第7話 VSワイトキング2
「星の子よ 頭を垂れ 死の友を拒絶せよ
"
魔法使いの女が焼け爛れた若い冒険者に回復魔法をかけた。
傷が軽くなり、冒険者の呼吸は安定した。
「応急処置はした。足手まといだから結界から出なさい」
「は、はい」
怪我をした人を二人の肩に担いで、若い冒険者パーティーは結界の外へ退却した。
残りの冒険者は大量のワイトを倒すのに精一杯で、ワイトキングまでは辿り着けないようだった。
その間にゼノはどんどんワイトを倒してワイトキングへ近付いていく。
ワイトキングが魔法を放とうするが、ゼノは砕いたワイトの骨を投げて、ワイトキングの手へ当てて、魔法の方向をずらした。
魔法は冒険者たちがいない所へ飛んで爆発し、多くのワイトを巻き込んだ。
その隙にもゼノはワイトを打ち倒して、道を切り開いた。
「ワイトは俺が倒すから、存分に戦っておいで」
「はい!」
ゼノの背を飛び越えて、アウレがワイトキングの前へ躍り出た。
間近に立つと、ワイトキングはとてつもなく恐ろしかった。
遠くで見るよりも何倍も大きく見える巨大な骸骨。
纏う魔力は絶大で、一度でも魔法を食らえば死んでしまうだろう。
それでもアウレは逃げるわけにはいかなかった。
「そんな風に産んじゃってごめんね」
お母さんの最後の言葉。
何でそんなことを言うの?とお母さんを責める時もあった。
でも、それは辛い現実から逃避するための八つ当たりだった。
言われた時に思ったことは違った。
ずっと心の隅にある考えは違った。
「そんな風に産んじゃってごめんね」
お母さんに言われた時、私は何でそんなことを言うの?と思ったんじゃない。
そんなことしか言わせてあげられなくてごめんねと思ったんだ。
生まれてきてくれてありがとう。幸せになってね。
そんな普通の親が言うことを言わせてあげられない自分が嫌だった。
魔無しに生まれて、皆に侮蔑されるような娘であることが情けなかった。
幸せになるよと言い返せない無力な自分が心底嫌だった。
でも!
強くなる方法を知った!
私は強くなる。
強くなって幸せになる。
お母さんが生んでよかったと思えるくらい幸せになる。
そのために!
今! ここで!
アウレは決意を瞳に宿し、杖を構えた。
そして突っ込んだ。
ワイトキングは掌に魔力を集める。
アウレはクエストに向かう前、ゼノに言われた事を思い起こす。
「近付けば、ワイトキングは自分の魔法で自分を巻き込んでしまうから、強い魔法を使えない。だから、とにかくワイトキングの懐に入るんだ」
ゼノの教え通り、アウレは走る。
ワイトキングが魔法を放つ。
食らえば死。
それでもアウレは、怖い気持ちを見えない振りをして前に踏み出す。
魔法が紙一重の所を通り過ぎる。
アウレは懐に潜り込んだ。
「それからワイトキングは魔法を放つ。魔法を発動するためには魔力を溜めなければならない。しっかりと見ればいつ、どこに放つか分かる」
その教え通りに、アウレはワイトキングから目を離さない。
ワイトキングの右手に魔力が集まる。
そして右腕の魔力が左手側へ動いた。
来る!と思ったアウレは逆側へ跳んだ。
直後に火弾がアウレがいた場所を通り過ぎて爆発する。
アウレはワイトキングの右手側へと回り込み、ワイトキングの纏っている魔力が薄い、右足の脛へ杖を叩きつける。
骨が砕けて膝を着くワイトキング。
いける!とアウレは思った。
その瞬間、ワイトキングの左手がアウレを叩き飛ばした。
「キャッ」
悲鳴を上げながら飛ばされたアウレは、ワイト数体を下敷きにして尻もちを着いた。
そこに他のワイトが襲いかかる。
それをゼノが蹴り飛ばす。
「ありがとうございます!」
アウレは右耳から血を出しながらも、すぐに立ち上がり、ワイトキングへと立ち向かう。
すでに周囲の骨を吸収して右足を回復していたワイトキングは、魔法を次々に撃ち込む。
それを魔力から動きを読んで躱し、懐に潜り込み、今度は左膝を打ち砕いた。
ワイトキングは膝を着きながらも左手を振るう。
アウレは後ろに跳んで躱す。
わずかに胸の服が切れる。
そこに畳み掛けるようにワイトキングは腕や魔法で攻撃を加える。
擦り傷を作りながらも、全てを躱すアウレ。
隙を突いて杖を振りかぶる。
その時ワイトキングが叫んだ。
と同時にワイトキングを中心にして、突風が巻き起こる。
アウレは吹き飛ばされる。
数メートル飛ばされたアウレは無数の切り傷ができていた。
そしてワイトキングの周囲は竜巻によって囲まれていた。
一歩でも入れば、ズタズタに切り裂かれそうだ。
「いけるか?」
「いけます」
ゼノの問いに即答したアウレは再度走り出した。
アウレには竜巻にも魔力の薄い所があることが見えていた。
そこを見極めてアウレは突っ込む。
いくつも切り傷を作るが、深くはない。
竜巻を切り抜けたアウレは、着地すると同時に転がって、ワイトキングの股を抜ける。
ワイトキングが振り返る。
と同時にアウレは杖を突き上げる。
杖はちょうど振り返ったワイトキングの胸に刺さり、核となる魔石を砕いた。
その瞬間にワイトキングは瓦解して、ただの遺骨になった。
倒した!
そう思った瞬間にアウレはペタッと座り込んだ。
緊張の糸が切れて、腰が砕けたのだ。
「よくやったね」
言いながら、ゼノはワイトの最後の一体を骨を投げて倒した。
「はい。先生、私、強くなります」
アウレは呟いた。
もっともっと強くなる。
強くなって、絶対、幸せになってみせる。
だから見ててね。お母さん。
アウレは夜空を見上げて、心の中で呟いた。
その後、
「――"傷無"」
魔法使いの女がアウレの怪我を治す。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ゼノとアウレは礼を言う。
「いや、いいさ。それより君たちは強いんだな。失礼な態度を取ってすまなかった」
魔法使いの女が謝った。
「俺たちもすまなかったな」
二人組の冒険者の男も謝った。
「気にしてないよ」
ゼノは笑って許した。
「あなたたちだったんですね!」
若い三人組冒険者が近くに来ていた。
「ダンジョンで私たちを助けてくれたのは」
「ああ、あの時の子たちか」
ゼノは思い出した。
アウレと初めて潜ったダンジョンで冒険者を助けたことを。
「あの時はありがとうございました。 何かお礼させてください」
「それなら俺たちのことを喧伝してくれないか? 魔無しの強い冒険者がいるって」
「分かりました!」
若い冒険者たちは元気よく請け負った。
「あなたたちもよければお願いしたい」
「それくらいなら喜んで」
魔法使いの女も快く了解した。
他の冒険者も了解した。
「魔石の回収とかは他の冒険者がやってくれるから、帰りましょう」
魔法使いの女が言った。
皆、町へと足を向ける。
「はあー、終わったあ」
アウレは後ろに手を着いて、気の抜けた声を出した。
「大丈夫? 立てる?」
ゼノは手を差し出した。
「あ、はい」
ゼノの手を取り、立とうとするアウレ。
でも力が入らなかった。
「ごめんなさい。腰抜けちゃって立てません」
テヘヘと笑うアウレ。
「じゃあおぶって帰ろう」
「ありがとうございます」
アウレはゼノの首に肩を回し、よいしょとゼノはアウレを背負った。
そしてアウレをおぶって、町へと歩いた。
「よく頑張ったね」
いつの間にか寝息を立てていたアウレに向かって、ゼノは労いの言葉をかけた。
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