第29話 オアシス都市トルニカ
翌日、キーラとの親交を深めがてら、ゼノとアウレは町に観光に出かけた。
キーラは三段アイスを落としたり、食べたりした。
赤いリボンを角に巻いたり、アウレとお揃いのスカーフを身に付けたりした。
サーカスに目を輝かせ、吟遊詩人の歌に夢中になった。
さらに翌日、見ているだけは暇ということで、キーラも一緒に訓練をした。
そのまた翌日は四人でクエストに出かけた。
そうして、いくつかの町を巡り、クエストを受けたり、観光したりしたゼノたちは新たな町に着いた。
ゼノたちがやって来たのは、オアシス都市トルニカ。
砂漠の真ん中にある水と緑の溢れる町で、各地から行商人や冒険者が集まり、多種多様な品が集まる賑やかな町だ。
市場は鮮やかな織物の天幕に彩られ、人々も色とりどりの服を身に付けていて、見ているだけでも楽しい町だ。
けれども町で最も目を引くのは、中央にある高い塔だった。
頂上は雲に隠れて見えないほどの高い塔だ。
「これが試練の塔か……」
「試練の塔! 聞いたことあります!」
ムスキルの呟きにアウレが興奮する。
「たしか100階層まであるダンジョンで、とってもレアなアイテムが手に入るとか!」
「そうだね」
とゼノ。
「とても難しくて、最後までクリアしたら大変な名誉を得られるとか。もしかして、これをクリアして
「いや、それはまだ早い。でも似たようなことはするよ」
「似たようなこと?」
「うん。この町では4年に一度武闘大会が開かれるんだ。世界中から強者が集まるこれに出て名声を得る!」
「武闘大会!」
「ほう、面白そうですね」
アウレもムスキルも俄然やる気になる。
「何? 何に出るの?」
キーラが興味津々な目でアウレを見る。
「武闘大会っていうのは、誰が強いのか決めるために戦う大会だよ」
「戦うの?」
不安になるキーラ。
「大丈夫だよ。ルールの中で戦うだけだから、殺し合うわけじゃないの」
「分かった。応援する」
「ありがと! キーラちゃんの応援があれば百人力だよ」
アウレが頭を撫でるとキーラは嬉しそうにした。
「よし! いくよアウレ!」
「はい先生! 魔無しでも強いってことを証明してみせます!」
気合い十分の二人を先頭にして、四人は大会が開かれる円形闘技場へと向かった。
◇◇◇◇
大会に申し込んだゼノ、アウレ、ムスキルは無事に予選を突破し、本選に進んだ。
そして現在、キーラも含めた四人は闘技場の控え室にいる。
周りには同じく本選に勝ち進んだ参加者たちがいる。
筋骨隆々の大男、分厚い甲冑に身を包んだ女騎士、青いローブを被った魔法使い。
いずれも猛者たちで、部屋の空気は張り詰めている。
ゼノたち三人も含めた十六人が本選の出場者だ。
「頑張ってね」
「うん、いいところ見せられるよう頑張るね!」
キーラの応援に拳を握り応えるアウレ。
その時、部屋に二人組が入ってきた。
どちらも金刺繍の施された服を着ている若い男だった。
一人は赤髪で背が低く、もう一人は金髪で背が高い。
どちらも、どこかの貴族の子だろうと思われた。
「おいおいおい、何で魔無しやガキがいるんだ!?」
部屋に入ってくるやいなや金髪の男が言った。
「トルニカの武闘大会も地に落ちましたねえ」
もう一人も追従する。
そして二人はまっすぐにゼノたちのいるテーブルに向かってくる。
「去れ。目障りだ」
金髪の男はテーブルにバンッと手を叩きつけて、ゼノを睨んだ。
「なぜ? 俺たちはきちんと予選を突破してここにいる。去れと言われる理由はないよ」
「知るかよ。てめえのような劣等種を見ると不快なんだよ。早く消えろよ」
「俺も不快だ。人に優劣を付けるのはやめてくれ」
「分かった。試合が始まる前に殺してやるよ」
金髪の男の手に巨大な魔力が集まり、火の玉が形成されていく。
「待て、試合前に乱暴するようなら失格にするぞ」
金髪の男の背に声を掛ける者が現れた。
金髪碧眼、眉目秀麗の隻腕の男だった。
「邪魔すんじゃねえよ。それともお前から殺られたいか?」
「ああ、やれるものならやってみてくれ」
碧眼の男は腰に佩いた剣を鞘から少し抜く。
そうすると刀身から眩いばかりの光が溢れだす。
「その光は……まさか……!!」
「どうした? やらないのか?」
「あ、ああ、悪かった」
二人組の男は逃げるように部屋の隅へと移動した。
「余計なお世話だったか?」
「いや、助かったよ、ミエーカ」
金髪碧眼の男ミエーカとゼノはニヤリと笑った。
「ミエーカだと!?」
ムスキルは驚いて声を上げる。
ゼノたちの騒動を見ていた周りの参加者たちもどよめいている。
「ミ、ミエーカって、まさか、あの勇者様!?」
アウレが驚きの声を上げる。
「そうだよ。僕が勇者だ。よろしく」
ミエーカは自身が勇者であることを堂々と認めた。
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