第11話 強い者

 ゼノに殴られる。蹴られる。

 その間にレイヨンの脳裏に"敗北"の二文字が浮かんだ。


 俺が負けるのか?

 ふざけんじゃねえ。

 俺はもう二度と……。


 レイヨンは昔を思い出す。


 彼は伯爵家の次男として生まれ、立派な貴族になるための教育を施された。

 しかし出来のいい兄に比べて不器用だったため、常に懲罰を受けた。

 やめてと言っても父は聞いてくれなかった。

 あげくには10歳の時、


「恥さらしめ! 出ていけ!」


 父に家を追い出された。

 行く当てがなく、その日暮らすためのお金もないレイヨンは冒険者ギルドへ向かった。

 魔法や剣術を習っていたレイヨンはクエストを受けることにしたのだ。


 ギルドの中は荒っぽい冒険者があちこちにいて、レイヨンは不安で泣きそうになった。

 どうすればいいか分からず右往左往していると、


「君、冒険者になりたいの?」


 女の冒険者が声をかけてきた。

 赤い髪を後ろにかき上げた若い女だった。


「私たちと一緒に行かない?」


 女の後ろには男女の冒険者が二人ずついた。


「本当ですか! ぜひお願いします!」


 子供の僕に優しくしてくれるなんて、なんていい人だろうとレイヨンは思った。

 しかし、


「どうして!? なんでこんなことを!?」


「ハッ、ガキを仲間にするわけないでしょ」


 レイヨンはダンジョンで服を剥ぎ取られ、手足を縄で縛られてしまった。


「あんたが売ったら金になりそうな服着てたから誘い出したのよ。まあ、さすがに子供を殺すのは気が引けるから、魔物に処理してもらうわ。運が良ければ助かるかもね」


 アーハッハッハッと冒険者たちはレイヨンを置いて帰っていく。


 なんで! なんでこんなことに!


 レイヨンは泣いた。

 でも途中で気付いた。


 そうか、弱いからいけないんだ。

 弱いから酷いことをされるんだ。

 弱いから奪われるんだ。


「アアアアアアッッ!!!」


 レイヨンは叫んだ。

 怒りが潜在能力を引き出した。

 その怒りのままにレイヨンは冒険者たちに襲いかかった。


 俺が最強だ。

 もう誰にも奪わせない!!


 血だらけの中でレイヨンは誓った。


 だから俺は――


「負けるわけには……いかねえ。もう二度と……負けるわけには……」


 レイヨンは気力で立ち上がる。

 そして叫びながらゼノに殴りかかる。

 そこで、


 ハッ。


 目が覚めた。

 ガバッと起き上がる。


「元気そうだね」


 声がして振り向くと、隣の簡素なベッドにゼノが座っていた。

 近くの椅子にはアウレが座っている。


「なんでお前らが」


「そりゃ、ここ俺たちが泊まっている部屋だからね。感謝しろよ、昨日アウレがベッド譲ってくれたんだから」


「頼んでねえよ。何が目的だ!?」


「いや、怪我した人をほっとくわけにはいかないでしょ」


「俺が仕返しするとは考えないのか?」


「その時は、また倒すだけさ」


「二度も勝てると思ってんのか?」


 レイヨンは青筋を立てながら言う。


「うん。俺は強いからね。もう一度やるかい?」


「……やらねえよ」


 レイヨンは舌打ちして、部屋から出ていった。


「いいんですか?」


 とアウレ。


「大丈夫だと思うよ。怯えや攻撃性が魔力から感じられなくなっているから」


 ゼノは微笑みながらレイヨンを見送った。



 ◇◇◇◇



「きゃっ」


 通路に出たレイヨンは宿の従業員とぶつかった。


「すみません! すみません!」


 従業員は平謝りした。

 レイヨンに怯えて震えている。


 自分の方が強いなら、わざわざ相手を屈服させる必要はない、か……。


 レイヨンは従業員を見ながら思った。


「くそっ」


 レイヨンは従業員に怒ったりせずに通り過ぎた。


「え、あの?」


「うるせえ! 仕事でもしてろボケッ!」


 言いながらレイヨンは立ち去る。


「覚えてろよ。絶対強くなってやるからな」


 レイヨンは誓った。



 ◇◇◇◇



「じゃあ俺らも出掛けようか」


「はい」


 ゼノとアウレも部屋を出た。

 すると目の前に人がいた。

 黒髪のS級冒険者ムスキル・ベーナだ。


「話がある」


 ムスキルは真面目な顔で言った。


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