第8話 新たな町

「この数字は?」


「えーと……4?」


「正解!」


 ゼノとアウレは丘陵地帯を歩きながら、魔力を見極める訓練をしていた。

 町である程度名を売ったので、新たな町に行く道中だ。

 そして、背後に魔石の魔力で作り出した数字を、見ずに当てる訓練の最中だ。


 しばらく行くと、新たな町が見えてきた。

 赤い壁に囲まれた、活気に溢れる町ラビラだ。

 周囲に多くのダンジョンがあり、冒険者が集まっていることから冒険都市と呼ばれている。


「うわぁ! すごーい!」


 町に入って、アウレは歓声を上げた。

 色とりどりの旗や花が建物を飾り、通りには人がごった返していた。


「ああ、すごいなあ」


 ゼノも感嘆の声を上げていると、

 ドガアッ!!

 酒瓶で頭を殴られた。

 すかさずゼノは殴り返した。


「これが冒険都市! 名前は聞いてましたけど、初めて来ました!」


 アウレはキョロキョロと町を見回しながら言った。


「せっかくだから観光しようか」


 ゼノは酒を払いながら言った。


「いいんですか!?」


「もちろん。欲しい物があったら言ってね。買ってあげるから」


「いいえ、いつまでも奢ってもらうわけにはいきません。クエスト報酬貰ったので、自分の分は自分で買います」


「うん、それがいいね。それじゃあ行ってみよう!」


 二人は観光を始めた。


 アウレには何もかもが初めてだった。

 露店で買う揚げ菓子も、新品の服を着ることも、髪飾りを着けることも。

 二人は思う存分楽しんだ。


「いやー楽しんだね」


「はい。あっ! あそこも行きたいです」


 アウレが指差した方向には賭博場があった。


「いいね。賭けは俺も初めてだ」


 二人は賭博場に向かった。

 店員が嫌そうな顔を見せたが、お金があることを見せたら通してくれた。

 中は歓声と怒号が飛び交い、熱気が溢れていた。


 まずアウレがポーカーをした。


「行きます!」


 賭けた。

 負けた。


「仇を取ってあげよう。魔力を見れば余裕だ」


「一般人相手にズルくないですか?」


「そうか? なら運で勝負しよう。運がなければここまで生きてないからね。余裕だよ」


 ゼノが席に着いた。

 賭けた。

 負けた。


「俺が、負けた……だと……?」


 ゼノは衝撃を受けた。

 他の参加者はカモが来たと思って、ニヤニヤと笑っている。


「アウレ、舐められたまま終われないよな?」


「はい!」


 二人は再度賭けた。負けた。

 賭けた。負けた。

 賭けた。負けた。

 賭けた。負けた。


 一文無しになって追い出された。


「どうしましょう。宿に泊まるお金もなくなりました」


 賭博場の外で途方に暮れて、アウレはゼノの方を見た。


「そんな……馬鹿な……。嘘だ……。俺が……負けるなんて……」


「大丈夫ですか!!?」


 アウレは、跪いて放心しているゼノに驚いた。


「ああ、すまない。人生で負けたことがなかったから動揺してしまった」


 アウレに声を掛けられ、ゼノはふらふらと立ち上がった。


「そうでしたか。さすが先生です」


 アウレはよく分からない返答をした。

 ぐうっとお腹が鳴った。


「お腹空きましたね」


「そうだね」


「でも食べれませんね」


「いや、それは駄目だ。俺は美味しいご飯を食べるために魔王を倒したんだ」


 ゼノは真面目に言った。


「でも、どうしましょう?」


「杖を売ろう……!!」


 ゼノは迫真の顔で言った。


「名案です……!!」


 アウレも迫真の顔で頷いた。



 ◇◇◇◇



「これで今日のご飯と宿泊はできますね」


「そうだね。とりあえずどっか入ろうか」


 杖を売った二人は通りを歩き、適当な料理屋に入った。

 すると、


 パリーン!


 酒瓶が飛んできた。


「遅えんだよ! 早く持ってこいよ!」


 大男が女性店員を殴る。


「ひでえことしやがる」


「馬鹿! S級冒険者だぞ!? 聞こえたら俺まで殺されるだろうが!」


 周りの客は見てみぬふりをしている。

 それも仕方ないかもしれない。

 大男は2mを越える筋骨隆々の体躯に逆立った金髪で、纏う魔力と気配も尋常じゃなく、見るからに恐ろしい男だった。


「お待ちください! 今!お作りしていますので!」


「うるせえんだよ!」


 今度は男性店員が殴り飛ばされた。

 それを見て、ゼノはツカツカと大男の方へと歩いていった。

 そして、


「人を殴るのはよくない」


 大男をまっすぐ見据えて言った。


「あ?」


 大男は青筋を立てて、ゼノを見た。

 放つ殺気が空気を震わせた。


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