第30話 勇者と聖女

「そうだよ。僕が勇者だ。よろしく」


 ミエーカは自身が勇者であることを堂々と認めた。


「ちなみに私もいますよ」


 ミエーカの後ろから、ひょっこりと現れたのは、白い神官服に身を包み、金髪を腰まで垂らした美女だった。


「君までいるのか! フィヤ!」


「ええ、久しぶりですね、ゼノ」


 ゼノとフィヤと呼ばれた女は和やかに挨拶を交わす。


「あなたは、もしかして……」


 アウレはフィヤの服を見ながら尋ねる。


「ええ、私が聖女フィヤネイトです」


 フィヤもといフィヤネイトの言葉に周りはまた、どよめいた。


「よ、よろしくお願いします」


 アウレは緊張しながら挨拶をした。

 ムスキルも同じように挨拶する。

 けれどキーラはアウレの後ろに隠れていた。


「照れてるのかな」


 ミエーカがキーラに近付く。


「待って、怖がっているんだ」


「僕を怖がる子供がいるのか……!」


 ゼノの制止に真面目に驚くミエーカ。


「ちょっと事情があってね」


「そうですか。でも大丈夫ですよ。私はあなたの敵ではありません。だから仲良くしませんか?」


 フィヤネイトが手を差し出した。

 まるで後光を背負っているように見えた。


「……分かった」


 キーラはフィヤネイトの手を握った。


「初対面なのにすごいな。さすがは聖女様だ」


 とゼノ。


「そうでしょう。残念でしたね、勇者様?」


 聖女フィヤネイトは勇者ミエーカに勝ち誇る。


「ああ、さすがはフィヤだ。いいお母さんになれるだろう」


 ミエーカは素直に称賛する。


「そ、そんな、いきなりなんてことを! まだ早いのでは!? も、もちろん私は構いませんけど……!」


 フィヤネイトは赤くなった顔を手で覆った。


「? フィヤは時々、よく分からないことを言うね。でも、そんなフィヤもかわいいよ」


「な!? そんな! ダメですよ! こんな公の場で……!!」


 ミエーカが耳元で囁くと、フィヤネイトは一層興奮しだした。

 アウレはそんな二人を指の隙間から凝視する。

 ムスキルはキーラの目を塞ぐ。

 フィヤは恋愛したいって言っていたもんなあ、よかったなあ、とゼノは涙ぐんだ。


 んんっ!


 このまま放っておくと、おっ始めそうだったので、ムスキルは咳払いした。


「す、すみませんでした」


 フィヤネイトは素早く居住まいを正した。


「それで二人はどうしてここに?」


 ゼノが尋ねる。


「君の姿が見えたからね」


 とミエーカ。


「そうじゃなくて、何でこの武闘大会に? 出るのか?」


「まさか! 招待されたんだよ。ちなみに優勝者は僕と戦えるんだ」


「へえ」


「私も招待されました。ついでに回復役もします」


「それは安心だ」


「ゼノはどうしてここに?」


 とフィヤネイト。


「魔無しの地位向上かな」


「いいことだ! 応援しているよ!」


 とミエーカ。


「ありがとう」


 とゼノ。


「じゃあ、もう行くよ。君と戦えることを楽しみにしている」


「俺も楽しみだよ」


「私も応援してますよ。また後で話しましょう」


「うん、ありがとう」


 勇者と聖女は部屋を出ていった。


「二人の前でカッコ悪いことはできないな。頑張るぞアウレ、ムスキル」


「「…………」」


 二人はカッコ悪いところを見せていったけどな、とアウレとムスキルは思ったけど黙っていた。

 そして、


「「はい!」」


 二人も改めて気合いを入れた。


 それを恨めしげに見つめる男がいた。

 先ほどゼノたちに喧嘩を売った二人組の男たちだ。


「勇者の知り合いだからって、でかいツラしてんじゃねえぞ。劣等種が!」


 金髪の男は血走った目でゼノを睨んでいた。


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