る。

 常人が触れれば木っ端微塵になるであろう威力がある。

 それに対してゼノは右手を突き出す。

 魔力の塊が右手に触れる。

 その瞬間、魔力の塊が跡形もなく消え去った。

 ゼノが吸収したのだ。


「なんだと!?」


 驚き、目を見開くイルタ。

 そのイルタにゼノは宣言する。


「君じゃ俺に勝てない。諦めてアウレに謝れ」


「ふざけるな! 俺は貴族だぞ!」


「そうか」


 ゼノは手の平をイルタに向け、重力魔法を使う。

 するとイルタの体が引っ張られ、ゼノの目の前までやってくる。

 そうして眼前までやってきたイルタを、ゼノはおもいっきり殴る。

 吹っ飛ぶイルタ。

 それを再度引き寄せ、殴り飛ばすゼノ。

 殴って飛ばし、引き寄せて、また殴って飛ばす。

 イルタは何本も歯を飛ばし、血を口からボタボタと垂れ流す。


「謝るんだ」


「誰が謝るか……!」


 もはや意識を保つのもやっとだろうに、それでも謝ることを拒絶する。


「そんなに貴族の見栄が大事か。なら、これでどうだ?」


 ゼノは重力魔法でイルタを床に叩き付けた。

 顔が地面にめり込み、まるで土下座しているみたいになる。


「これで貴族の見栄なんか無くなっただろう?」


「黙れ! 俺は貴族だ! 劣等種になど絶対に頭を下げん!」


「たいした根性だ。他のことに使えばいいのに」


 ゼノはイルタに加える重力を強くする。

 するとイルタは地面にめり込み、周囲の地面もへこむ。

 イルタの全身がミシミシと悲鳴を上げる。


「ウグググッ!!」


 イルタは血を吹き出しながらも、歯を食いしばって耐える。


「いつまで耐えられるかな」


 ゼノはどんどん重力を強くしていく。

 強くするたびに、地面が深くへこんでいく。

 イルタの体は耐えきれず、骨がバキバキと折れる。


「グアアアアアアッッ!!」


 イルタは悲鳴を上げる。

 しかしゼノは魔法を解かない。


 やがて、


「すみませんでした……!!」


 イルタは血と涙を流しながら叫んだ。


「それはアウレに対してか?」


「はい……ッ!!」


「今後は人を見下さないか?」


「はい、誓います……!!」


「分かった」


 ゼノは魔法を解いた。


「助かっ……」


 苦痛から解放されて安堵したイルタは気絶した。


「し、勝者ゼノ!」


 審判の声に観客は沸き立つ。


「第50回トルニカ武闘大会の優勝者は! まさかまさかの魔無しの男! 赤き戦士ゼノだああああ!!」


「「ウオオオオオオオオオッ!!」」


「魔無しのくせにやるじゃねえか!!」


「魔無しのくせによくやったぞ!!」


 司会の言葉に観客はさらに盛り上がる。

 その歓声の中でゼノは呟く。


「観客もだぞ」


 ゼノの周りに無数の火球が現れ、観客席に向かって飛んだ。

 結界を軽々と破壊して、観客の顔の横を掠めて、座席や壁にぶつかった。


「…………」


 胆が冷え、言葉を失う観客たち。


「君らも魔無しを差別することをやめてくれ」


 ゼノは観客を見渡した。


「……はい……」


 観客は震える声をなんとか絞り出した。

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