第33話 アウレ対イルタ

 準決勝第1試合。

 闘技場にアウレとイルタが入場する。

 すでに二人とも魔力を纏い、臨戦態勢だ。


「よくも貴族の顔に泥を塗ってくれたなあ!」


 イルタの目は血走っている。


「負けるのが嫌なら出てこなければいいでしょ」


 アウレは負けじと言い返す。

 しかし顔に余裕はなかった。

 イルタはリケッツに比べて何倍もの魔力を纏っていたから。

 身のこなしも隙がない。


「言うじゃねえか」


 イルタの声が怒りに震える。


「覚悟できてんだろうなあ!!?」


 イルタは審判の合図を待たずに、無数の火球をアウレに放つ。


「ッ!!」


 突然の攻撃に驚きながらも、紙一重で躱していくアウレ。


「か、か、開始!」


 審判が遅れて合図を出す。


 火球が地面にぶつかって爆ぜ、アウレは砂煙に囲われる。

 その砂煙からイルタが、アウレの眼前に飛び出してくる。

 そして横に振られる剣。

 後ろに飛んで、なんとか躱すアウレ。

 服が切れる。


「死ねや!」


 イルタは走ってきた勢いそのままに飛び上がり、膝蹴りをアウレの顔面に食らわす。

 アウレは後ろに飛ばされる。

 けれどバク転して、すぐに体勢を整える。


 そこに飛びかかってくるイルタ。

 上段から剣を振り下ろす。

 それを半身になって躱しながら、アウレは振り下ろされる腕に掌底を食らわす。


「雑魚の攻撃なんか効かねえよ!」


 アウレの攻撃を意に返さず、イルタは剣を振り上げる。

 アウレの右肩から血が吹き上がる。


 だがアウレも意に返さない。

 痛みに怯むことなく、イルタの顎を蹴り上げる。


「姑息なことをするじゃねえか」


 顎を押さえながら、青筋を立ててアウレを睨むイルタ。


「卑怯なことはしてないわ」


「違えよ。お前、俺が魔力を使えないようにしようとしてるだろ」


「! なんでそれを!?」


 驚くアウレ。


「最初の攻撃の時点で違和感があったからな。馬鹿には通用しても俺には通用しねえよ」


 イルタは無理矢理魔力を流して、魔力の流れを取り戻す。

 全身の魔力を止められたら、無理矢理戻すことはできないが、数ヶ所だけだったら簡単に解くことができるのだ。


「策は尽きたか? 貴族に逆らったことを後悔やせてやるよ!」


 イルタの猛攻が始まった。

 先程までより数段速い動きでアウレを切り刻む。

 なんとか致命傷は避けているが、どんどん傷は増えていく。


 やがて限界がくる。

 イルタの剣がアウレの右手を切り裂く。

 四本の指が宙に舞う。


「ウアアアアッッ!!!」


 アウレは右手を押さえて、うずくまる。

 そこに間髪入れず、イルタが蹴りを叩き込む。

 頭を蹴られて吹き飛ばされたアウレは、結界にぶつかって倒れる。


 イルタは容赦がなかった。

 そして強かった。


「アウレ! 降参するんだ!」


 ゼノが、ふらふらと血だらけになりながら立ち上がるアウレに言う。


「でも……!」


 悔しそうに涙を浮かべるアウレ。


「もう十分活躍した! 無理する必要はない! 死ぬぞ!」


「……分かりました。降さ――――ガッ!!


 降参しようとするアウレの口をイルタの手が塞いだ。


「降参させるかよ」


 塞ぐ手に力を込める。

 アウレの顔の骨がミシミシと悲鳴を上げる。


「聖女がいるから死にはしない。後遺症も残らない。けど心の傷は残るよなあ!」


 イルタは左手でアウレの後頭部を持って、地面に打ち付ける。

 地面が割れ、アウレは苦悶の声を上げる。


「降参しようとしていただろ! やめろ!」


 ゼノの制止をイルタは無視する。

 そして何度もアウレを地面に叩き付ける。

 歯は飛んで、鼻は折れる。

 血が飛び散る。


「まだまだ終わらねえぞ!」


 イルタはアウレを持ち上げる。

 そして、


「派手にぶちまけろ!」


 右手に力を込める。

 瞬間、アウレとイルタの間にゼノが割って入る。

 一瞬の内にイルタの左手を手刀で切って、アウレを胸に抱き抱える。

 そして左手に作った魔力の剣をイルタの鼻先に突き付ける。

 またゼノだけじゃなく、ムスキルと勇者ミエーカも剣をイルタの首筋に突き付ける。

 キーラも紫電を纏ってアウレとイルタの間に立つ。


「やりすぎだ。アウレに謝れ」


 イルタを睨みつけるゼノ。


「ハッ、劣等種が調子に乗るから、そうなるんだ」


 血が吹き出す左手を押さえながら、イルタはゼノたちを嘲笑する。


「それとも殺してやればよかったか?」


「いいかげんにしろ!」


 ミエーカが剣を握る手に力を込める。

 イルタの首から血が流れる。


「勇者様が一方の参加者を贔屓していいのか?」


「ルールより正義の方が大切だ」


「そうですか」


 ハイハイとイルタは両手を上げて後ずさる。


「で、勝者は?」


「え、えーと、し、勝者イルタ・ビリアラ」


 審判のコールがされると、


「ふざけんじゃねえ! 途中で終わらすな!」


「勇者様も乱入しないでくれ!」


「魔無しが参加するから、こんなことになるんだ!」


「そうだそうだ! 魔無しが調子に乗ってんじゃねえよ!」


 観客はアウレを罵倒して物を投げつけた。


「ごめんなさい……!!」


 仰向けになって、聖女に回復魔法を掛けてもらっているアウレは、腕に隠された両目から涙を流した。


「謝らなくていい」


「でも……!!」


 ゼノの言葉にアウレは心底悔しそうにする。

 魔無しへの差別を無くすため、魔無しでも強くなれるって証明するために武闘大会に出たのに、真逆の結果になってしまったから。


「そんなことはない。アウレはよくやった。今回のことも無駄にはならないよ」


 ゼノはアウレを慰める。


「後は俺に任せてくれ」


 すでに聖女の魔法で完治して退場していくイルタを睨みつける。

 身中に怒りを滾らせて。


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