第21話 後の事

 カッ!


 ゼノは目覚めた。

 目には見知らぬ天井が映る。

 絵が描いてある。

 どこかの貴族の屋敷だろうと思った。

 全身が痛む。

 おそらく治療を受けたのだろうが、完治はしていないようだった。


「先生!」


 隣で声がした。

 寝たままで首を動かすと、ベッドのそばにアウレがいた。

 椅子から立ち上がり、ゼノの被っている布団を握りしめている。

 目には大粒の涙を溜めている。


「目が覚めたんですね……!」


「うん」


「本当によかったです。このまま死んでしまうかと思いました」


 涙を流すアウレ。


「死なないよ。生きるって約束したんだから」


「何言ってるんですか!本当に死ぬところだったんですよ!助けを呼んで戻ってきたら、息してなかったんですから!」


「ごめんね心配かけて」


「本当ですよ!」


 アウレは怒っていた。

 それだけ心配していてくれたのだろうと、ゼノは申し訳なく思うと共に、嬉しくもなった。


「お礼しておいた方がいいですよ」


 アウレとは反対の方向から声がした。

 ゼノがそちらに顔を向けるとムスキルがベッドに寝ていた。


「助かったんだね」


「ええ、先生が先に逃がしてくれて、アウレさんが早く連れていってくれましたから」


「そうか、よかったよ」


「先生も私もアウレさんのおかげで命拾いしましたね」


「そうだね。アウレ、ありがとう」


 ゼノはアウレにお礼を言った。


「別に大したことはしていませんよ」


 怒っていた手前、素直に受け取ることができず、照れながら返事をするアウレ。


「右足はどうなった?」


 ムスキルに聞くゼノ。


「失くなりました」


「そうか……」


「でも落ち込んではいません。まだ強くなれそうですから。教えてくれますよね、ドラゴンを倒した技を」


「もちろん。元から教えるつもりだったしね」


 ゼノは快く了承した。

 ちょうどその時、


「失礼する」


 部屋の扉が開いて人が入ってきた。

 豪華なマントに身を包んだ初老の男と、同じく華美な衣服を身につけた二十代と十代の男だ。

 その後ろには従者らしき人たちが控えていた。


「無事に目が覚めたようでなによりだ」


 初老の男が言った。


「あなたは?」


 ゼノが問う。


「これは失礼。我はクルタリの王バロアだ。それからこちらは我が息子のヴァンヘンとオーレンだ」


「国王陛下でございましたか。これは失礼しました。私はゼノでございます。無礼な姿勢をお許しください」


 ゼノは寝たきりで、挨拶した。

 ゼノは王の後ろのヴァンヘンには見覚えがあった。

 王子が最前線で戦っていたのかと感心した。


「よいよい、国を救ってくださった英雄様を咎めることはせぬよ」


 国王は笑って許した。

 それから、


「……真によくぞ国を救ってくれたな。息子の命があるのもお主のおかげだ。感謝する」


 頭を下げた。

 二人の王子も同じく頭を下げる。


「光栄に存じます」


 ゼノも礼を言った。


「褒美を渡すから、欲しい物があれば何なりと言ってくれ。宝石もいくらでも持っていってよいからな」


「でしたらお願いしたいことが」


「なんだ?」


「宝石等はいりません。代わりに今回の戦いでの私たちの功績を宣伝してほしいです。特に私とアウレが魔力がなくても多くの魔物を倒したことを」


「そのくらいなら喜んでしよう」


「ありがとうございます」


「そちは何を望む?」


 国王はムスキルに聞いた。


「私も宝石はいりません。ただ義足を作ってくださるとありがたいです」


「もちろんだ。最高の義足を用意しよう」


「ありがとうございます」


「そちは何がほしい?」


 国王はアウレに聞いた。


「わ、私も、多くはいりません」


 アウレは国王を前にして緊張していた。


「ただ、ブローチ、一つくらいは、欲しいかな、と思います」


 アウレは照れながら言った。


「ハッハッハッ、一つと言わず、いくらでも持っていくとよい」


「いえ、多くはいりませんので……」


 アウレは畏まる。


「アウレ、こういう時は遠慮したらダメなんだよ」


 ゼノが真顔でアドバイスする。


「最初に遠慮した人が言わないでくださいよ!」


 アウレは国王の前だからか、小声で会話する。


「いや、俺は必要ないからね。欲しかったら、いつでも手に入れられるし」


「私も困っていない」


 ムスキルもなぜか割って入ってきた。


「所詮私は庶民ですよ!!」


 アウレは叫んだ。


「ハッハッハッ、仲のよいことだ。後で宝石を用意させるから好きなだけ選びなさい」


 国王は快活に笑った。


「……はい」


 アウレは叫んだことが恥ずかしくなった。


「ではお暇しよう。病み上がりに無理させては悪いからな。ゆっくりくつろぐといい」


 国王一同は去っていった。


「ふうっ」


 アウレは肩の力を抜いた。


「お二人はよく緊張しませんね」


 先程と変わらない様子の二人に聞いた。


「まあ慣れているからね」


「私もです」


「やはり上流階級……!!」


 アウレは格差を感じた。


「まあ先生の経歴を聞いた時から分かっていたことです。それよりリンゴ食べましょう」


 アウレはサッと切り替えて、机に置いてあったリンゴを手に取った。


「助かるよ。ありがとう」


「助かります」


 二人もアウレからリンゴを受け取った。

 そして三人はリンゴを味わった。

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