第20話 VSレッドドラゴン

「逃げろ! アウレ! ムスキルを連れて逃げろ!」


 ゼノが叫ぶ。


「先生は!!?」


「俺は残る!」


 言いながらゼノは横に走る。

 そして石を拾って、レッドドラゴンの目に投げつける。

 熱線を吐くために口に魔力を溜めていたドラゴンは、その照準をゼノに変える。


「なら私も!」


 叫ぶアウレ。


「足手まといだ!」


「でも……!」


「大丈夫!奥の手がある!」


 叫びながら前に飛び込んで熱線を躱すゼノ。

 しかし、わずかに熱線に触れ、背中が爛れる。


「先生!」


 悲痛な叫びを上げるアウレ。


「大丈夫だから早く!」


 ゼノは背中の怪我を気にすることもなく走り続ける。


「本当に!?」


「うん。ドラゴンには勝てる!」


 言いながらドラゴンの爪を躱すゼノ。

 しかし風圧だけで腹が裂かれる。


「勝てるけど!瀕死になるから!医者を早く呼んで戻ってきて!」


「……分かりました。絶対生きていてくださいね!」


「ああ!」


 アウレは迷いを振り切り、ムスキルを肩に背負って走り出した。

 ゼノはドラゴンの爪や尻尾を避けながら、魔物の群れに紛れる。

 そして魔物を隠れ蓑にしてドラゴンの攻撃から逃げる。


 しかし衝撃の余波だけで体は傷付いていく。

 挙げ句には、ドラゴンはゼノを見失ったことに腹を立て、辺り一面を熱線でなぎ払いだした。


「アウレが戻ってくるまで、少しでも時間稼ぎをしたかったけど、仕方ないか」


 ゼノは覚悟を決める。


「魔力吸収」


 瞬間、ゼノの体を眩いばかりの光が覆った。

 そして光が収まると、魔無しのはずのゼノが魔力を纏っていた。

 それも天井に着きそうなほどの絶大な魔力量。

 その赤い魔力は、まるで炎の柱のようだ。


 いや、正確には赤い魔力ではない。

 絶大な魔力と、ゼノの全身から蒸発していく血が混ざりあって、赤い魔力のように見えていた。


 では、なぜ血が出ているのかといえば、無理矢理に魔力を吸収したからだ。

 無理矢理取り入れた魔力を体が拒絶しているのだ。

 魔力が入ることによって、筋肉が、骨が、内臓が、全身が傷付いているのだ。

 そうして傷付いた全身から流れ出る血が、圧倒的な密度の魔力に触れて蒸発して、赤い魔力に見えているのだ。

 これを放っておいたら死んでしまうだろう。

 魔力吸収とは絶大な魔力を得る代わりに命を危険にさらす、諸刃の剣だった。


 圧倒的な魔力を感じて、ドラゴンは熱線をゼノに向ける。

 しかしゼノは意に介さない。


「体が持たないからね。一撃で終わらすよ」


 熱線が触れようかという時、ゼノが消えた。

 そして気付くとドラゴンの頭上高くにいた。

 魔法で瞬間移動したのだ。

 それに気付いたドラゴンは顔を上げる。

 しかしゼノは落ち着いたまま、右手をドラゴンに向ける。


「融合魔法 終極 "空界くうかい"」


 瞬間、ゼノの手の平から白い光の球が広がる。

 眩いばかりの光がゼノの手から広がっていく。

 いや、正確には光ではなく、圧倒的で純然なエネルギーの塊が広がっていく。

 すべてを飲み込んで広がっていく。

 熱線もドラゴンも他の魔物も、魔法に触れた所から消滅していく。

 そして魔物たちがいた空間全てを白い球が包んだ。

 そして魔法が消えると塵一つ残っていなかった。

 ドラゴンも魔物も全てが消えていた。

 後にはただ、半球状にくりぬかれた地面があるだけだった。


「何とか倒せた……」


 緊張が解けたゼノは魔力を纏うのもやめた。

 その瞬間にゼノの全身から血が吹き出した。

 口からも大量の血を吐いて、ゼノは落下した。

 そして地面に横たわる。


「間に合うかなあ」


 ゼノは体が冷たくなるのを感じた。

 血だまりはどんどん広がっていく。

 しかし、どうすることもできないので、目をつむり、アウレが戻ってくるのを静かに待った。

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