第3話 ゼノの実力

「さっそく始めよう」


 ゼノとアウレは冒険者ギルドを出ると、広場でさっそく強くなるための特訓を始めた。


「まずやるのはこれ」


 ゼノは魔石を3個、懐から取り出し、指の間に挟んだ。


「発光」


 ゼノが魔法を唱えると、魔石が光りだした。

 左の魔石が強く光り、右にいくほど弱くなった。

 十秒ほどで光は収まった。


「この魔石に残っている魔力が見えるかい?」


 ゼノは言った。


「えっと、右の魔石に一番残っています。真ん中には少し。左のには残ってないです」


「そうだね。右と真ん中には魔力が結構残ってるね。でも左にもわずかに魔力が残ってるんだ」


「そうなんですか? 見えないですけど」


「本当に? 注意深く見てみて」


 そう言われて、魔石に近づいてしかめっ面で凝視するアウレ。

 すると魔石の輪郭を覆うように、わずかに魔力が淡く揺らめいているのが見えた。


「あっ! 見えました」


「見えた? よかった。でも凝視しなくても見えるようになってもらいたいんだ。そのために毎日魔石を見てもらう。慣れてきたら魔石が纏う魔力をさらに少なくしていく。そうして魔力を見極める力を鍛えるのがこの訓練だ」


「これで強くなれるのでしょうか?」


 アウレは少し不安になった。


「なれるよ。魔力を見極められるようになると……いや、言葉で説明するよりも実際に見てもらった方が分かりやすいかな。着いてきて」


 そう言ってゼノは歩きだした。



 ◇◇◇◇



 二人は町の近くにあるダンジョンにやって来た。


「さあ、やっていくよ」


 言いながら、二人が通路を歩いていると、奥からゴブリンが数匹現れた。

 子供ほどの大きさで、緑色の肌と尖った牙と爪を持ち、骨や牙で作られた斧や短刀を装備している。


「キシャアアアッッッ!!!」


 彼らは凶暴で、さっそく襲いかかってきた。


「ひっ」


 アウレは恐ろしくて悲鳴を上げる。


「大丈夫だよ」


 ゼノはアウレを庇うように前に出て、杖を構える。


「魔力を見極める力を鍛えるとね、相手の動きが読めるようになるんだ」


 言いながら、飛びかかってきたゴブリンの斧を屈んで躱したゼノは、杖でゴブリンを殴り飛ばした。


「生き物は動く時、無意識にまず魔力が動きたい方へ動くんだ」


 言いながらゼノはゴブリンから目を離さない。

 ゼノの目にはゴブリンの体を纏う魔力が見えている。

 それも常人には見えない薄い魔力まで。


 一体のゴブリンの右腕に纏っている魔力は、薄く上に伸びている。

 一拍置いてゴブリンは右腕を振りかぶった。

 事前に分かっていたゼノは振りかぶったところに、間髪入れずに攻撃を加えた。


「あと動揺すると魔力は揺れるし、力を入れている部位に集まる」


 ゼノの目には、生き残っている最後のゴブリンが動揺しているのが手に取るように分かった。


 ゴブリンは右腕に持つ短剣を振り下ろしてきた。

 しかしゼノはそれに反応しない。

 ゴブリンの短剣は途中でピタッと止まった。

 次いで左手がゼノの脇腹に襲いかかってきた。

 それをゼノは難なく杖で弾いた。

 ゼノにはゴブリンが右腕ではなく左手に力を入れているのが、纏っている魔力から分かっていた。

 だからフェイントしてくるのを予想できていたのだ。


 ゼノは杖でゴブリンの顔を思いっきり殴って倒した。


「あと……」


 話しながらゼノは身を屈めた。

 直後、ゼノの頭があった場所を何かが通った。


「魔力を見極める力を鍛えると、こういう風に死角からの攻撃にも対処できるようになるんだ」


 ゼノは振り返り、杖で上を示した。

 アウレが見上げてみると、天井に人ほどの大きさの黒いサソリがいた。

 ゼノは目で見ずとも、魔力を感知して周囲の状況が分かっていた。


 ガシガシガシッ


 尻尾の攻撃が外れたことに苛立っているのか、サソリは何度も牙を噛み合わせた。

 そして再度ゼノに向かって尻尾を放った。


「それと纏っている魔力が薄いところは脆いんだ」


 言いながら、ゼノは杖を回転させて尻尾を弾いた。

 弾かれた尻尾は上に向かい、サソリの背中に突き刺さった。

 サソリは瞬く間に痙攣しだし、地面に落下した。


「できることは、だいたいこんな感じかな」


「す、すごいですね……」


 アウレは驚いて、言葉が出てこなかった。


「これくらいならアウレもすぐできるようになるよ。なんなら、もっともっと強くなれるんだから」


「これよりも?」


「うん。せっかくだから、どれくらい強くなれるか見せとこう」


 そう言って二人はダンジョンを奥へ進んだ。


 狼や猿の魔物を倒し、途中ピンチに陥っていた新米冒険者のパーティーを救ったりもしながら、どんどん階層を下っていった。

 そして最下層、十階層のボス部屋へ辿り着いた。

 部屋には体高が人ほどで、全長が20mを越える紫色の大蛇がいた。


 アウレを入口の所に待機させておいて、ゼノは進み出る。

 そこに大蛇が大きく顎を開けて飛びかかる。

 横に跳んで躱すゼノ。

 間髪入れずに尻尾を振り下ろす大蛇。

 ゼノは杖で受け流す。

 大蛇はさらに二度三度と尻尾を振るうが、ゼノは全てを躱し、杖で大蛇の胴を殴った。

 鱗が飛び散る。

 でもそれだけ。

 大蛇にはほとんどダメージが入っていない。


「これじゃ埒が明かないな」


 ゼノは大蛇と距離を取る。

 なかなか相手を仕留められないことに苛立った大蛇は、再度顎を大きく開けてゼノに飛びかかった。

 避けられないように大きく大きく顎を開けて、相手を丸飲みする算段だ。

 しかし、これをゼノは避けようともしない。


 大蛇の顎がゼノの左右に大きく開いた時、ようやく杖を胸の辺りに水平に構えた。

 大蛇が顎を閉じ始める。

 瞬間、ゼノは杖をそのままに、上へ飛び上がる。

 大蛇は勢いよく口を閉じた。

 結果杖が頭と下顎を貫いた。

 そして大蛇は死んだ。


 ゼノはダンジョンを踏破した。

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