第2話 教えてください!
「あ? 文句あんのか!?……! また魔無しかよ。萎えるわ。死ねよ」
アウレに怒っていた冒険者は声のした方に振り返り、そこに髪と眼が白い男が立っていると分かると露骨に不機嫌な表情になった。
「そういう暴言はよくないな。これからはやめてくれ」
髪と眼が白い男――ゼノは静かに言った。
「……は?」
まさか魔無しに説教されるとは思っていなかった冒険者は声を失った。
「何があったの?」
ゼノは腰を屈めながら、アウレに尋ねた。
「え!? あっ、私がぶつかってしまって、その人の服にビールがかかってしまったんです」
突然話しかけられ動揺しながらも答えるアウレ。
「そっか、じゃあ……」
そう言うゼノの言葉は、
「魔無しが偉そうに指図してんじゃねえよ!」
怒った冒険者に殴られて遮られた。
ゼノはギルドの外まで吹っ飛ぶ。
「あっ!!」
アウレは悲鳴を上げた。
自分に助け船を出してくれた男の人が死んでしまったと思ったから。
「ハッハッハッハッ!! 魔無しが調子に乗るからだ!!」
冒険者は高笑いした。
彼もゼノの死を確信していた。
しかし、
「死んでないよ」
ゼノは服に付いた砂埃を払いながら立ち上がった。
この程度では死なないよ。
何度も死線を越えてきたんだから、とゼノは心の中で呟いた。
そして思い浮かべた。
魔王を倒すための旅の日々を。
毒沼や燃え盛る山を歩いた時のこと。
三日三晩戦い続けた時のこと。
手足を失っても戦い続けた時のことを。
「なんで生きてんだ!?」
冒険者は驚く。
「別におかしいことじゃないよ。俺は相手の動きを読めるんだ。だから君が殴るのも分かっていた。分かっていれば簡単さ。君が殴るのに合わせて、杖でガードして、タイミングよく後ろに飛べば、衝撃を軽くできる」
ゼノは答えながら、ギルド内に戻ってきた。
「相手の動きを読めるだと? ふざけたことぬかしてんじゃねえぞ」
「信じなくてもいいよ。それより彼女にひどいことをしたことを謝ってくれないか。俺を殴ったことは許すし、服は弁償するから」
「あ? なんで俺がそんなカスに謝らないといけないんだよ?」
冒険者はピキピキと青筋を立てる。
「そうか、なら体に教えるしかなさそうだ」
ゼノは手首を伸ばしながら言った。
「俺が教えてやるよ。生意気な奴は死ぬことを」
冒険者は腰に佩いた剣を抜いた。
冒険者の魔力が膨れ上がる。
そして一瞬でゼノの目の前に来ると、右袈裟に剣を振るった。
それをゼノは屈んで躱した。
そして、
「まず人を侮辱してはいけません!」
冒険者の鳩尾に杖を叩きつけた。
「ッ効かねえよ!」
冒険者は剣を振り下ろした。
ゼノは半身になって躱すと同時に、剣を杖で叩いた。
勢いを加えられた剣は止まらずに、床に刺さった。
剣を抜く分だけ、冒険者の動きが一瞬遅れる。
その隙を見逃さないゼノ。
「無闇に暴力を振るってはいけません!」
冒険者の顎を蹴り上げた。
「ガッ……!!」
まともに食らった冒険者は剣を落として、二歩三歩と後退りした。
「雑魚が調子に乗るなよ!!」
怒り狂った冒険者はゼノを捕まえようと、両腕を広げて覆い被さってきた。
それをゼノは上体を屈めながら、冒険者の横に回り込んで躱す。
そして、
「最後に!」
冒険者の頭を掴む。
「悪いことをしたなら謝りましょう!!」
アウレの足下におもいっきり叩きつけた。
床にめり込んだ冒険者は白目を向いて動かなくなる。
あたかも土下座しているかのような体勢だった。
まさか魔力を持っていない人が冒険者に勝つなんて!と、アウレは開いた口が塞がらなかった。
信じられない気持ちだった。
周りの冒険者たちも同じ気持ちだった。
「嘘だろ……」
「B級冒険者が魔無しに……!?」
皆驚いている。
それを見てゼノは思った。
これだけインパクトがあったら、ここにいる人たちは今後、魔無しの人たちを殴ったりするのを躊躇してくれるだろうと。
それからゼノはアウレに声をかけた。
「大丈夫? 立てる?」
「あっ、は、はい」
手を貸してアウレを立たす。
「ありがとうございます」
「怪我はないみたいだね。よかった」
ゼノは優しく笑った。
「あ、あの! 強くなる方法を教えてください!」
アウレは地面に頭が着くほど、深く頭を下げた。
この機会を逃してはいけないと思ったから。
アウレは魔無しを理由に蔑まれてきた。
それに逆らおうなんて考えもしなかった。
逆らっても勝てないと分かっていたから。
でも違った。
周りに従う以外の道があるのだと知った。
もし叶うなら、普通の人みたいに幸せに暮らしたいと思った。
だから必死にお願いした。
どうか教えてくれるようにと、祈るようにゼノの返事を待った。
「いいよ」
ゼノは笑顔で答えた。
「俺はゼノ。これからよろしくね」
ゼノは右手を差し出した。
「私はアウレです。よろしく、お願いします……!!」
アウレはゼノの手を両手で握り、嬉し涙を流しながら言った。
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