第9話 VS S級冒険者
「何て言った?」
大男は凄みながら言う。
「人を殴るのはよくないって言ったんだ」
言いながら、ゼノは女性店員に手を貸して立たし、自分と大男から離れるように促した。
「雑魚が俺に指図するのか?」
大男は怒気を含んだ声を出す。
「強さは関係ない。いいか悪いかだ」
「違えよ。強い奴がいい奴だ」
大男は立ち上がった。
男の魔力で壁が軋む。
「馬鹿! 早く謝れ! レイヨンさんはS級冒険者だぞ! 怒らしたら死ぬぞ! 店も壊れるから謝れ!」
店の隅で怯えている店主が親切に教えてくれる。
「たしかに店が壊れるのはよくないね。弁償するお金もないし。やるなら外でやろう」
ゼノはレイヨンに目配せして、外に向かって歩き出した。
「必要ねえよ。今すぐ死ね!」
レイヨンは机にあったナイフを投げた。
それをゼノは振り返りもせずに避けた。
「焦るなよ」
レイヨンに向かって言うゼノ。
「粉微塵にしてやるよ」
青筋を立てるレイヨン。
睨み合う二人。
殺気がぶつかり、空気が震えた。
◇◇◇◇
二人は通りに出て向かい合った。
命知らずの野次馬が遠巻きに二人を見ている。
「大丈夫ですか?」
アウレが心配して声をかける。
「心配ないよ。それより戦いから目を逸らさないように。魔力の利用法第二弾を披露するから」
そう言うとゼノは懐から魔石を二つ取り出し、手に1個ずつ持った。
「死ぬ覚悟はできてるか?」
レイヨンは魔力を迸らせながら、首をコキコキと鳴らす。
「いつでもどうぞ」
ゼノは構えた。
一瞬の静寂。
次いで轟音。
レイヨンが地を蹴り、一瞬でゼノの眼前に現れた。
そして繰り出す鉄拳。
だがゼノは相手の動きを読める。
体を傾けて避ける。
しかし、こめかみの辺りが切れた。
ズパッと血が噴き出す。
拳は躱したが、拳圧だけで切れたのだ。
「さすがはS級」
「お前も魔無しのわりにやるじゃねえか」
言いながら、レイヨンは次々と攻撃を繰り出した。
それら全てをゼノは躱す。
躱すが傷は増えていく。
「雑魚がちょこまかと逃げてんじゃねえ!」
苛ついたレイヨンは、さらに速度を上げた。
そして繰り出す全力の鉄拳。
当然ゼノは避けようとするが避けきれない。
左腕に拳がめり込んだ。
そしてゼノは吹っ飛ばされ、野次馬たちに突っ込んだ。
そこに追い討ちをかけるようにレイヨンが迫る。
ゼノは吹っ飛ばされた勢いそのままに横に跳んで、レイヨンの拳を躱す。
しかし、
「遅え」
レイヨンの蹴りを腹にまともに食らい、血を吐き、宙へ吹っ飛ばされる。
そして5mほど上空に飛ばされたゼノに、レイヨンはすかさず迫り、一瞬で何十発と拳を打ち込む。
手足が砕け、全身から血が噴き出す。
防御することも叶わず、ゼノは吹き飛ばされ、広場の噴水にぶつかる。
噴水はたちまち赤く染まった。
「雑魚が歯向かうから死ぬんだ」
着地したレイヨンは嘲笑する。
「誰のことを言ってるんだ? 俺は死んでないぞ?」
ゼノは全身血まみれになりながらも立ち上がる。
「……しぶとい奴だ。次で殺してやるよ」
「いや、もう無理だよ」
「あ?」
「おかしいと思わなかったかい? S級の君が本気で殴っているのに、魔力で強化されていない生身の体が原形を保っていることを」
「! これは!?」
ゼノに言われ、レイヨンは自身の体の異変に気付き、驚愕した。
「ここからは俺のターンだ」
ゼノは目に垂れる血を手で払った。
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