第19話 大乱闘

 ゼノたちはクルタリに着いた。

 人々は逃げ出し、坑道の付近では兵士や冒険者が魔物と戦っている。


「どうしますか?」


「このまま突っ込んで」


 ムスキルに指示するゼノ。


「このまま!?」


「目立った方がいいからね!」


 困惑するアウレに答えるゼノ。

 馬車を引くムスキルは速度を落とさずに戦場に突っ込む。

 時速100kmを超える速さで馬車が突っ込んでくるので、人も魔物も気付いた者から逃げて道を開ける。

 いくらか進んだムスキルは思いっきり飛び上がり、最前線までひとっ飛びする。

 そしてヴァンヘンに襲いかかっている狼を吹っ飛ばして着地する。

 そして速度を落とさずに、坑道を駆け抜ける。

 ムスキルは所狭しといる魔物をものともせずに、自分自身と魔力を纏わせ強化した馬車で次々に轢いていく。


「残党は任せたよおぉぉぉ!」


 馬車から顔を出して叫ぶゼノの声は、すぐに遠くなって聞こえなくなった。

 そして坑道は広くないので、魔物のほとんどは轢かれるか、跳ねられるかして、跳ねられなかった者も跳ねられた者に巻き込まれて吹っ飛ばされ、坑道の魔物はほぼ全てが殺されていった。


「なんだ、あれは……?」


 ヴァンヘンは呆気に取られる。

 けれども、すぐに気を取り直して立ち上がる。

 そして魔物を倒しだす。

 次から次へ襲ってこなくなったので、ずいぶん楽になる。


「この機を逃すな! 立て直すぞ!」


 味方に檄を飛ばす。


 一方ゼノたちは、坑道のずいぶん奥まで魔物を殲滅して進んだが、開けた場所に出た所で馬車が壊れた。


「キャアッ」


 悲鳴を上げて放り出されるアウレをゼノは抱き抱え、受け身を取って着地する。

 ムスキルも当然難なく着地する。


 三人がたどり着いた場所は大きくドーム状に開けた空間だった。

 そしてその空間に魔物たちが密集していた。

 坑道を通れないような10m級の巨大な魔物もいた。


「外に出すわけにはいかない。殲滅するよ」


「はい」


「了解」


 三人は戦闘を開始した。

 アウレは襲いくる敵の攻撃を冷静に受け流すと、相手の魔力の薄い所を狙って掌底を食らわした。

 衝撃は内部に伝わり、魔物の核となっている魔石を砕く。

 核を砕かれた魔物は絶命して崩れる落ちる。


 ゼノもアウレと同じように攻撃を受け流して、掌底を食らわす。

 その衝撃は食らった魔物だけじゃなく、そいつに触れていた他の魔物にも伝わり、一度に二体三体と倒していく。


 ムスキルは縄で自らを縛ることもなく、本気で剣を振るう。

 すると衝撃波が飛び、一振りするごとに数十体の魔物を切り裂いていった。


 そうして調子よく魔物を討伐する三人。

 だが、しばらくした時、


「避けろ!」


 ゼノが叫んだ。

 と同時にアウレを突き飛ばしながら横へ飛んだ。

 直後に巨大な光線がゼノたちがいた所を通り抜ける。

 そして通った後には塵一つ残っていなかった。

 地面は一直線に抉れ、その表面は溶けてマグマのようになっている。


「ぐああっ!!」


 ムスキルの悲鳴が聞こえた。


「ムスキル!」


 ゼノとアウレが急いで駆けつける。

 ムスキルは右足の膝から下がなくなっていて、血がドバドバと吹き出している。

 光線に焼き切られたのだ。

 ゼノは服を裂いて包帯代わりにして、急いで止血する。


 そこに地鳴りのような音が聞こえる。

 ゼノたちが振り向けば、坑道の奥から巨大な魔物が姿を現した。

 それは体高は10mを越え、全長は計り知れない、巨大な赤いドラゴンだった。

 口からは火が漏れ、それだけで人は消し炭になりそうだ。

 また、纏う魔力は絶大で、息ができないほどの圧倒的な威圧感がある。

 一目見て分かる。

 こいつが今回のダンジョンブレイクを引き起こしたボスであると。

 おそらくS級冒険者が十人いても勝てないだろう。

 そんな化物だ。

 いくつもの修羅場を越えてきたゼノの脳裏にも死が過った。

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