第31話 いざ武闘大会

「さあ、これから行われるは、世界中から集まる強者と強者のぶつかり合い! 問われるは己の腕のみ! トルニカ名物武闘大会! 優勝者には賞金1千万と黄金のティアラ!そして今年は勇者と戦う権利を与えられます!」


 司会の言葉に闘技場の観客は歓声を上げる。

 王の隣にいる勇者は手を振り応える。


「それでは早速始めましょう!第1試合は――――」


 武闘大会が始まった。

 観客は割れんばかりの歓声を上げて出場する戦士を出迎えた。


 そして早速、第2試合でアウレの出番が回ってきた。


「第2試合は若き冒険者レオス対魔無しの女アウレ!」


 司会の言葉に従い闘技場へ入場するアウレとレオス。


「何で魔無しが出てくるんだ!」


「遊びじゃねえんだぞ! 帰れ! ボケ!」


 アウレが出てくるやいなや、観客は罵声を浴びせ、物を投げつけた。

 幸いにも闘技場には観客に被害が出ないように結界が張られているので、投げつけた物はアウレまで届かないが、罵声は四方八方から浴びせられた。


「みんな、怒ってる……?」


 闘技場への入り口で見ていたキーラは、怯えたようにゼノの裾を掴んだ。


「大丈夫だよ。すぐ黙るから」


 キーラの頭に手を置いて安心させるゼノ。


 アウレとレオスは数メートル離れた所で向かい合う。

 レオスは茶髪の若い冒険者だ。

 鉄の胸当てと腰に剣を身に付けているだけの質素な格好と、まだまだ垢抜けていない見た目から駆け出し冒険者だと分かる。

 しかし侮るなかれ。

 その実力はすでにB級冒険者と同等だった。


「始め!」


 審判の声と同時にレオスは突っ込んだ。

 数メートルあった距離を一瞬で詰める。


 速い!とアウレは思った。


 だけど!


 アウレは魔力から動きを先読みできる。

 だからレオスの上段からの振り下ろしを、半身になって躱す。

 それと同時に、剣の纏う魔力が薄い所に向かって左手で掌底を食らわす。

 すると剣は砕け、レオスは驚く。

 アウレは掌底の勢いそのままに回転し、回し蹴りを相手の顎に叩き込む。

 まともに食らったレオスは倒れ、そのまま起き上がることがない。


「………」


 魔無しが圧勝するというまさかの展開に観客も司会も言葉を失う。


「し、勝者アウレ!」


 審判が宣言する。

 まさかの展開に会場は、にわかに騒がしくなる。

 一方ミエーカとフィヤネイトは、


「ゼノといるなら、これくらいはできるか」


「どれくらいできるのでしょうか。楽しみですね」


 ワクワクした目でアウレを見ていた。


「よくやったねアウレ!」


 意気揚々と帰ってきたアウレを褒めるゼノ。


「はい! やりました! イエーイ!」


 アウレはキーラとハイタッチした。


「アウレに続くぞ」


「はい」


 ゼノの言葉に応えるムスキル。


 それから大会は進み、第5試合ムスキル、第6試合ゼノも問題なく勝ち上がった。


 そして第2回戦第1試合。


「リケッツ・プルース対アウレ!」


 司会の言葉で再びアウレが入場する。

 今度は罵声と歓声が半々だった。


 アウレは相手と向かい合う。

 今回の相手リケッツは、控え室でアウレたちに喧嘩を売ってきた二人組の内の一人、赤髪の背の低い男だった。


「劣等種にでかい顔されると、私たち貴族の立場がない。今すぐ叩き潰してやる」


「あなたみたいなのが貴族だなんて不快だわ。性根を叩き直してあげる」


 二人は睨み合う。


「始め!」


 審判の声と同時にリケッツは魔法を唱える。


「潰せ "岩連がんれん"」


 空中に無数に生まれた岩の塊が、次々とアウレに向かって飛んでいく。

 それをアウレは横に走って躱す。

 外れた岩は地面にぶつかって爆ぜ、地面は抉れる。

 一度でもぶつかれば、ひとたまりもないだろう。

 けれどアウレは恐れず、リケッツに近付いていく。


「ちょこまかと、不快なんだよ」


 リケッツは地面に両手を着く。

 すると地面がめくれ上がり、アウレに迫る。

 当然アウレは避けようとするが、全方位から迫ってくるのでどうしようもなかった。

 そしてアウレはドーム状の岩壁に閉じ込められた。


「"巌窟牢がんくつろう"。そして」


 リケッツは両手を胸の前まで上げ、


「"針獄しんごく"」


 両手を組んだ。

 直後アウレに向かって、岩の牢から鋭い土の刺が突き出て、全方位から迫った。

 そして刺は牢を自ら突き破って、飛び出た。

 それと同時に血も飛び散る。

 見ている者はアウレが死んだと思って息を飲んだ。

 そして不安げに牢を見ていると、突如牢の一部が突き破られた。

 そしてアウレが出てきた。

 わずかに傷があり、血が出てはいたが、ほぼ無事だった。

 そして白い魔力を纏っていた。


「なぜ無事なんだ!? いや、それより、なぜ魔力を纏っている!?」


 リケッツは驚いた。

 それも当然の反応だ。

 魔無しのアウレが魔力を纏っているのだから。


 でも、それは不思議なことじゃない。

 アウレは毎日の訓練で、ゼノほどではないが魔力吸収を行えるようになっていたから。


 そして前日から魔力を貯めて、その魔力によって身体強化することにより、刺を躱し、また躱せないものは殴って壊した。

 牢も殴り壊して出てきた。


「最後まで取っておきたかったけど仕方ない。ここからは本気でいくね」


 アウレはリケッツに向かって、まっすぐ走り出した。


「驚きはしたが、その程度の魔力、あろうとなかろうと変わらねえよ!」


 リケッツは剣を抜き、迎え撃つ。

 右袈裟に振り下ろされる攻撃。

 しかしアウレは難なく躱す。

 そしてリケッツの顎をかち上げる。


「調子に乗るな!」


 今度は横薙ぎに振るう。

 これをしゃがんで躱したアウレは、同時に足払いする。

 そして転げたリケッツの腹を蹴り上げる。

 リケッツは空気を吐き出しながら、ゴロゴロと転がる。


「なぜ当たらない?」


 体勢を立て直したリケッツは、腹を押さえながら疑問を呈する。

 でも、おかしいことじゃない。

 魔力がなくてもB級冒険者を倒せるアウレが魔力を纏ったなら、A級冒険者相当のリケッツを倒せても、なんらおかしくはない。


 アウレは戸惑っているリケッツを攻め立てる。

 魔力量はリケッツの方が圧倒的に多いから、大したダメージは入らない。

 それでも何度も何度も食らわせていればダメージは蓄積していく。


 やがてリケッツは限界を迎えた。


「降参する」


 血だらけになり、四つん這いになったリケッツは言った。


「勝者アウレ!」


 審判の判決を聞くと、観客は大いに沸いた。


「いいぞ! 貴族を倒すなんて! 魔無しのくせにやるじゃねえか!」


「応援するぞ! 優勝しちまえ!」


 多くの観客がアウレに歓声を投げ掛けた。


「やりました!」


 アウレはゼノたちに向けてピースをした。


「よくやった!」


「すごいよ! アウレ!」


 ゼノとキーラもピースをして跳びはねた。


 一方、ゼノたちと反対側の通路に、治療を受けて戻ってきたリケッツ。


「すみませんでした」


 二人組のもう一人、金髪の男に謝る。


「話しかけるな。劣等種が」


 金髪の男、イルタはリケッツの方を見もせずに言う。


「……すみません、次は……」


「次なんかねえよ。貴族の恥さらしが!」


 イルタは火の玉を浮かべた右手を、リケッツの顔面におもいっきり叩きつけた。

 すると爆発が起きて、リケッツは黒焦げになり、血を吐いて倒れた。


「貴族の名を汚しやがって、許さねえからな」


 イルタはアウレをまっすぐ睨んだ。

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